69話 パスタ情報網

 護衛という形だったが、特に何事もなくカヴァッラの街へと辿り着いた。

 帝都に向かう整備された主要街道から見て、安全度も高かったのだろう。

 その区間で短いながらも護衛依頼を受けられた事が幸運なのかもしれない。


「いやいやいや、楽しかったよ。おかげで快適な旅が出来た、馬車はいいね! それに道中で作ってくれたトリュフのパスタは実に美味しかった! 新鮮な上物のトリュフの芳醇な香りと味はレディスタの高級料理店にも勝る体験だったよ」

「食材が良かったからですよ。パスタとの相性も良いですし」


 このトリュフも古の大森林で収穫できる食材の一つだ。

 高級食材なので可能なら交易品にした方がいいのだけど、やはり食品類はどうしても鮮度というものがあるし、限度を超えればダメになってしまう。

 かといって採集に適した時期は待ってはくれないので、交易ルートが見つかるまでは自分達で美味しく頂くしかないのであった。


 まぁ、トリュフの場合は乾燥させて保存したり、トリュフオイルやトリュフバターなどの調味料に加工も出来るのだけど。

 あいにくとオイルもバターも村では生産はされておらず、仕入れてくる必要がある。

 それに、やはり新鮮なものはまた味わいが格別なので少し持ってきたのだ。


「快適な旅で送ってもらった上に大変美味しいものを頂いたんだ、こちらもお礼を返すのが筋というものだね」


 うーん、と唸って、考えるポーズと共に天を見るイオニアス。

 普通の仕草なのだが怪しい仮面のせいでなにやらシュールな光景であった。


「1か月後に隣国グローディア王国のラケティの街に行くと良い。そこには当代随一の鍛冶職人が住んでおり、君達に協力してくれるだろう」

「1か月後?」

「移動するだけで半月ぐらいはかかるだろうし、出発するのは2週間後ぐらいがいいんじゃないかな」


「え? でも僕らはヴァルバリアに交易品を……」

「うん、もちろんその後で大丈夫。ヴァルバリアで10日ぐらいゆっくりしてから向かえばいいさ。……いやいや、あくまで役立つかもね、っていうあやふやな情報さ。こんな時、彼なら選択する姿を楽しむんだろうけどね」

「え? あの? 彼?」

「ああ、ごめんごめん。要するに、後は君達次第って事さ。それじゃあね~」


 腕を振って怪しい仮面の男は去って行った。

 なんともよくわからないが、妙な所だけ詳細な情報を残して。

 吟遊詩人の情報網が凄いのか、情報を分析し推測しているであろうイオニアスが凄いのか、あるいは両方なのか。

 ともかく、何かがありそうな情報を手に入れた。


「カデュウ。あの怪しい仮面の人、斬らなくていいんです?」

「斬っちゃだめだよ!?」

「でも、怪しいです。お金になりそうですよ」


 唐突に物騒な事をアイスが口にする。

 純粋そうな瞳でそんな事を言われても困るのだ。


「どんな発想してやがんだ……?」

「護衛依頼が終わった途端に斬って追いはぎとか、外道すぎるぞ」

「うちの団でもそこまではやった事ないよ、アイスは凄いね」


 呆れ顔で驚くシュバイニーに同意せざるを得ない。

 ソトやユディも引いている。


「やるなら報告をしてから、ばれないようにしないと」

「何言ってるの!?」


 明後日の方向のアドバイスを口にするクロスさん。

 冗談だと思うけど、冗談だよね?


「なにはともあれ、依頼達成だな。こんな依頼ばかりなら楽でいいんだが」

「ギルドに報告して、目的地へ向かう依頼でもあればまた受けていきましょう」


 報告書類を預かったソトに、クロスが穏やかな笑顔を向ける。


 その光景を微笑ましく思いながら、カデュウが街を見渡すと少し変わった建築物が目に止まった。

 アーチ状の水道橋が街を横断しているのだ。


「ここはミルディアスの水道橋がまだ使われているんですね」

「大陸全土に街道や水道などを張り巡らせたというが、魔王降臨とその後の争乱でほとんどは崩れ去った。こうして現存している上に実用されているのは珍しいな」


 何気ないカデュウの発言に、ソトの解説が加えられる。


「それだけこの辺りは戦乱が少なかったって事だね」

「よくわかっているじゃないか、ユディ。イルミディム西側諸国の小さな争い事は日常茶飯事だが、ゴール・ドーンは強大なので攻められる事が少ないし、攻め入る事もまずない」


「へえ。大人しい国なんでしょうか?」

「少なくとも逆らわない他国にとってはな。いやまあ、その時代の皇帝の気分次第なんだろうけど」


「それじゃあ、冒険者もそんなに需要はないのでしょうか」

「平和っていっても魔物は出るし、賊の類も発生しないわけではないからなぁ。護衛や配達はもちろんあるし、魔術師が多いという事は特殊な素材調達の依頼もありそうだ」


「なるほど、場所によりまた違った需要が生まれるわけですか」

「そそ。そいじゃ、ギルドへの報告に参ろうではないか、諸君」


 ドヤ顔で適当な方向に指をさすソト師匠。

 この感じ、絶対ギルドの場所がどこだかわかっていない。


「ソトはこんな時だけ指導者っぽい」

「おいおい、ユディ。私はいつでも頼れるベテラン冒険者だろー」

「さすがです、ソト師匠!」

「さすがのタイミングおかしくない? ねえ?」


「……ししょーはいつでもたよれる、グルメのベテラン」

「さすがです、ソト師匠!」

「馬鹿にしてんのかー、馬鹿にしてんだろー。くそう、カデュウに任せて飲んだくれてやるからなー」


 そう言う所だけ敏感なソト師匠がすねた顔でご機嫌斜めです、と全身アピールをしている。

 なんだかかわいらしい。飲んだくれるのはどうかと思うけど。


「いつも丸投げじゃないですか……。ここにはビールはなさそうですけど」

「小麦ジュースなくとも、ぶどうジュースがあるさ。なんか発酵してる系の!」

「正式名称ワインって言いません、それ?」

「熟成発酵ぶどうジュースとかそんな感じだ」


 ワインを飲む気満々の師匠であった。

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