68話 ゴール・ドーンの事情

「公にミルディアス帝国の後継を自称する大陸南東の大国ゴール・ドーン。かの古の魔術帝国の伝統がこの国では今も受け継がれているんだ。そのうちの一つがその特殊な継承法。一般な継承法では長子継承や分割相続が用いられるのだが、ゴール・ドーンでは男系魔力継承法と定められている。もっとも魔力の強い子が皇帝となるという、変わった制度だね。魔術国家ならではと言った所か」


「ソト師匠じゃ絶対皇帝になれない制度ですね」

「とんでもない国だ、滅ぼしてしまえ」


 実際、魔力の多さで後継者を決めても国政とさほど関わらない要素のような気はする。

 あるいは、魔術国家としての体面を重視しているのかもしれない。



「現在の皇帝がウッドウォート・ミルディアス。その魔力は歴代でも屈指のもので、ついにミルディアス帝国の復興がなされたと国中が歓喜に沸いた程だ。今現在においても大陸中でウッドウォート帝に勝る魔力の持ち主はいるかどうか……」


「ウッドウォート帝はそれのみにあらず、内政においても軍事においても名君と呼ばれるに相応しい働きをしていたのだけれど……。近年、愉快な展開になってきててさ。率直に言ってしまえば頭がおかしくなったんだ」


「ある日、何の落ち度もなかった大臣を解任し、その後任にとんでもないものを据えたんだけどね」


「――なんと、馬だ。自分の愛馬を大臣に任命したのさ、凄いだろう?」

「馬!?」


 よく通る声で歌うように語るイオニアスの話は、冗談のような内容であった。


「もちろん、国政は大いに混乱した。馬大臣殿には腹案があったかもしれないが馬語は理解しかねるのでね、ハハハ!」


 それはもう見事に完璧に頭がおかしい。

 だからといって取り除こうにも若い頃には実績十分で地盤は固まっており、戦いとなっては強大なる魔力に対抗も出来ない。

 皇帝が正気に戻るか、皇帝が死ぬまではその混乱が続くと考えると、さぞ国政の担当者達は頭が痛いだろう。


「ちなみに家令は熊だ。いやはや、そこは将軍だろ! ってつっこみたくなっちゃうね。家令殿が大臣殿を食べちゃう日も近いかもしれないねえ」

「めちゃくちゃですね……」

「……馬もふに熊もふ。犬もふや猫もふ、羊もふも用意すべき」


 もふもふ好きのイスマが何か言っておられる。

 この子はそれらが無くてもベッドもふしてればご機嫌な気がするのです。


「そうか。村にはもふれるベッドが無いからちょくちょく寝床に忍び込んで」

「……もふもふベッドがなければ、カデュウにくるまればいいじゃない」

「ははは。何の話だい?」


 上に乗っかかられたりしてると眠りが妨げられるし起きた時疲労が溜まってしまう。

 早急にベッドの手配が必要なのかもしれない、とかは置いといて。

 イオニアスの話を続けてもらった。


「そんなお偉い動物様達は当然のようにスルーされ、普通に下の者達が今まで通り仕事する事になったらしい」

「話を聞こうにも意思疎通は出来ないだろうしなぁ……」


「ま、こんな感じで頭が素敵な具合になってしまったわけだ。心ある者が異論を唱えた事もあったが、その強大な魔力によって公開処刑にされてしまった。こうなるともう誰も何も言えないよね」


 まともな助言にも耳を貸さず、逆に処刑してしまうとなると、国政に与える影響は多大な物になるだろう。

 良識ある者は息を潜め、悪意ある者は媚びへつらう体制が出来上がる。


「さらに政治的な方針自体も大分強硬な向きになってきた。元々その気はあったのだけど、完全に魔術偏重主義の国にしてしまったのさ」

「ああ、それで交易品も魔導学院を通せって……」


「おやおや、よほど良い品を持ってきたんだね? その通り、良い物はまず魔導学院に集めなくてはならない。魔術に関係のないものなら普通なんだけどさ、まあそんな調子だから国全体が暗くなっちゃって、あちこちで問題が起きているんだ。そして――」


「――そう、そして。その隙を伺う、別の国がある」


「それは偉大なりしマルク帝国。今最も勢いのある巨大にして強大なるかの大帝国は、別大陸の国だが隣国でもあるんだ。過去にはウッドウォート帝の力によって敗れ去ったのだけど、当然今の状況ならチャンスと見るよね」

「知らなかった……。イメージでは結構平和そうな地方だと思ってたんですけど」


「ま、そんな国同士の事はさておき。大事なのは、職人達が国の状況に不満を抱えているって話さ。私の聞いた限りでも結構な人数が別の国に行く事を考慮していたねえ。だから良い条件の話なら、割と好意的に考えて貰えるんじゃないかな。

君達の村とやらがどんな魅力を提供出来るのか次第だけどね?」

「そうですよねえ。移住するにしても普通は他の街に行きますよね……」


「開拓者の辛い所だ。過去の開拓者たちも同じように苦労してきたのさ。吟遊詩人の叙事詩の中にそういうのあるよ。君達もそのうち楽しい物語になってくれ」

「開拓の事も吟遊詩人の歌にあるんですか。……あれ? 開拓者だって言いましたっけ?」


「ハハハ! 冒険者なのに村の事を考えるとしたら開拓者じゃないか、とそう思っただけかもしれない。あるいは、知っていたのかもしれないよ? どうだ、疑わしく思えてきたかい? そう、私が真犯人なのだよ!」

「何の犯人ですか。まぁその仮面の時点で十分怪しいのですが」

「え!? そこなの?」


 そんな意外そうな反応をされても逆に困る。

 怪しくないとでも思っているのだろうか。


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