60話 転移陣式交易法

 安全の確認も済み、問題なかったのでイルミディム地方向けの準備が行われていた。

 といっても、特別変わった用意があるわけではない。

 主な交易品となるのは森で集まった薬草香草きのこの類、革、魔物の素材などである。

 薬草香草きのこなどは産地の需要によって相場も異なるので、イルミディム地方において高値で売れるものを特に選んでいた。

 転移陣ですぐに移動出来るというのは時間、手間、保存、価格などなど、あらゆる面で有利なものだ。


「北に行けば北の植物が、南に行けば南で取れる植物があるんじゃえ。この森はでっけえからのぅ、ほんに色々なものが生えちょるわ」


 採集の専門家、エウロ婆さんに草の効能などを聞きながら、馬車に詰める準備を行っていた。

 ここ古の大森林では大抵の種類のものが採集出来るらしい。


 薬草と香草では扱う商会も少し変わってくるし、自分達で使う場面もあるだろう。

 カデュウにも一通りの知識は仕込まれているが、専門家の豊富な経験には敵わない。

 はじめて聞く薬草もあって、カデュウも興味深くその話を聞いていた。


「うーん。これだけ一杯あるなら、ハーブティーの販売をしてもいいかも」

「あんなもん金になるだかや?」

「ええ、身体に良い作用が働くというので、一定の層には人気がありますね」


 それにはティーカップが必要になる。

 出来れば旅に用いる食器類も欲しいところだ。

 さっそくターレスの窯を訪ねてみた。


「ほう、そういう事なら沢山試作品がある。好きなだけ持ってい来たまえ」

「凄い、こんなに作ったんですか」


 ターレスが指した奥の倉庫の机には、100以上はあろうかという様々な磁器が置かれていた。

 絵付けのされているもの、されていないもの、どれも美しい出来だ。


「はは。ここの土が良すぎてね、土の配分や釉薬の技法を色々試しているせいもあって作り過ぎてしまったよ。……ああ、そうだ。街に行くならついでにそこらの磁器を売ってきてくれ。村で使う日用品は別にあるから全部持って行って構わんぞ。売れたら釉薬を買って、後は村で使う資金にするがいい」


「ありがとうございます。それでは、また村の方はお願いしますね」




 開拓村の中央部に戻ると、ゾンダがカデュウを見てやってきた。

 所持する武器が日によって異なるのだが、今回は大剣と斧のようだ。


「おう、カデュウ。ここにいたか」

「ゾンダ団長、どうしました?」

「イルミディムに行くんだってな。俺らも仕事しに行くから連れてってくれ。しばらくゆっくりと休日を楽しんでたが、そろそろ戦争したくなってな」


 天気のいい日に散歩に行くような明るさで、ゾンダが手を掲げ広げる。


「傭兵に行くんですか? 転移出来るようになったのでは……、ってそうか。人数が多いから一度に行けないんでしたね。わかりました、協力します」


 傭兵団の馬車は2台あるが、一度に運べるのは1台のみだ。

 それに一応現場を見てきた者として、道案内もあった方が無難だろう。


「全員出撃されるんですか?」

「ああ、そうらしいぜ。お前らと行動する2人は別だが、……まぁ、近くに来たら顔でも見せに来て飯作ってくれや」

「あはは、料理番ですね。タイミングが合いましたら、見物に寄ってみます」


 そこへ、ルクセンシュタッツの将軍アレク・ファルネーゼも顔を見せた。

 普段は工事の手伝いや農作業などをしている元ルクセンシュタッツ軍の兵士達だが、傭兵団と組んで狩りに出かける事も少なくない。

 意外に揉め事が起きないのも、アレクが兵達に厳しく言い聞かせている影響もあるだろうが、彼らもすっかり打ち解けているからだ。


「これはカデュウ様、ご機嫌麗しゅう御座います。それと、ゾンダ殿ですか。何でもこれから傭兵の働きをしに出張されると聞きましたが……」


 ナチュラルにカデュウの事を姫のように扱うアレク。

 それもこれも全部クロスって奴のせいなんです。


「アレクか。そろそろほとぼりも冷めただろうし場所も違うから大丈夫だろってな。、そろそろ戦争してえんだよ。イルミディムは行った事ねえけど」

「……ふむ。果たして望み通りになりますかどうか」

「どういう意味だ?」


 なんのこっちゃいという表情で、ゾンダはその意味を問いただした。


「私も関わりのない地方ですし詳しくはないのですが……。イルムディムでは小競り合いが多く、真剣さに欠けているかもしれません

「ほーん。要するにいつものアレだろ、クソ上司ばかりって事だろ。なぁに、少しぐらいなら我慢してやらあ。少しじゃなかったらそこがそいつの命日になるが」


 ゾンダに比べれば、まだやらかしてはいないアイスは可愛げのある方だろう。

 こちらのお人はとても手に負える気がしなかった。


「出来ればカデュウ様達がいないときにお願いします。王殺しの共犯になるとこの先、外部との交易もままならないでしょうから」

「そりゃそうだ。はっはっは!」

「ほんとお願いしますね、そこ」


 近くにいる時にやらかしてくれそうで怖い。

 地位の高い人は特にまともな話の通じない人種が多いからなぁ。

 そうでなくとも軍隊そのものが厳しい規律の環境で育っているから、どうしても理不尽な会話になりそうだし。


「村の守りは我らにお任せ下さい。存分に楽しんでこられるが良いでしょう」

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