53話 これは、伝説を覆すための物語 前編

 フェアノール族と協力していく為の条件。

 “星の幻想”による、試練を果たす事。

 時期が不明という事で先延ばしにされていたのだが、ついにこの件に対処する時がやってきた。


「新しいお友達、カデュウ。あなた女の子になったの? びっくり、幻想的ね」

「自分でもなんでこんな格好しているのかよくわかりません……」


 まず最初に言われたことが、コレである。



 

 もうこの反応にはすっかり慣れていた、困った事に。

 服を新調して以来、村を歩くと、いつもと異なる声を聴くようになっていた。


「カデュウちゃんの為に俺、頑張れるよ!」

「フルトさん、頭大丈夫ですか?」


「私の事はお姉ちゃんと呼んで構いませんよ、立派なエルフに育てます」

「何でお姉ちゃんなんですか、エルバスさん!? あと、ハーフエルフなんですけど」


「ビューッティフゥーッ!! 石像を作るからちょっとそこに立っていたまえ!」

「石像はいりません、ターレスさん。その辺にエルフの人がいるでしょ、そっちにして」


「めんこいのぉ。ほれ、きのこさ食え」

「ありがとうございます、エウロ婆さん。あとでパスタにしますね」


「カデュウお姉様、素敵です!」

「レティシノちゃん、……ありがとうね」

「凄い複雑そうな表情してる」


 おまけに、解放した奴隷の女の子達からお姉様扱いをされていた。

 おかしい。他に慕うような女性一杯いるのに、なんでこんな目に……。


 ただ単に最も強力な装備をしただけなのだ。効率を求めたらこの仕打ちである。

 服を作る際に、クロスによるいかれた注文と、いかれたマエストロによって、何故か男性に女性用の服を作りやがったのが悪い。


 ……女性用の服ならついでに作ってもらえるという誘惑に屈したカデュウも悪い。

 まさかここまでの呪いがつきまとうとは思ってもみなかった。




 ともあれ、そんな日々が何日か続いた後の、試練を告げる声である。

 開拓村の皆が集まって来て、何を行うのか興味津々で見守っていた。


 試練の結果を確認する為に、大森林の各エルフ部族達も見物している。


「達成条件を伝えます。それは、この地の怨念を晴らす事」


 ルチアの語るその内容は、とても壮大な条件に聞こえる。

 どういう事なのだろうか。


「これから、選抜した者達に、とある相手と戦っていただくわ」


 ここではない何かを見つめながら、ルチアの手がかざされる。


「資格持ちし者よ、呼応しなさい」


 身体が、光る。

 薄っすらとした光だが、これが資格なのだろうか。


「僕? まあ、責任者だから仕方ないけど……戦いには向いてないですよ」


「あん? 俺も資格あるのか?」


 見物していた傭兵団の中から声が上がる。

 強い光を放ち、ゾンダ団長が前に出た。


「私もぴかぴかしてますよー」

「私は光ってないぞ、何故だ!」


 ソト師匠は選ばれなかったらしい。

 光っている者は、カデュウ、ゾンダ、アイス、クロス、ユディ、エルバスの6名。


「あら、4人までなのだけれど。それじゃ役割の適正はみながら決めましょう」

「人数制限があるんですか」

「それぞれ、ハーフエルフ、ドワーフ、エルフ、そして主役を選びます」

「ほぉん? 劇みたいだな?」

「ドワーフ役の適正者が2名いるわね、どちらか1人を選んで」


 ドワーフ役の候補者はゾンダ団長とエルバスであった。


「なんだかわからんが、楽しそうだ。俺でいいだろ。な?」

「ええ、団長にお譲りしますよ。エルフの私がドワーフ役っておかしいでしょう」


「で、エルフ役も2名いるけど、お好きな方1人を選出して」

「エルフに相応しいのは、姫である私でしょう?」

「私の方が一応エルフの血引いてるし」

「待ってください。何故エルフの私がエルフ役で選ばれてないのですか!?」


 ドワーフ役候補のエルフさんから苦情があがった。


「ぷっ。エルフの癖にドワーフ役で選ばれる脳筋エルフがいるらしい」

「地味フルト、派手に散りたいのですか」


 瞬時に首根っこを掴まれ、フルトは片手で持ち上げられた。


「すんません、やめてください。命ばかりはお助けを」


「あっちは良いとして、エルフ役はどうしよう」

「どちらかというと魔術が使えた方がいい気がするわね、役割的に」

「それじゃあ、私になりますね。魔術はあまり得意ではないけれど」


 ユディに見せつけるような自慢げな表情でクロスが前に出た。


「ぶーぶー。エルフなのにー」

「お前はドワーフの血も人間の血も混ざってるけどな」


 父親のゾンダ団長から、予想外の話が飛び出す。

 エルフとドワーフと人間の血が混ざっているとは、滅茶苦茶珍しいのでは。


「そうなんですか? その場合、種族的になんて呼ぶんでしょうね?」

「略してハーフエルフでいこうよ」


 ドワーフの血は無きものとされた。

 酷い差別だ。


「俺がドワーフとエルフの子で、お前のカーちゃんは人間だから、……ハーフドワエルじゃねえか?」


 ドワエルとかいう新種族が生まれた。

 いや、以前から居たのかもしれないけれど。

 しかしドワーフとエルフの親を持つ人、というのは他に知らない。


「ドワエルって響きはちょっとださい」




 空が黄昏の光を放つ頃。

 光と闇が入れ替わる境目。

 古なる神話の時代に災厄と魔物の神バスコが躍動したとされる黄金の時。

 遥かなるはじまりの民が曰く、逢魔が時。


「さ、それじゃ試練の参加者は集まって」


 前に出る。参加者、カデュウらがルチアの前に揃い立った。


「約束通り、お手伝いをお願いするわ」

「……やってみよう」


 イスマに向かってルチアが語り掛ける。

 約束? イスマと知り合いなのだろうか?

 あるいは、最近知り合った?


「これより行うは、歴史の再現。怨念の解消。伝説への挑戦」


 周囲から、ルチアの周りから、仄かな輝きが生まれる。

 幻想的な輝き。


「星は謳い、幻想が満ちる。魔と精霊が躍る、その刻」


 魔術陣のような何かが、高速に1本1本広がっていく。

 陣は高さを変え角度を変え大きさを変え幾重にも重なる、何重にも何重にも。

 儚い光を放つ、魔術ならざる輝きの線。淡い淡い、この世ならざる不思議な光。


「地に眠りしモノ、魔を宿せしモノ、積もり積もりし幻想よ」

「……無は灰に、灰は灰に、灰は死に」


 そこに別の詠唱が重ねられる、イスマによる術だ。

 黒き輝きと明るく力強い光、生死を象徴するような一際変わった魔術陣。


「遥かなる時を超え、ここに星の記憶を呼び起こす」

「……死はすなわち生の証、生はすなわち死への旅路」


「輝き。光。幻想。灰は蘇る、その色を取り戻して」


 幻想と生死の光が混ざり合うい、複雑に多重に。

 そして、力ある言葉が発せられた。


「――不死王の選抜者オイ・メロポロイ・アタナトイ

「……死の大地より救いあれ、生を求める古きモノ」


「――星と厄災の物語テラーステラ・ストーリー

「おとぎ話の毒竜、魔元帥ベルベ・ボルゼよ。幻想を糧に呪縛を断ち切るが良い」


 ゆっくりと、しかし着実に仄かな輝きと共に、大きな姿が形作られる。

 それは巨大な幻獣。竜。

 世にも珍しい竜毛に覆われた伝説の毒竜。


「さあ、伝説は再臨した。見事、かの竜の怨念を晴らして見せなさい、英雄達」

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