40話 血の盟約会

 魔王降臨時代、大陸全土を支配していたミルディアス帝国が崩れ去り、各地で盗賊や暴徒の類が急増し、混乱を極めた。

 その中で生まれた互助組織は、冒険者ギルド、交易ギルドとして今も残り、人々の為にと活動している。

 そして。同じ時期に生まれた、もう一つの別の互助組織があった。


 無秩序だった裏社会に規律をもたらしたというその組織もまた、今も名を変えて残っている。


 約定保証組合。契約遵守の代行を司る番人。

 契約の安全を保障し、その安全が遂行されるかどうか、金持ち達を集めて賭博の対象とする者達。


 例えば積荷が無事に到着するかどうか、等の事象で賭け事を行い、その補償を請け負う個人の金持ちを募る。

 そして請け負った金持ちは、無事に荷が到着すれば、労せずして膨大な保証金が手に入るのだ。

 荷が無事でなければ、金持ち個人が全額の補償を負担せねばならない。


 こうした契約と保証を管理する組織である。

 いわば壮大な賭けの胴元。


 しかし、そのかつての名は、今も裏社会では著名なものであった。


 ――“血の盟約会”クローズドワード


 曰く、大陸最大の裏組織であるとか。

 曰く、大陸全ての情報が集まる闇の諜報機関であるとか。

 曰く、世界の黒幕が集う、とある会議の参加者であるとか。

 まことしやかな噂の数々が並べ立てられる、その筋の者達の伝説。


 道すがら、タックが語ってくれた噂が、このようなものだ。

 そして、実際に調べたという話の内容は、さらに衝撃的なものであった。



「その名前、確か……」

「そう、僕もあれから色々と調べたんだ。パネ・ラミデに現れた連中が話していた謎の単語。そのうちの一つ、“血の盟約会”」


 タックと共に、あの遺跡で遭遇した者達による会話に、登場したキーワード。

 あの時はそれどころではなかったが、こうして単語を耳にすると記憶が蘇ってくる。


「調べてみたら世間で盗賊ギルドと呼ばれてる組織の、その背後にいる連中だった」

「あの噂の盗賊ギルド。……その親玉、なんですか?」

「考えてみれば、盗賊ギルドなるものが各地に存在し、国家から潰されないというのもおかしな話だよ。その謎の答えがこれさ」


 わずかな冒険者としての期間以外は、ただの交易商人見習いに過ぎなかった一般人のカデュウには、実在するかもわからないものであった。

 しかし、国がまともならば、対応を考えてしかるべき相手であろう。


「その盟約会とやらの力の方が大きいから、か」

「それでも。害が大きすぎるならば、国も対策を考えるかもしれない。しかし、こいつらは何もしてこなかったのさ。盗賊ギルドなど、傘下に手を出さない限りは、ね」

「何も、してこなかった?」


 タックからもたらされた情報に、ソト師匠が疑問を浮かべた。

 犯罪集団である盗賊ギルドが何もしてこないというのは、どういう事だろう。


「徒党を組んで悪事を企むでもなく、犯罪者を匿うでもなく、単なる受け皿に徹しているんだ。冒険者ギルドの犯罪者版ってとこかな」

「裏仕事の仲介屋、って事か」

「組織そのものを国の力で潰そうとさえしなければ、むしろ受け入れてきた。個々の犯罪者を守る盾にはならなかった」

「ふむ。なるほど。あくまで仲介屋に徹するだけで、国からの仕事も受け入れたか。お偉いさん方にも後ろ暗い頼み事などいくらでもあるだろうしな」

「それならば便利な組織として利用しようって考えた結果が、今の盗賊ギルドとの不思議な共存関係、らしいね」


 世の中、綺麗事ばかりじゃないのだな、と再認識させられる。

 悪だ、倒せ、という単純な話で世界は回っていないのだと、カデュウは改めて思い知らされた。


「そんな盗賊ギルドの上に、さらにボスがいるんですか」

「そっちの大ボスさんには、とりあえず用事はない。あくまで情報を集めるのさ」


 情報。何の情報なのか、カデュウには思い当たる事があった。


「つまり、その裏の情報で、ハクアさんを探そうと?」

「いえーす。盗賊ギルド自体は、昔から使っている情報源だけどね」

「あ、そうなんですか?」

「吟遊詩人ってのは情報が大事なのだよ。だからこそ、吟遊詩人ギルドってのもあって、そこで詩のネタなんかもやり取りしてるんだ」

「色々あるんですね」


 詩人のギルドなんてものもあるのか。

 世の中、本当に奥が深い。


「表の情報は吟遊詩人ギルド、裏の情報は盗賊ギルド、そして冒険の話は冒険者ギルド、ってね」

「なるほど、考えてみればどこも情報を大切にしている組織なんですね」

「ぉぅぃぇ! 偉大なる先輩を尊敬する気になったかーい?」


 胸を張ってドヤ顔を決めるタック先輩に、ソト師匠なりの賞賛が放たれた。


「ただのうるさいチビックじゃなかったんだなー、見直したぞ」

「チビックじゃないし! 同じ種族の癖に、この金髪ロリめ!」


 賞賛というか世間一般では、挑発と呼ぶ行為かもしれない。


「どうどう。偉大なはずの先輩は騒がないですよね」

「ぐぬぬ……」

「でも、本当に凄いですね、タック先輩。そんな裏の裏のような凄い情報まで調べてくるなんて」


 カデュウの純粋な賞賛に、タックはバツの悪そうな表情を見せた。


「……いやー、ダメ元で盗賊ギルドに聞いてみたら、普通に情報売ってた」

「……え?」

「別に秘密でも何でもなかったみたい……」

「あ、そうなんですか……」


 自分の所の裏事情まで売っているとは、なかなかプロ意識が高いというか……。

 普通は聞いてみようという発想に至らない事だけども。


「というわけで、この街にも盗賊ギルドそのものではないけど、同系列の組織があるので、そこで聞いてみようというわけだよ」

「折角ですし……、僕らも行ってみますか?」

「そーだな。建築系職人の暇な奴の情報とかもあるかもな」

「そういう情報は欲しいですね」

「あまり好ましくはないですが、私も護衛としてついて行く必要がありましょう」


 少し未知の裏社会に期待感もあったが、エルバスだけは嫌そうな表情であった。

 性格的にまっすぐで汚いものが嫌いな傾向があるのだろう。


 タックの案内によって、辿り着いたその場所は、巨大な木の前であった。

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