39話 エルフの街

 エルフらしい森林の住居と、人に適合した利便性の高い街。

 キルシュアート族のエルフ街、エルブンシュタットにそんな印象を受けた。

 これも一つの森林街の最適解なのだろう、同じく街を作ろうとする者にとっての手本となりえる。


「凄いですー。大きな木の上に家があったり、空中に橋が架けられ立体的になっていたり、こんな街見た事ありませんよ」


 興奮気味にアイスが感想を述べる気持ちも良くわかる。

 カデュウもソト師匠と並び、その不思議な街に感嘆を漏らしていた。


「革新的なエルフだって聞いていたけど、ここまでとはな」

「驚きましたね。予想以上に立派な街でした」

「……へんなとこだ」

「足場が一杯あって戦いやすいね」


 人によってはイスマのような反応もあるだろうし、感心もしているはずだ。

 だが、ユディの方は物騒過ぎる。

 常に戦う事を忘れない傭兵の鑑である。


「エルフとしては思う所もありますが、人と共存をする意志は良い物でしょう」


 傭兵団のエルフ、エルバスはまともな性格の人物のようだ。

 ここまでの間では、エルフらしいエルフという印象を受ける。

 武器がバトルアックスな事を除けば。


 観光もしたいところだが、まずは用件を済ませるべきであろう。

 他の集落と違って、余所者への警戒がほとんどされていないのか、案内役になりうる警備のエルフが近寄ってくる様子もない。


「ふっふーん。どこへ行ったら良いかわからないって顔だね? このタック先輩に任せるがいいじぇ!」

「そういえば、タック先輩はこの街に来た事があるんでしたね」


「いえーす。そっちの金髪ぶってるちみっ子とは、先輩としての格が違うって事を見せつけてあげやう」

「金髪ぶってないし! 素敵に美しいプラチナブロンドの美少女だぞ!」


「自分で美少女とか、……ぷぷぷー。ちみっ子が背伸びしても可愛らしいだけですにゃー。おーよちよち」

「お前もチビだろーが!」

「まあまあ……。目立って恥ずかしいからやめてください」


 唐突に煽り合いを始めるのだから困ったものだ。

 ご機嫌斜めのソト師匠をなだめながら、タックに案内を頼み、ついていく。


「ほい、ここが偉い人のハウスだじぇ!」

「エルフにしては、エルフらしくない家なんですね」

「思いっきり金持ちらしい家だな」


 門番のエルフに用件を伝えたところ、すぐに会ってくれるという事だった。


「はじめまして、カデュウと申します」

「ようこそ。キルシュアート族の長老を務める、ターンド・パウデアと申します」


 そう名乗った男、ターンドは、太ったエルフの中年、といった印象の男で、あまり長老らしくはなかった。

 まるで人の商人のような腰の低さである。エルフとは思えない程に。


「早速ですが、私共は古の大森林の奥地で街を作っているのですが、良ければ協力関係を結べないかな、と」

「それは良いですな。文明人は大歓迎ですとも。協力頂けるとは心強い」


 驚くほど好感触、もろ手を挙げて大歓迎の対応である。


「驚かれましたかな? 我々は旧態依然としたエルフの生き方と決別し、同じ人間として共存していこうと考えておるのですよ」

「なるほど、それで街を作り、外の人々を受け入れ、交易を……」

「ご理解頂ける人間の同胞が近隣に増える事は我らにとっても利になるのですよ。取引相手は多い方が良い」

「同感です、共存共栄こそが私たちの望みです。しかし、他のエルフ族と足並みを揃えなくても良いのですか?」

「いつまでも森に引き籠って、ただ死ぬだけ。そんな人生に何の意味がありましょう。もっと交流を図るべきなのです」


 これは少々強い言葉だ。

 他のエルフ部族を、思ったよりも見下しているように感じた。

 思った以上に、各エルフ部族の意見の対立は根が深い問題なのかもしれない。


「具体的な話は貴方達の街が建てられた後の方が良いでしょうな。人員や物資の援助が必要ならば、別途交渉をさせて頂きますが」


 色々と歓迎している風を装っていたが、要するに金次第だという事か。

 人間側に適応しすぎではなかろうか、わかりやすいといえばわかりやすいが。

「その時はまた宜しくお願いします。よい感触が得られて安心しました」


 商人の色が強い相手なので、カデュウにとっては逆に安心出来る。

 お互いに、交流という点では組しやすい相手なのだ。

 謎の試練を突きつけられる方がやりづらい。


「さて、これでひとまず、各エルフ部族に話は通したので、干渉はされない事が決まりました。当面の最低目標は達成ですね」

「後は、あのよくわからん女の、いつやるのかもわからん試練ぐらいか」


 そう、ソト師匠の言う通り試練しか残っておらず、いつ呼び出されるのかもまったく不明なのだ。

 現状こなせる範囲で言えば、ノルマは達成されている。


「今日はゆっくりこの街で羽根を伸ばしましょう。タックさんも一緒に泊って行きましょうよ」

「別れが寂しいとは、まだまだボーイじゃのう。いいともいいとも、僕もまだやる事があるんだ」

「やる事、ですか?」


 何の事だろうか。

 けげんな表情で考えるカデュウに、タックが解答を提示する。


「ここ、エルブンシュタットには、一般には知られていない裏があってね」

「裏、ですか」

「世界に潜む裏の組織って奴さ、そういう所には濃い情報が集まっているんだ」

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