38話 タック、村に来る

 アルスール族との交渉を終え、開拓村に戻る道中もとても賑やかなものだった。

 開拓村にタックを招待し、一緒に行く事になったからだ。

 小さき者同士、気が合うのか合わないのか、移動中も休憩中も休みなく言い争ったり、かと思えば意気投合したり、徒党を組んでカデュウをいじりだしたりとやりたい放題であった。


かねいいよね……」

「いい……」


 最終的に謎の悟りを開いたらしい。やはり、世の中金である。

 アルケーの開拓村に戻った後には、再びタックがあちこちを見て騒いでいたが、それは無理からぬ事だろう。

 でも、人を指差して驚くのはやめてください。

 確かに海賊とか怪物とか魔王とか、色々変わった生き物はいるけども。


「いやー、面白かったじぇ!」

「僕は疲れました……」

「なんだー? この私がサポートしてやったというのに、だらしのない」

「師匠のおかげで数倍疲れが貯まりました、本当にありがとうございますー」


 心からの感謝を述べて、カデュウは机に突っ伏した。


「……はたらけー」

「イスマも一緒になって騒いでくれたおかげだよー。もーだめ」

「カデュウってば、ちっさい子達に大人気ですねー、イスマだけでもくださいよ」

「ご自由に持っていってくださーい。大歓迎ー」

「……アイスはつんつんしすぎる」


 アイスの請求を、二つ返事で承諾したものの、当人のオファー拒否により交渉は決裂した。

 可愛がってるからって、いじりすぎなんじゃないかな……。


「えー。じゃあカデュウをつんつんです」

「やめて」




「しかし、ここは良い所だねー。ビックリするほど綺麗な所だよ。幻想的な森に、伝説の魔王城、そして圧倒的な美しさの白き水棚パラディソス・レフコス

「魔王さんもそんな名称を使ってましたね、有名なんですか、ソレ?」

「吟遊詩人でも知らない人の方が多いんじゃないかな、僕はたまたまその手の伝承を知っている人から聞いてたんだ」

「なるほどー。まあせっかくだし、うちの村でも正式名称にしますか」


 いつまでも名称が無いというのも不便だし。


 気が付けば、話していたタックが、珍しく静かになっている。

 感慨深そうにカデュウを見つめ、タックは数度頷いた。


「しっかし、あの新人だったカデュウくんが、まさか村長になるとはねー。世の中、何が起きるかわからないものだじぇ」

「僕も驚きですよ……。それじゃ、僕は村の管理業務に行ってくるとします。タック先輩はその辺で、適当に遊んでて下さい」

「久々に出会った先輩に、そんなおざなりな対応は良くないじぇ、後輩! 賢い僕がアドバイスしてあげるじぇ!」

「ふはは。天才である私の意見を聞き入れるに決まっているのだ」

「お願いだから静かにしてて下さいね……」


 また謎のホビック的対立を始めそうな気配だったので、先制して釘を打つ。

 2人に散々振り回された結果の学習である。


「まずは、建設計画。空いてるからといって適当に家を建てて行ったら、後々困った事になる。農家は農地に近く、漁師は海に近く、という風に職場に近い住居を作るべきでしょう」

「私の家はどこになるんだ?」

「ソト師匠は、何もしてないじゃないですか……」


 何もしてない人は当面、城の中で十分である。

 ボロいけど雨風ぐらいは凌げる。


「逆に言うと、傭兵団の奴らの施設はどこでもいいわけだ」

「まだしばらくは、この廃城で問題ないでしょう」


 将来的に防壁などを作る時が来たら、その周辺に住まいを用意しても良いかもしれない。




「次は廃城のがれき撤去の進捗報告。地下水道までの道のりが開けたようですね。これで水の入手が楽になります」

「水道は機能していたのか?」

「問題は無いそうですね。順調に綺麗な水が流れてくる、と」

「よろしい。他に何か見つかったか?」

「がれきの奥には色々落ちているものがあったそうですが、大半は壊れていたと。しかしいくつかの物が、使用可能な状態で残っていたそうです」


 その報告を聞き、ソト師匠は驚き気味に推察する。


「ほう、マジックアイテムの可能性が高いな」

「そう思われます。資金になるかもしれませんね」


 現状、特に収入源に乏しい、まとまった金銭になりそうなものは期待できる。

 自分達で作るものにお金はかからないが、自給自足が出来ないものは買い付けてこなければならない。

 そのうち交易も兼ねて、馬車で出張しなければならないだろう。


「くくく。私の分は魔霊石でいいぞ? わかっているな?」

「前向きな姿勢で善処したいと思います」

「何そのぼかした解答!」




「次、……なんだこりゃ。『……こーいうのをつくってください』。イスマの提案か。『こんなのがあるとすてきになっておやくだち』、……よくわからない」


 困惑しているカデュウの手元から、その紙をとったソト師匠が、ふんふん、とじっくり眺めてから、翻訳してくれた。


「これは酷い案だな。だがまぁ、恐らくイスマの召還に関する件だろう」

「ああ、なるほど。何か作らないといけないんでしたね。それなら許可しておきましょう。シュバイニーさんもよく働いてくれてますし」

「……いえーい」




「とりあえずこんな所かな。不足してる物資なんかも出てきたみたいだし、交渉が終わったら、買い出しに行ってこないといけませんね」

「ようやく冒険か。じゃ、さっさとキルシュアート族のとこに行こうか」

「ぉぅぃぇ! 僕も一緒にいっちゃうじぇ!」

「タック先輩も、これから一緒に暮らしましょうよ」


 折角、再会したタックと別れたくなかったカデュウは、仲間へと勧誘した。

 どこか予感もあったのだろうか、明るい返事を期待してはいたが、タックの答えは薄々と判っていたのかもしれない。


「北のエルフの集落からは、そのままレヒア地方に出れるのさ。僕はそっからまた旅をするよ。ハクアのバカを探さないとね」

「……また一緒に、旅がしたかったです。でも、仕方ないですね」


 ハクアを探すと言われては、カデュウには返す言葉もなかった。

 意気消沈するカデュウの腰をタックは叩き、元気づける。


「なーに。カデュウくんの住処はわかったからね。またそのうち遊びにくるじぇぃ」

「いつでも、お待ちしておりますよ。……出かけてたらいませんけどね!」




「キルシュアート族との交渉ならば、私は同行しない方が良いでしょう」


 またリーブルに案内と交渉の手伝いをお願いしようと思っていたカデュウだが、当人から反対が挙がった。


「やはり、フェアノールとキルシュアートは仲が悪いのですか?」

「ええ。残念ながら嫌われております。代わりにエルバスを連れて行くと良い」


 手回しの良いリーブルは、すでにエルバスに話を通していたのだろう。

 何故か横に立っていると思ってはいたが。


「話は聞いております。私が護衛を務めましょう」


 クリーチャー傭兵団のエルフ、エルバスが案内をしてくれる事になった。

 出身こそ古の大森林ではないが、エルフならば森の専門家だ。

 安心出来るというものである。


「カデュウ、私も行きましょう。再会したというのに訓練ばかりだし」

「うん、クロスと旅に出るなんて、先生の時以来だね」


 懐かしいな、と無邪気に顔をほころばせるカデュウに、微笑を見せるクロス。


「……暇だからついてく」

「となると、俺もいかにゃあならんな」


 暇なイスマとシュバイニーも手を挙げる。

 そしてユディもタイミング良く後方からやってきた。


「今回は冒険パーティフル参加、だね」

「ユディ。そうだね、みんなで行こうか。買い物が出来るエルフの街があるって聞くしね。面白いかも」


 思いがけぬ大所帯となったが、タックも含め、久々の仲間達との行動だ。

 次なる目的地は、キルシュアート族の作った、エルフの街。


「それじゃ、出発しようー!」

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