37話 エルフの森の再会

 保留という成果を得て、開拓地アルケーの村に帰還したカデュウは、いくつかの報告を受けて、建築などの進捗を確認する。

 特に指示を出す段階でもなかった為に、そのままアルスール族が住むという西方面に出立した。


「外交官とか、交渉人とか、そういう人が欲しいです……」

「魔村長殿はお忙しい事だな。だが、今の所、傭兵と農民と変な奴らしかいないから諦めてキリキリ働くのだ」


 今回もついてきたソト師匠が、カデュウのこぼした愚痴に止めを刺す。


「ソト師匠はターレスさんとやってたデザインの計画の方はどうしたんですか?」

「あれなら、もうターレスのおっさんにアイディアを伝えて任せてある。つまり私は今、自由なのだよ」

「いいなー師匠は。僕は、指示出して、報告受けて、出向いて、帰ったら食事用意する、っていう繰り返しなんですけど」


 現在の体制は負担がかかりすぎじゃないだろうか。

 だるさの抜けないカデュウの身体が、そう訴えているようであった。


「充実した開拓ライフじゃないか」

「もうちょっとのんびりライフしたいですねぇ……」

「それで、アルスールとかいう奴らは交渉できる相手なのか?」

「良くも悪くも中立的、という方々ですね。交流は難しいかもしれませんが、お互い干渉しないという事ならば、成立するでしょう」


 ソト師匠に答える形でもたらされたリーブルからの情報は、そう悪くはないものであった。

 カデュウ達にとって最低ラインの条件はその互いの不干渉なので、その意味では前向きになれるのだ。


「なるほど。出来るだけは頑張ってみますか」




 目的地には、意外な程早く到着した。

 リーブルによると、大森林の中央に位置するという集落。

 アルスール族の集落と比べ、開拓地に近い位置である。


「ここがアルスール族の集落ですか」

「今回は警告が無かったですねー? 見張りはいましたけど」


 そう、アイスの言うように見張りのエルフはいたが、そのまま帰っていったのだ。


「ええ、見張りから報告はあったでしょうが、警戒する必要性はないと判断されたのでしょうね」

「それはよかった。少しはスムーズに進みそうです」


 カデュウ達が集落へと立ち入った瞬間に、スッ……と。

 静かに現れた若い男性のエルフ。

 武器を持たず、敵対的なそぶりも見せない。


「アルスール族に何の用でしょうか」

「私達は、最近森の奥地で住んでいる者です。長老にお取次ぎいただけませんか?」

「いいでしょう。長老の下へ案内します」

「随分話が早いな?」


 訝し気にソト師匠が漏らした言葉に、案内のエルフは嫌な顔もせずに、淡々と事情を語ってくれた。


「見張りより、謎の勢力が現れたと報告を受けておりますが、どう対処するか、その判断は私の分ではありません」

「権限を持たない奴が勝手に決めていい事ではない、か。話せるじゃないか」

「それに、貴方はフェアノールのダークエルフですね。同じ森の仲間として、無碍には扱えません」

「ありがとうございます、よくわかりましたね?」

「我らの集落は少々特殊ですからね。森の同胞でない者なら、まず見抜けません」

「ああ、そういえばそうでした。結界がありましたね、アルスール族は」


 そんなものがあったのか。

 リーブルがいなければ、ただ彷徨うだけに終わっていたらしい。




「長老に話があるという者達が参りました」

「なんじゃ、久々に親友と会っておるというに」

「いいよいいよ。用事が終わった頃にまた遊びにくるさ」


 おや? 聞き覚えのある、懐かしい声がする。

 そして懐かしいその姿。


「あれ、もしかして? ……タック先輩じゃないですか!」


 紛れもなくその姿は、面白くて騒がしい、あのタックのものであった。


「うおおお!? カデュウくんじゃないか! 生きてたんだね、よかったー!」

「まさかここで会えるなんて、嬉しいですよ!」

「元気そうで良かったよ、心配してたんだじぇ!」


 涙が出そうになるのをこらえて、カデュウはもう1人の先輩の事を聞かなくてはならなかった。

 あの、白い髪の少女の事を。


「ハクアさんも来てるんですか? また、会いたいです」

「……あー。ハクアは、その。ね。……いなくなっちゃった」

「……え!?」


 脱力せざるを得なかった。

 タックの姿を見て期待を持ちすぎた反動か、自身でもわかる程に、その情報に混乱してしまう。


「あの遺跡から出た後に、書置きだけ残して、どっかに行っちゃったんだよ」

「……そんな」


 カデュウが無事タックと再会出来たのに、まさかハクアがいなくなっていたとは、想像もしていなかった。

 がっくりとうなだれるカデュウを見つつ、長老と呼ばれたエルフの老人がタックに確認する。


「込み合った事情があるようだが……。タック、知り合いかね?」

「そうだよ、レム・ヴェル。彼は僕の後輩冒険者のカデュウくん、前にちょっと遺跡で転移事故っちゃって行方知れずだったんだ」

「それは大変な目に会ったのう。儂はレム・ヴェル、この集落の長老をしており、以前タックと冒険の旅をしていたエルフじゃよ、よろしくの」


 タックの紹介もあってか、レム・ヴェルは優しい表情をカデュウに向ける。


「……はい、カデュウと申します。よろしくお願い致します」


 ハクアの事は衝撃的であったが、交渉に赴いた者が、その内容と関係のない部分でいつまでもくよくよとしていられない。

 すぐに切り替えて、カデュウは高身長のレム・ヴェルへ顔を上げる。


「それで、何の用でここに来たのかのう」

「実は、先程話にあった転移事故の結果、この森の東に街を作る事になりまして、最近その辺りで人間を見かけると報告があったと思われますが、特に怪しい者ではない、というお知らせに」

「何故、転移事故で街を作らねばならんのかさっぱりわからんが……。タック、どういう事じゃ?」

「ぉぅぃぇ! 僕にわかるわけないじぇ!」


 予想通り、混乱しか生まない情報であったが、その反応に驚きはなかった。


「詳しく説明致しますと……」




 カデュウによる一連の流れの説明を聞き終えたレム・ヴェルは、それでもやはり混乱したままであった。


「魔王がいて、暇だから街を作れと言われて、今建てられつつある、と」

「何を言ってるのかわからんじぇ」

「詳しく聞いてもまったくわからんわい」


 当然の反応であった。


「まぁそういうわけで、エルフさん達とも仲良く共存していこうと、いま各部族との交渉をしに来ているのです」

「ええよ」

「話早いなオイ」


 異様なまでに早い答えに、カデュウだけでなくソト師匠も驚く。

 わけがわからないはずなのに即承諾とは……。


「他の部族が仲良くやれるのならば、儂らがそれに反対する理由はない。森の外の国からの交渉ならば断わるが、森の中の勢力ならば話は別」

「そうなんですか?」

「我らは中立中庸、故に森の邪魔になる事があってはならん」


 森の中の意見が一致するのなら、その意見に合わせるのだろうか。

 という事は、フェアノールとキルシュアートは対立していた?


「そういうわけで、他所と話を纏めて来い。儂らの条件はそれだけじゃ」

「随分わかりやすいね」

「タックの後輩とならば、信じるほかなかろう? 何かあっても責任はぜーんぶお前に押し付けてやるわ」

「僕の目利きを信頼してるのかと思ったら、何このジジイ!」


 なんだか微笑ましい掛け合いだ。

 信頼し合っている仲間同士の温かさを感じる



「ほほう。これがカデュウの以前の先輩か」


 ソト師匠がタックをじろじろと見つめていた。


「むむ? このちみっ子はどちら様?」

「ちみっ子とか……、似たようなチビに言われたくないぞ」


 何やら不毛な争いに発展しそうなので、カデュウが仲間の紹介を始める。


「このロリはソトさんです、僕の師匠を名乗っています」

「またロリ扱いしよる……。名乗ってるじゃなくて師匠なの! もっと敬って!」


 ぷんすか、とソト師匠が噛みついてきた。

 そのまま、ジロリと同じホビックに向き直る。


「このチビが、カデュウの仲間だった奴か」

「チビじゃないし!? ホビック的には普通ですし! ……大体カデュウくんだって、人にしては小さい癖に何すまし顔してんだ、オラー!」

「そうだぞ! 種族平均的には小さいんだからな! 私と大差ないんだぞ!」

「何故、矛先がこっちに……。2人とも、そんな僕より小さいのに……」

「むきー!」

「あんだとー!」


 醜い争いが始まった。

 小さき者たちによる悲しい争いが。


「とってもにぎやかで仲良しさんです」

「平和ですね、良い事です」


 その様子を、アイスとリーブルがまったり眺めていた。


「用が終わったなら帰ってくれんかのう……」


 その住処の持ち主がぼやくのも、当然の事である。

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