33話 模擬と師匠の戦術講座

「というわけで、この開拓村に新しい仲間が加わりました。ハッチさん、ウミルさん、マンダムさんの3名です」


 夜も更け夕食が終わり、皆が返ってきた頃に、カデュウによって海賊達が紹介された。

 暴れないか、と心配していた事は杞憂に終わった。

 食事を与えたら2つ返事で仲間になってくれたのだ。

 話が早くて助かった。


 ハッチにはあり余る力を生かし、がれき撤去などの力仕事を任せる。

 ウミルはとても器用な技巧派だったので、ターレスの下で加工作業を。

 マンダムは釣りが得意だと言うので、そちらをお願いする。


 海で行ったアイスの調査によって、食べられそうな魚が多めに生息している事がわかっていた。

 海賊だった割に、海に関係しているのはマンダム船長だけだが、今のところ船すらないので船乗りの役目は特にないのだ。


「魔村長~、て~へんだ~」

「はい。なんでしょう、ハッチさん」

「ジジイが飯をくれと……」

「魔村長さんや、飯はまだかのう……」

「ウミルさん、さっき食べたばかりでしょ」


 ……わけのわからない会話がたまにあるが、しっかり働いてくれている。




「狩りの収穫、結構あったね。少し狩りに行かせる人数減らさないと獲物が無くなっちゃうかも」


 今度はユディから、狩りと探索の報告を受ける。

 村長も結構忙しいものだ。


「それは良かった。未開の地だから動物も多いんだろうね。魚も手に入るようになっているから、狩り過ぎても良くないね」

「あと、複数の人から、エルフに遭遇したって報告がある。エルフも狩る?」


 とんでもない事を言い出した。

 ユディもなかなかの危険人物だ。


「いやいやいやいや。君、何言ってんのユディ。狩っちゃだめです、ハンティングだめ。ステイ。……で、エルフからは何か言われたり攻撃されたりした?」

「ううん、離れた位置から見られていた、って程度みたい」

「突然いないはずの場所に現れたから警戒してるのかな、接触もしてこないという事は、多分報告を持ち帰って長老か何かの決定を待つ、とかかな」

「そんなとこだろね」


 すぐさま現場の判断で、相手が何者なのかもわからず接触するのは、危険を呼び込む事になるかもしれないのだ。


「遭遇した場所を聞いてまとめておこう。なるべく事を荒立てないように配慮しないと、開拓開始早々に戦争になっちゃう……」

「わかった、聞いておく。あと、リーブルがこの辺のエルフの出身らしい」


 リーブル・レーラ。クリーチャー傭兵団の部隊長の1人。

 クロスを助ける時には、驚異的な射撃能力で助けてもらったが、普段は笑顔を絶やさない優しいお兄さんだ。

 エルフと一口に言っても、出身の地は様々だ。

 各地方にエルフの暮らす森があるし、街で他種族と混ざって暮らすエルフもそこそこぐらいはいる。


「それは助かるね、リーブルさんに相談してみよう」


 机上で考えていても話は進まない。

 この件は、リーブルが戻ってからでいいだろう。

 そろそろ訓練に参加するべく、ユディと共にボロい魔王城の外に出た。




 剣戟の音が響く。アイスとユディが戦っている。

 傭兵団の訓練の一環で、模擬戦を行っているのだ。

 せっかくなので、冒険者組も参加させてもらっている。


 先程ボッコボコにされたカデュウは、横になりながらこうして観戦をしていた。

 犯人のクロスは、涼しい顔をして隣で紅茶を飲んでいる。

 昔よりずっと強くなっているじゃないか……。さすが先生が認めた才能だ。


「やりますね、ユディ。こんなに長く戦ったのは久々です」

「不思議な剣術だね、アイス。面白い動き」


 普段のほほんとしてるアイスが、ユディと互角に渡り合っていた。

 緩急の動きと多彩な空中戦法、それに変幻自在の投擲を加えたユディの複雑な攻撃に対し、アイスは体捌きと1本の剣のみで対処しきっている。


 ユディの動きを表すならば、動にして静。

 激しい動きの中に、どこかカデュウと似た意表の突き方を隠し持っている。


 だがアイスの動きは、その逆。静にして動。

 ゆっくりとした佇まいから、一気に加速した動きで高速の斬撃を放ってくる。

 かといって止まっているわけではない。

 縦横に移り変わる不可思議な動きを見せてくる。


 アイスにナイフを投げた直後に、再びユディが跳躍して、アイスを上下2面から同時に攻撃する。

 避けずにそのまま迎え撃つアイス。


「秘剣エンピ」


 アイスの横薙ぎに振るわれた片刃剣が、向かってくる投げナイフを瞬時に叩き落とし、そのままの勢いで軌道を変え空から襲い掛かるユディにあてた。


「あいた」


 命中した箇所が脚だったが、模擬戦なのでこれで1勝となる。


「はい、ユディの負けな。じゃ、次の奴らー」


 ゾンダ団長がテキパキと進めていく。

 しかし、妙な軌道の剣技だった。



 

「凄い! 2人とも凄いよ!」


 アイスがここまで強いとは予想外だった。

 一緒に旅をしてきたが、あまり直に戦いぶりを見る機会が無かったのだ。


「むー。勝ったのは私なので、私を褒めるべきなのです」

「むむ。大体互角だったんだから、私も褒められるべき」


 何やら大人げない争いが、アイスとユディの間で勃発していた。


「それなら、カデュウに勝った私も褒めるべきでしょう?」

「クロスは心の中で褒め称えたよ」

「ずるい。なら私もカデュウと戦う」

「じゃあ、私も私も!」


 なんなのだ君達は。いじめか。

 すでに全身が痛いのに、そんな事が出来るわけがない。


「弱っちい僕を倒しても意味がないので、君達3人で決着をつけて下さい」

「それじゃあ、勝ったアイスと私が戦いましょう」

「その後は、私がクロスと、だね」


 同世代の女性剣士だから、お互いライバル視しているのだろうか。

 最近張り合う傾向が出てきた。

 ユディは剣士っていうか、ナイフとか色々何でも武器を使うんだけども。


「むきー! 今のは疲れていたからです!」

「はい、アイスの負けな。ほれ、次ー」


 平和な争いであった。

 何度か戦った結果の戦績は大体同じぐらい。

 ややクロスの戦績が上となるが、誤差と言って良いだろう。

 才能が無いカデュウからすると、とても羨ましい。




 次はソト師匠による、はじめての師匠らしい特訓の時間だ。


「ついに、名ばかりの師匠から卒業する瞬間ですね。感動です」

「カデュウはまず、ナチュラルに毒吐くのをやめようなー。師匠の教えなー」


 はじめての授業は余計な一言を言うな、という内容であった。


「さて、それじゃあパーティでの立ち回りを教えていくぞ」


 師匠の授業に参加しているのは、カデュウの冒険パーティ全員だ。

 後衛であっても必要な事なので、イスマも参加している。


「簡単に言うと、味方にとってそこに居て欲しい、と思う位置に居る事。これが基本にして極意だ」


 内容こそ短かったが、これを実践するのはとても難しい。

 刻一刻と変化する状況に合わせて、常に自分の都合だけでなく、味方の動きをその癖も含め予測しつつ行動する。

 お互いに慣れた者同士なら、呼吸を合わせて本能的にこなせるのかもしれないが、それを理論的にマスターしようというわけだ。


「つまり、味方を助ける位置、味方を邪魔しない位置、そういうものに気を配る必要があるわけなのだよ。好き勝手にやってたら、知らぬ間に邪魔になってる事も少なくないんだぞー」


 例えば射撃で援護をしようとしたときに、射線に味方が割り込んで来たら、物凄く邪魔になる。下手をすると誤射で味方殺しだ。


「多対多の戦闘の場合は特に重要だ。意識的に動きを覚えておく事で、上手く数的有利を作れば、相手がこちらより強くても勝つ可能性が高まるぞ」

「うちの団は、この辺の連携が完璧なのが強みなんだよ」


 ソトの理論を、ユディが裏付けるように傭兵団での実戦を語る。

 個々の超人的な強さに加え連携まで完璧とは、さすがである。


「はい、それじゃー、実際にゆっくりした動きでやってみろ。状況ごとに、どういう選択をすれば良いのかを体で覚えるんだ」


 ぎこちなかった動きが、ソトが指摘する度に、連携が綺麗になっていく。

 凄く実戦の役に立ちそうな、師匠の教えだった。

 最強傭兵団の部隊長だけの事はある。

 指揮能力の高さに加え教え方も上手かった。


「さすがです、ソト師匠!」

「……ししょーにはじめて教わった。かんどー」

「うむうむ、もっともっと褒めるのだ。偉大なる天才を!」


 大変ご満悦なソト師匠は、その後もしばらくご機嫌であった。

 出会う度にドヤ顔でちょっとうざい。……また、師匠をいじりたくなってくる。


 そして、エルフへの対処を考える時がやってきた。

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