31話 食料のあれこれ

 農家の方は、山菜採りのエウロ婆さんの夫、パラド爺さんを筆頭に、転移陣の場所にあった村の住民の若い人たちが協力してくれる事になった。

 先祖代々の土地ではあるが、襲われた際に何も対処が出来ないという事で、若い層を中心にこちらの開拓計画に送り出してくれた。


 元々の村はアインガング村というらしいが、開拓村の農地が安定するまでは、村の方の食材を提供してもらう事になっている。

 代金を払うつもりだったが、村の方から若い者たちに農地を譲ってもらえるので、これ以上頂くわけにはいかないと断られたのだ。


「驚いたでぇ、魔村長さんや。ここいらの土地は凄く肥えてるわ。気候や温度にもよるがね、これなら大概のものは良く育つんじゃねえかえ」


 農地となりそうな場所をチェックしていたパラド爺さんが、ニコニコ顔でカデュウに報告をする。

 しかし、なんでも育つ、となると逆にどうしようか悩ましくなる……。


「まずは必要なところは、自給自足出来た方がいいでしょうね。小麦など」

「肥沃ってこた逆に言うと、痩せた土地でも育つようなのは、どこでもできっから、勿体ねえ気はすんな。ジャガイモとかトマトとかライ麦とかな」

「うーん、それでも、トマトとジャガイモは欲しいところですね……パスタ的に」


 そう、パスタ的に考えて。


「ワインのブドウは痩せてる方がええからよ、ワイン醸造はやめとくんがええな」

「どっちにしろ種がねえからよ、とりあえずは小麦中心に持って来とる種を撒いちまってええかね?」


 種が無くては育てるもなにもない。

 特徴的なものは買い付けてこないといけないだろう。


「そうですね、まずは食料供給の安定が先決です。それでお願いします」




「手土産だ、好きなように使ってくれ」


 唐突に、ゾンダ団長によってカデュウの前に投げ出された、2人の男女。

 どこかで見たような顔だが、思い出す事が出来ない。


「元依頼人なんだが、金がねえとか抜かしやがってよ。契約の代金分の使い道を探してたんだ」

「それはそれは……、ある意味勇者ですね」


 国王すらぶち殺しちゃう系傭兵相手に、報酬を払わないとは命知らずな。

 クリーチャー傭兵団の評判が悪い、というのはきちんと報酬を払わない依頼人が多いせいもあるのではないだろうか。

 カデュウの中では、誠意をもって接していれば、話の通じる人物という認識だ。


「ま、色々組織に命狙われてるって言うんでよ、備品として持ってきてやったんだ。じゃ、飯食ったら狩りに行ってくらぁ。後よろしく」


 とりあえず置いて行かれた備品、もとい、2人の方々に挨拶をすべきだろう。

 と考えたカデュウだが、その顔を改めて見て気付いた。


「あれ、あなた達、もしかして……。パネ・ラミデにいた黒いローブの人ですか?」

「……! 何故、その事を……」


 若い男が、警戒している目つきでカデュウに問う。


「ああ、覚えてないですか? 無理もないです、ほとんど僕は何もしてませんし。ほら、あの時、入って襲われた冒険者の1人ですよ。カデュウと申します」

「ああ、貴方は……、“鍵”に飲み込まれた……」


 言われて気付いたのか、若い女の方が、カデュウの顔をまじまじと見つめる。


「ああ……。あの時の子供か、そういえばこんな顔だった気も……」

「はい、その子供です。私の側からは何かしようという気はありませんので、ご安心下さい。……事情はよくわかりませんが、2人のお名前をお伺いできますか?」


 カデュウは優しく笑顔で語り掛けて、警戒する必要はないのだと伝えた。


「……俺はイザーイ。こいつは妹のコルネだ」

「なるほど。お二人は、組織に追われているとの事でしたが、この地ならば開拓しはじめたばかりですし、まず安全だと思います。こんなところで良ければ、人手も足りない事ですし、一緒にお手伝い頂けると助かるのですが……」

「いいのか? ……いや、感謝する」

「ありがとうございます。……久々に、私達も安らげるかもしれません」


 警戒が解けたのだろう、イザーイとコルネは住民になる提案を受け入れた。

 他に行き場もなかったのかもしれない。


「お2人は何か得意な事はありますか?」

「私は裁縫や、簡単な料理ぐらいなら……」

「……な、何にもない」


 空を向いて思い浮かべた事を挙げるコルネに対し、恥ずかし気にうつむきながら、それでもイザーイは答えた。


「どんな事をされていました? その経験次第で、出来る事があるかもしれません」

「……宗教活動や情報収集、ぐらいか? あまり荒事は得意では……」


 なかなか潰しの利かない仕事であった。

 周囲に人がいなそうな開拓村で、情報収集など役に立たないし……。

 少し考えてから、カデュウは思いついたままに言ってみた。


「ふむ。それでは、そのうち教会で相談したいって人も出るでしょうし、将来的に聖職者になって頂くのが良いでしょうか?」

「俺はいいんだけど……、言っちゃなんだが、俺が学んできた宗教って、世間でいう所の邪教だぞ? いや、俺も最近までそれが正義なんて思ってたけど」

「邪教は困りますねえ……」

「私達も、かつての宗派には疑問を覚えました。しがらみのない場所で暮らすなら平穏にしたいものです」


 確かにコルネの言う通り、そういうものが嫌だというのは、新天地に行く人の動機の1つかもしれない。

 その意味で開拓地というのは、しがらみの無さが快適さと言えるだろう。

 そしてそれが長所ならば、出来るだけ生かしたいとカデュウは考えた。


「それじゃあ、魔王教はどうでしょう」

「なんだそりゃ? そんなもんあるのか?」

「はじめて聞きますね」

「はじめて言いましたから。神様が絡むと面倒なので、魔王さんを適当に祭っておけば平和でいいんじゃないですかね」


 既存宗教には面倒なしがらみが多く存在する。

 勝手に教会を作って勝手に管理者を決めるなどもっての外だろう、多分。

 ならば自前で勝手に宗教を作り上げてしまえば、後々外部からの宗教的干渉も防ぎやすいのではないだろうか。

 空飛ぶパスタ教とか。


「そんな雑な……」


 真面目に宗教活動をしていた人からすれば、物凄く雑な話だろうとカデュウ自身も思った。

 コルネの反応はいたって普通の感覚であろう。

 カデュウは先生の教えを受け続けた事で、信仰心が薄い人間として育っており、神頼みをする気にならないのだ。

 かといって否定する気もない。人それぞれ、趣向は異なるものである。


「まあ、僕も適当に言ってみただけなので。とりあえず具体的に何か決まるまでは、運搬等のお手伝いをして頂ければ助かります」

「わかった、うまくやってみる」

「兄さんと私を受け入れてくれてありがとう、カデュウさん」

「こちらこそ! イザーイさん、コルネさん。アルケーの村へようこそ!」


 イザーイとコルネの兄妹を、案内し、カデュウはまた街作りの考案に戻った。

 案内と言っても、ここら辺が倉庫です、この辺りで食事を食べてます、等という物凄く簡単で大雑把なものだったが。




「カデュウ、海を発見しましたよ! もしかしたら、お魚さんが釣れるんじゃないでしょうか!」


 考え続け頭が疲弊してきた頃に、アイスが子犬のように飛びついてきた。

 痛い。

 腰の剣の柄が叩きつけられた、予期せぬ腹部への攻撃だ……。


「うぐ……。そ、それは大事な情報だね、よく見つけてくれたよ。お魚さんがいると楽になるね」


 農業が軌道に乗るまでは、山菜の収穫や漁業などが重要な食糧源となるのだ。

 食事内容のバリエーションという点でも、海があるというのは大きい。

 それに、将来的に船をつかって海洋交易も視野に入るのだ。


「よし、それじゃあ調査に行ってみようか。今、城の周辺に戻っている人は誰がいるかな……」

「……ここにいる」


 いつの間にか、静かに横の椅子に座っていたイスマから挙手でのアピールが入った。無言だから気付かなかった。

 そういえばイスマに仕事を割り振っていなかった、さぞ暇だったろう。

 一度考えてみたあげく、任せられそうな仕事が思いつかなかったのだが。

 困った時の運搬役だろうか……、でもあまり荷物持てそうにない……。


「……ひま」


 はい、すみません。忙しくて忘れていました。


「じゃあ、イスマも一緒に行こうね。さあ、調査に行くよー」

「……忘れられないように、一緒にいこー」


 ちょっと根にもってる……。

 汗を流しつつも、頭をなでなでして誤魔化しにかかるカデュウであった。


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