23話(閑話) 黒壇の晩餐会 <外交の裏舞台>

 灰と黒の世界、無彩色の部屋に、集まっていたのは3名のみであった。


 黒壇の晩餐会エベーヌ・ノワール

 世界の黒幕達の、不定期の親睦会。


 主宰たる灰色の老人、表世界の黒幕フィクサー、枢機卿。

 裏社会の管理者、盟主。

 物語の編纂者、店主。


 以上、3名の参加者によって、晩餐会は始まった。




「枢機卿、今回は貴方が主軸か」


 まず口を開いたのは黒いジュストコールの男、盟主であった。

 ティーカップを静かにソーサーに置き、店主もそれに続く。


「エルムが動くって事は、表の方が騒がしくなるね?」

「儂は何もしておらんよ。弟子達が望むがままにしておるだけじゃな」


 エルム、と愛称で呼ばれた、灰の祭服を纏う枢機卿は静かに笑う。

 やんわりと否定しているような口調だが、それが枢機卿のやり方であった。


「996年前に失われたという、バンダル王家の宝剣を渡してやったんだろう」

「弟子の仕える王の望んだ物がたまたま手に入ってな。喜ばせてやりたくての」


 盟主の正確な情報に対し、優し気な笑顔で答える枢機卿は、とても黒幕には見えないものであった。


「魔王討伐戦で失われたっていう伝説の宝剣でしょ? 良く見つかったね、そんなの」

「気の良い若者が譲ってくれたわい。丁度良い手土産を探していたら、まさか本物が入手出来るとは思わなんだが」


「それをエサにグランハーブスに攻め込ませた、と。験を担ぎたがる“最果ての守護者”殿は、失われた先祖の宝剣が戻った事で、今が好機と思い込んだわけだ」


 “最果ての守護者”バーサ・バンダル。オクセンバルト王国の若き王。

 大陸最北東のルース地方に隣接している、魔族の領域デア・ウラルドには、今でも魔王軍の残党が存在する。

 バンダル王家は、それらが漏れ出さぬように戦う一族であった。

 その名は、魔族と戦い抑え続ける者として鳴り響いていた。


「最果てを守るオクセンバルトに、散々ちょっかいを出していたのはグランハーブスの方じゃからのう、ただの因果応報なのではないかな」

「フェイタル帝国の方にも、その情報を与えたんでしょ。怖いねえ」

「弟子が求める情報を教えただけじゃよ、儂はそれしかしとらん」


「またまた。表の黒幕たる者の本領発揮だねぇ」

「ついでに南部同盟も滅ぼすか。ロメディア半島のキィラウアが伸し上がったのもあなたの差し金だな」


 盟主の問いにも枢機卿は涼しい顔で、やはり同じ答えを繰り返す。


「弟子がやりたいようにやっている。それだけじゃよ」

「そう、思考誘導させてる癖に。エルムはえげつないねぇ」

「こちらも最近は騒がしくなってきている、表が動けば裏も動くのが道理だ。特に干渉してくる輩がいるからな、店主?」


 話を変え眼光を鋭くした盟主に、店主はニヤリと笑みを返した。


「そりゃもう、物語の種だからね。今回は私とエドが対立するのは、自然の流れじゃないかな」


 この者達は決して、一枚岩の組織でも仲良し集団でもない。

 譲れない箇所があればいつでも対立する者たちだ。

 盟約と物語、その領域同士の軽い衝突。


「やるならもう少し精密にしてもらえるか。雑に暴徒を使って誘発されては秩序が乱れる」

「物語ってのは乱れてる方が生まれやすいんだ。何事も起きないのではつまらないし、企み通りに運んでもそこには面白みが生まれない。ただ悪に翻弄された道化が生まれるだけでね」


 盟主は何も答えない。はじめから、相容れないとわかっているからだ。

 代わりに出た言葉は別の話題であった。


「それと“サバス・サバト”が今回も動いているようだが」

「活動範囲広いからね、あいつら。いつもどこかで動いている」

「ふぉ、ふぉ。お主も似たようなものじゃろ」


 枢機卿のその言葉に、言われた店主も同意する。


「いやいやまったくごもっとも。……ところで、シスターと“幻想”は欠席かい?」

「あやつらの領域には、関係のない議題じゃったからの。興味がないんじゃろ」

「平和で結構な事だ。……今日はこれで終わりか?」


 枢機卿がティーカップを持ち上げて、閉会を宣言した。

 世界にとっては重大なる決定があったとしても、彼らにとっては日常だ。

 平和な平和なティータイムと変わりなく――。

 ごくありふれた、ディナータイムでしかなく――。


「うむ、うむ。それでは、喝采と晩餐をもって見届けよう」

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