21話 とある優しい傭兵団

 ミロステルン王国の兵士達は妙に落ち着きがなかった。

 何か大変な事でも起きたのだろうか。

 それにしては、駆け回っている様子は見られない。


 しかし国家の話などカデュウ達には関係ないのだ。

 問題なく街の中に入る事が出来たので、それだけで十分であった。

 飲食店が多く立ち並ぶこの街は、農作物の産地であり、食文化を担う街でもある。

 それだけに旅人の数も多く、街も活発な様子であった。


「ソト師匠、この街にお知り合いの傭兵団がいるんですよね?」


 小さな金髪の師匠の後ろを歩くカデュウが、あちこちを眺めながら尋ねた。


「多分な。他の仕事が入って移動した可能性もあるが」


 傭兵団なので仕事を頼まれればそちらに移動するのは当然であろう。

 その場合は無駄足になるが仕方のない話だ。

 目的のルクセンシュタッツまでやや寄り道になるが、慌てるような旅でもないので、ついでに傭兵団の所へ寄ってみようという計画だ。


「さてさて。あいつらどこにいるんかな」


 ……行先もわからず先導していたらしい。

 何という案内人だろうか。さすがソト師匠だ。


「どこかで話を聞いてみますか?」

「イスマの不思議パワーではわからないです?」


 アイスはそういうとイスマの頭を撫でだした。


「……そんな細かいとこまでは無理。……あと、アイス邪魔」


 ぺいっ、と撫でていた手が引きはがされた。


「やはり酒場で聞いてみるかな……。ん? ……あいつは」


 ソトが見つめた先にいたのは、地味な風貌の、まるで駆け出しの冒険者のような男であった。

 両手に荷物を沢山抱えて、どこかに運んでいるようだ。

 その男にソトが近づき、声をかけた。


「やあ、地味ヒューマン。良い所で会った」

「おいおい、いきなりケンカ売ってんのか……、ってソトか」

「こんな可愛らしい声の可憐な美少女が、他の誰に見えるんだ。耳と目が腐り落ちたのか、フルト」


 フルト、と呼ばれた男はソトのその言葉に対して露骨に嫌そうな顔をしてみせた。


「俺には悪魔や邪神にしか見えないが……。しかしソトがいるとはな」

「まったく無礼な奴だ。まあ、お前がいるという事は団もまだいるんだな」

「ああ。そろそろ出るからこうして準備してるけどな」

「じゃ、案内してくれたまえ」

「おう、いいよ。……後ろの奴らも来るのか?」

「もちろんだとも。私の仲間だぞ?」

「どうも、仲間です。カデュウと申します」


 なんとなく流れで挨拶をしたカデュウを、じろじろと見つめるフルト。


「まじかよ、アンタ仲間とか出来たのかよ。……どうせ次会った時にはまた1人なんだろ」

「今度こそ大丈夫だ! 私を理解してくれた最高のパーティだぞ! 私は信じている!」


 ソト師匠にとっては確かに最高のパーティなのだろう。捨てられないし。

 その最高のパーティ側にとっては寄生されているようなものとも言えるが。


「アンタ、そんな純真な子供達を騙してまで……。そこまで落ちぶれたか」

「うるさい黙れ。さっさと案内しろ、地味フルト」

「わかったわかった。ついてこい」


 案内役につれてこられた先はミロステルンの街、北東の王城がある区画の端っこにやってきた。

 軍事施設のようなものが立ち並ぶ、北東門の近くにあるその傭兵の拠点は、傭兵が街で暴れ出さないように兵の近くに、という配慮の位置なのかもしれない。

 ここまでの道のりで、やけに慌てている偉そうな身分の人々の姿が見えた。

 やはり何か事件があったのだろう。


「ほら、ここだ。俺は準備で忙しいから、じゃあな」


 そう言い残してフルトは建物脇の角へと消えていった。

 傭兵という割には、親しみやすそうな良い人に見える。


「いくぞー、ついてこい」


 遠慮なくソト師匠が正面の扉から侵入する。案内の人も無しに勝手に入って大丈夫なのだろうか?

 などと考えている間にソト師匠は進んでいく。


「よーし、ここかー。ばーん!」


 掛け声とともに扉を開けた部屋の中には、ティーカップを持ってくつろいでいた男がいた。

 耳が長く美形揃いで名高いエルフ。ただし、肌は小麦色であった。


 ダークエルフ。かつて神話の戦いにおいて邪神側についたとされる種族であるが、この時代においては、そんな古い時代の事を持ち出して差別する輩は少ない。

 見た目の良さも手伝って、比較的共存が出来ているようだ。


「おや、ソトさんじゃないですか。どうされました?」

「なんだ、リーブルか。団長はどこかな?」


 リーブルと呼ばれたダークエルフは、指を差して答えた。

 まぶしい笑顔と共に。


「団長なら逆側ですよ」

「ありがとよー。ほれ、こっちだ」

「みんな、親切さんですね!」


 わけもわからず、とりあえず教えてくれたダークエルフの人にお辞儀で礼だけして、ソトの後を追った。

 アイスの言う通り、良い人が多い傭兵団だ。傭兵は荒くれ者ばかりと聞いていたから、その辺りは懸念していたのだが、これなら大丈夫かもしれない。


「今度こそ、どばーん!」


 その開け放たれた扉の中には、――怪物がいた。




 狂気をはらんだ眼、エルフのような耳をつけた魔族の如き男。

 間違えようもなく、あの日に出会った怪物、ゾンダ・ゼッテであった。

 最強にして最恐、最少数にして最精鋭、かのクリーチャー傭兵団の団長だ。

 驚愕と恐れでカデュウの精神に衝撃が走ったが、取り乱さずに彼らを見据えている。

 その両側には老人と、ゾンダにも負けない程に大きなゴブリンが座っていた。


「あんだ? おう、ソトじゃねえか。帰ってきた所に悪いんだが、残念ながら仕事は無くなったぞ」

「ん? ああ、そうなのか。別に私はやる気なかったから、どーでもいいけどな。また、お偉いさんをぶっ飛ばしたのか?」

「国王陛下が靴を舐めろとおふざけになられるから、ちょっと頭撫でてやったらもげちまってな。トムの奴にごめんね、つって帰ってきた」


 とんでもない内容をゾンダが口にした。

 それは王殺しなのだが……。ごめんねで許される話なのだろうか。


「そりゃまた、盛大にやらかしたな。理解あるトム将軍に感謝しないとな。フェイタルの奴らがいつ攻めてくるかわからん状況だ。団長の相手してる暇などないと考えたんだろう、賢い奴だ」


「ちょっと、ソト師匠。知り合いの傭兵団がここだって聞いてなかったですよ」

「ん? あれ、言ってなかったか? 私はここの傭兵団所属でもあるんだぞ」


 ……なんだって。

 そういう事はちゃんと伝えて欲しい。


 安全地帯にいると思ったら、いきなり戦場に叩きこまれた気分である。

 普通の傭兵団と普通に契約の話を聞くだけだと思っていたら、大陸最強にして最恐の傭兵団の怪物と交渉するなど、完全に想定外だ。

 王の首をもいでしまうような怪物だ、話を少し間違えたらカデュウの首も同じ運命を辿るのは、容易に想像できる。


「まったく聞いてなかったですよ。なんで傭兵団所属なのに冒険者やってるんですか」

「ここの傭兵団、縛りが緩くてな。金稼ぎでつい。安心しろ、本職は冒険者だ」


 安心とかそういう問題ではないのだが。


「おい、ソト。なんだそいつ」


 そいつ、とカデュウの事をゾンダが尋ねる。


「私の仲間だ。ついに養ってくれる奴が出来たんだ!」

「はい。仲間です。ってソト師匠も稼いでくださいよ」

「悪い事は言わん、騙されてるから早く別れろ」


 そいつはやめとけ、と手を振って伝えてくる。

 どれだけハズレ扱いされているのだろう、ソト師匠は……。


「余計な事を言うなー? ……そんな事より、こいつが団長に用があるってさ」

「俺に? なんだ、言ってみろ」


 ソトの話によってどうやら覚悟を決めて、話をしなければならない事になった。

 仕方ない。ダメで元々な気分で話すだけ話してみるのが良いだろう。


「はい。……以前は、お顔だけ拝見させて頂きました。カデュウと申します」

「以前……? ……会ったっけ?」


 ゾンダからすれば、後ろに控えていた子供など気にもしていなかったのだろうから、記憶になくても仕方のない話だ。


「アークリーズさん達と一緒に……、覚えてないかもしれませんが」

「……ああ。あー、あー。……あの時何人かいた、後ろのチビ共の1人か?」

「はい。アークリーズさんは、ご無事でしょうか?」

「ん? あれから会ってねえのか? ピンピンしてるよ。楽しく踊ってたら、あの後すぐに邪魔が入ってな。依頼人が護衛についてこいと言うもんで、そこで終わったぞ」


 ひとまず、無事なようでカデュウはほっと一息をついた。


「よかった……。それでは本題に入らせて頂きます。僕達は街を作るのですが、その街作りに加わって拠点契約を結んで頂けませんか」

「街作るのか? そら景気が良い話だな。……俺らを雇おうなんざ、正気か? 気に入らなきゃ王もぶっ殺すような連中だぞ?」

「はい。正直に言えば、ソト師匠の知り合いという傭兵団に聞いてみる、としか考えてなかったのですが。実際に会ってみて、この傭兵団と契約したいと思えました」

「……なんでだ?」


 人を図るようなゾンダのその質問に対し、心から、正直に、熱意をもって、その理由をカデュウは語った。


「これまでに出会った、クリーチャー傭兵団の人達は、皆さん優しさがあって人を気遣う事が出来る心がありました。ソト師匠は凄く良い人ですし、フルトさんも、ダークエルフの方も、気持ちの良い対応をしてくれました。もちろん、団長さんもです。凄く怖いのは確かですけど……」


 信頼できる相手かどうか。これはとてもとても大切な事だ。

 最強傭兵団の強さも魅力的だが、実はこの雰囲気は気に入っていた。

 どこか緩い空気というか、ピリピリしていないのだ。


「……俺なんかしたっけ?」

「ソト師匠を早く捨てろと、的確なアドバイスを……」

「おい待て」


 師匠が何か言っているが、当然のように放置である。


「はははは! そりゃ、確かに優しいな。俺の心からの親切心だ。……で、それだけか?」

「待てコラ、貴様ら」

「いえ。優しさに加えて、恐らく強さも必要となる場所だと思っているんです、その意味でも皆さん以上の適格者はいないと考えます」

「なんだ、危ねえ場所なのか? どこだ?」

「魔王城です」

「……なんじゃと?」


 ゾンダの横に座っていた老人が、驚きの声をあげた。


「実は魔王さんに、街を作れって頼まれておりまして」

「……魔王? もしかしておとぎ話みたいな大昔の伝説のアレか?」

「ええ。実は封印されているだけで、まだ生きてるんです。でもずっと同じところから出られなくて、暇だから街を作れなどと……」

「なんじゃそりゃ、ははは! 変なオチがついてるとは逆に真実味があるな、嘘なら嘘でぶっ殺しゃ済む話だ」


 嘘だったら死亡確定だったらしい。やっぱり正直なのが一番である。


「いや、気に入った。俺らもさ、もうすぐこの街を出て行かにゃならんのだが、行先は特に決まってなかったし、暇だし、別に契約してる街もない。拠点が出来るのはありがたい事だ」

「ま、実際に見るだけ見てもいいじゃろうな。王をぶちころがしちまった時点で、この辺じゃもう仕事はないじゃろ」

「だが、最近の雇い主が、どいつもこいつもクソみてえなクソ共でなぁ。繊細な俺様のハートは、ギッタギタなのよ」

「雇い主の王をぶち殺して、腕を血まみれにしたまま、大した距離ではないとはいえ、堂々と街を練り歩いて帰ってくるような奴の、どこが繊細なんじゃ?」

「うるせえジジイ」


 ゾンダと横の老人が掛け合いのような会話をしていた。

 つまり繊細なハートのおかげでお仕事がなくなったらしい。

 繊細なボディのお方も命が亡くなったらしいが。


「そこでだ。俺達を雇える器かどうか、覚悟を見せてもらおうか。人間、危機に陥った時にこそ本性が出るものだ」

「おい、私の仲間を殺すなよー。滅多にいないレアモノなんだぞー」


 レアモノ呼ばわりされているが、ソト師匠からありがたい援護が入った。


「ウチの一番下っ端の奴と戦ってもらう、殺しゃしねえから安心しろ。勝てとも言わん。俺が認めたら、それで良い。どうだ、やるか?」


 やりたくない。

 最強傭兵団の正規メンバーとなんか戦いたくなんかない。

 しかし。

 もうすでに引き返せないぐらいに発言をしてしまっている。


 この傭兵団が欲しいと、言葉を並べてたててしまっている

 ここで怖気づいて断ったら、逆に不誠実な輩として処分されかねない。

 どちらがよりマシなのかと考えれば、決まっていた。


「ユディ、お前やれ」

「ええ、父さん」


 その声は背後から聞こえた。振り向けば、そこには同い年ぐらいの少女が、ひっそりと立っていた。

 ……気付かなかった。気配を感じないとは、かなりの手練れだ。


「俺の娘のユディだ。この団の一番下っ端、こいつが相手だ」

「この子をいたぶればいいんでしょ?」


 無表情なまま、ユディと呼ばれた少女はそう答えた。

 褐色の肌は父親よりは薄目で、銀髪のショートヘアーが良く映える。


「そうだぞ、ユディ。遊んであげなさい」


 いたぶる事を遊ぶと認識しないで欲しい。


「カデュウ、私が代わります? 斬り合ってみたいです」

「僕もそうしたいのはやまやまだけど、試されてるのは僕だからね。代わるわけにはいかない」


 ユディと呼ばれた子がカデュウの前にやってくる。アイスがその気になるわけだ。

 ――強い。

 しなやかな身体から見て、スピードのある相手だ。


「武器はそこの練習用のやつ、好きに使え」


 ゾンダが顎で指し示した場所に、色々刃のない武器が置いてあった。

 自身の手持ちに近いサイズの剣を2つ、その中から借りる。

 ユディという少女は、すでに持っているようだ。

 ナイフを左手に持ち、右手は手ぶらである。


「じゃ、はじめろー。決着は俺がやめろって言ったらだ」


 ゾンダの声を合図に戦いが始まった。

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