18話 名ばかりの師匠と住民勧誘

 転移陣で村に戻り、早々にゼップガルドへと戻ったカデュウ達は、最初にやらなくてはならない事があるのだった。


「報酬の報酬の金貨5000枚を預かっておりますが、全て受け取りますか? ギルドで預かっておく事も可能です」


 ギルドで剣を売った代金を受け取り、トーラに金貨を渡さなくてはならないのであった。

 今回受付にいた職員は女性である。はじめて見る顔だ。


「預けておくと他のギルドで出せないですし。全額持っていきます」

「すぐに出立されるのでなければ預けておいた方が安全で便利ですよ」

「でも、冒険者ギルドの倉庫ですと、料金がかかりますし……」

「そこは裏技がありまして。依頼報酬の場合は一時的に無料で預かれる事はご承知の通りですが、それは全額受け取るか次の依頼をこなすまで、なんです」


「でも、丁度護衛の依頼こなしましたよ?」

「そこも裏技がありまして。報告は期限ギリギリまで待っていてもいいんです」

「……なんでそんなに預けさせたがるんですか?」

「いえいえ、何もやましい事はございませんよ。ええ、もちろん」


 凄まじく怪しい女性職員の応対だが、数日受け取りを伸ばしたところで出来る事というのは思いつかない。

 意外に善意でアドバイスしているのかもしれないし。

 仮にギルド職員が持ち逃げしたとしても、冒険者ギルドは全額補償しなくてはならないので冒険者は困らない。

 つまり、何らかのところに流用するつもりであろうがなかろうが気にする必要はないので、後は自分達の都合で決めればいい、という事なのだ。


「わかりました。それでは3000枚だけ受け取って、あとは預かってもらっていて構いませんか」

「ありがとうございます。引き続きお預かりさせて頂きます。こちらの護衛依頼の期限は後14日となっておりますので、それまでにお越しください」


 トーラに支払うのが金貨350枚。馬車の金額は物次第なのではっきりしないが2000枚もあれば十分すぎるはずであった。

 そして馬車を購入したら、余った金貨でそのまま交易を開始する、という計画だ。


「お待たせしました、行きましょうか」

「くくく。これで魔霊石が正式に私の物に……」

「ソトさんの分、結構な料金が魔霊石代金なんですけど」

「細かい事は気にするな。ところで、いい加減その呼ばれ方も余所余所しいな」

「そうですか?」

「そうなの。よし、お前も師匠と呼べ」

「そこまで捨てられないように警戒しなくても……、そりゃお金はかかりすぎですけども」


 魔霊石の価格は、大きさや込められている魔力量によって変わる。

 ソトが購入したのは、大きめの物が2つで金貨40枚程、中くらいの物が5つで金貨25枚程、しめて金貨65枚。

 消耗品としてはちょっと信じられない価格だ。

 ゴブリン如きに使っていたら、赤字なのは間違いない。

 安い方でも1回魔術を使ってもらうだけで金貨5枚吹っ飛ぶ計算になる。

 今回はトーラが、抱き合わせで値引きしてくれたので多少マシだが、それでも気軽には使えない。

 これでは他のパーティに逃げられるわけだ。


「念には念をいれておかないと……いや、そういうんじゃなくて。こう、純粋に色々教えてやろうとな?」

「はあ。何を教えてくれるんですか?」

「天才魔術師だぞ? 私は。お前も魔術が使えるようだしな。それに冒険の事だったり、戦場の指揮や立ち回りなんかもな」

「まだ一度も師匠の魔術見た事ないんですが……」

「……まだししょーに教わった事が無い」


 弟子であるイスマが告発を行った。

 うん。初対面で師匠面しといて、なんにも教えた事なかったよね。

 関係ない豆知識ぐらいだよね。


「などと弟子が訴え出ていますが?」

「いや、ずっとシュバイニーを出してるだけの召喚士に何を教えりゃいいんだ、逆に」

「まあ、それは確かに……」

「うむそうだ。イスマにも立ち回りを教えておいてやろう」


 戦いの場での立ち回りは重要だ。

 パーティでの戦いで、居て欲しい時に居て欲しい場所に居る、という事はある意味で剣技などより大切な事だ。

 連携して攻撃をしないタイプであっても、どこにいれば仲間の手をわずらわせず安全でいられるか、という点は求められる。


「というわけで君達。ちゃんと師匠を崇めて、この石を買ってあげるんだぞ」


 魔霊石を見せびらかして、露骨に要求するソト。

 正直でよろしい。と言いたくなる程にストレートな清々しさのある物欲であった。


「いやまあ、いいですけどね。呼び方ぐらい」

「うむうむ。ちゃんと敬愛をもって呼ぶんだぞ」

「ささ、そろそろ行きましょうか」


 適当にソトをあしらって、トーラの店へと赴いた。

 約束の代金を支払い、他の物を売りつけられないようにそそくさと店を出る。

 昼食が近かったのでいい口実になった。

 冒険者ギルドかその付近のどこかの店に入る、という雑な目標しかないのだが。

 ひとまず中央広場付近でカデュウ達は近くの壁に寄りかかった。


「うーん、まずは村の食料問題の解決をしないといけないんだけど」

「やっぱり農家の人達に聞いてみるのがいいんじゃないですかね?」


 アイスの提案はもっともであった。

 食料供給が得意なのは、やはり食料関係の専門家だろう。


「転移陣のとこにある村の人達に、開拓しないかって聞いてみたらどうです?」

「うーん。すでに土地持ってる人たちが来るかなあ……。とりあえず聞くだけ聞いてみようか。でも農業だとすぐには収穫出来ないから、何か即効性のある別の分野が必要だね」

「……あそこのばーさんにも聞いてみたら」


 イスマが指を差した先には、ゴブリン退治を頼まれたカールス村のお婆さんが大きな背負い袋を抱えてひょこひょこと歩いていた。

 大量の草がパンパンに詰まり、上からはみ出ている。


「お婆さん。こんにちは。この前はお世話になりました」

「あんだべ? おやおや。あのめんこい子らでねえか。元気にしとったか」

「はい、おかげさまで。あの、お婆さん。実は僕達、誰もいない新しい土地で開拓をしようとしているんですが、どなたかそういう事に興味のある人ってご存知ですか?」


 興味深そうな顔でカデュウを見つめるお婆さん。


「土地はあるんじゃな、野山や森はあるかえ」

「エルフの森の裏側らしいですから、見渡す限り全部森ですね。山になってる部分もありましたよ」

「ほおー。そらええのう。儂も新しい場所に行ってみたかったんじゃね。爺さん連れて開拓しながらくたばるのもええじゃろ」


「え、お婆さんが来るんですか? 何がいるかわからない土地ですよ?」

「だからじゃよ、儂らのような年寄りじゃから丁度良いんじゃ。いつ死んでもおかしくないじゃろ。ひゃひゃひゃ!」

「ありがとうございます! 山菜採りのお婆さんが来てくれるととても助かりますよ」


「嬉しい事言うでねえか。どれ、村のもんに伝えて、爺さん連れてまたここに来るだで。いつ頃来たらええかね?」

「そうですね、僕らも一度街を離れるので、余裕を見て12日後ぐらいにゼップガルドのベルスの宿、という所に来て頂けますか。何日か前後するかもしれませんが……」

「ええよ。こりゃあ、楽しみが出来たのう」


 こんな簡単に新たな住人が増えるとは。しかも最も必要としていた食料担当者だ。

 山菜採りのお婆さんは、大きな荷物を抱え交易ギルドの方に歩いていく。

 多分山菜を卸しに行くのだろう。

 カデュウ達も昼食を求めて北門付近、冒険者ギルド方面へと向かった。




「ソト師匠、おすすめの店はどこでしょう?」

「良い質問だ。よし、ついてこい」


 いや、おすすめを聞いているのだが。


「そんな顔をするな。どうせ大した店はないんだ、この街は。選択の余地が無い」

「なるほど。さすがに詳しいですね、師匠」

「ふはは。何しろ、食べ歩くぐらいしかやる事なかったからな!」

「ああ……。ぼっちだったから長い事滞在してたんですね……」

「長い事じゃない、ほんのちょっとだ! ほんの2週間ぐらい!」


 長いかどうかはともかく、ほんのちょっとではない気がする期間であった。

 2週間もあんな事して絡んでいたのか……。

 ギルド内であんなにはれ物扱いだった理由がなんとなくわかってしまう。


「さ、ここだ。南ミルディアス出身の料理人が出す、産地の物を使ったパスタ屋だ」

「師匠! 素晴らしい選択です!」

「おお? なんだ、そんなにパスタが好きなのか?」

「人として当然です」

「……そ、そうか。まあ、ここの店はこの辺りじゃ唯一美味いと言って良い」


 そんな期待の店に入り早速注文をする。


「それでは、ソーセージときのこのアーリオ・オーリオで」

「早いな、カデュウ。では私はブルーチーズのショートパスタにするか」

「……よくわからない、カデュウに任せる」

「私もお任せですよー」

「俺も何がなんだかわからん、任せた」


 パスタが無い国の人々は仕方がない。

 無難な選択として牛肉を煮込んだラグーソースパスタを注文しておいた。


「食料問題はひとまずクリアされるようなので、後は建築の労働力とか防衛力かな」

「住むところは必要ですよね、一時的にはボロ城でもいいですけどー」

「防衛。つまり戦力か。それなら私に心当たりがあるな」

「おお。それは助かります、ソト師匠」

「傭兵団なんだが、まだ街との拠点契約をしてなくてな。フリーなんだ」


 拠点契約とは、傭兵に住居を提供し、色々な面で便宜を図る代わりに街の防衛をしてもらうという契約だ。

 契約内容によって、色々変わるのだろうが基本的には賃金か食料供給で支払われるらしい。

 いざという時に来るかどうかも当てにならない国の軍隊と違って、街で自前の戦力が確保出来るというわけだ。

 傭兵団の側としても、拠点がないというのは辛いものなのだ。

 どうしたって生活費がかさむのは避けられない現実である。


「人柄が問題なければ、戦力的には頼りになりそうですね。……でもまだ何もない土地に来てくれますかね?」

「さてな。そこは交渉次第だろ、将来発展する見込みがあって自分達の利に繋がるなら、と考えるかもしれないし」

「うーん、すでに発展している街がいくらでもあるのに、そこは難しいのでは……」

「あいつら変わり者だからな、何が琴線に触れるかわからん。紹介してやるから、聞くだけ聞いてみるか?」

「そうですね。聞いたって殺されるわけじゃないですからね」

「ははは。多分な」


 え? 多分?


「よし。それじゃ、あいつらのとこに行ってみるか。動いてなきゃミロステルンにいるはずだ」

「今、多分って」

「お、パスタが来たぞ。じゃー、食べたら出発しようか」

「食べましょう」


「このニンニクとオリーブオイルに地元のソーセージが合いますね。んー、美味しい! この店は当たりですよ」

「カデュウ。この食べ物美味しいですね! 故郷にも似たようなのはありましたが、全然味付けが異なります」

「……うま、うま」


 アイスやイスマの方も満足されたようだ。

 美味しいパスタが評価されるというのは嬉しいものなのだ。

 それは、パスタ好きのカデュウにとって大切な事であった。


「ははは。そうだろう。伊達に2週間食べ歩きはしていなかったぞ」

「ソト師匠ありがとうございます。師匠と出会えて良かったです!」

「いやー、えへへ。照れるにゃぁ……。いやまて? パスタの事しか褒められてなくない? なくなくない?」


 こうして楽しい昼食を終えて、急遽ミロステルンを目指し出発する事になった。

 今回はルクセンシュタッツで馬車職人に会わなくてはならないし、12日後には山菜採りのお婆さんを魔王城に案内しなくてはならない。

 冒険者ギルドの仕事は余裕を持って受けない事にした。

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