9話 設定回 歴史・マーニャ地方中部(飛ばしてもOK)

 朝早く、日が昇るころに出発したカデュウ達は、宿の朝食を断り、昨日買い込んでいた食料を歩きながら食べていた。

 初日は昼食あたりまでなら保存性を考える必要がないので、少しだけ豪華になっている。

 保存食にしてもゼップガルドの街では燻製したソーセージやベーコンを仕入れているので、最初に転移した村からの道のりに比べメニューは豊富なのだ。


 2日程度の日程なので、保存性まで気にする必要もないのかもしれないが、現地の村で仕入れられない可能性もある。

 何らかのアクシデントも考えられるので食料は余剰に買っておくのが基本だ。


 また、使う予定のない武器などは、冒険者ギルドに有料で預ける事も出来るのだが、依頼での買取の場所が道中にあるので今回は持ち歩く事になった。

 まずはゴブリン退治を依頼してきたカールス村に向かい依頼を片付けたら、若干迂回する事になるが別の道でレッツィンゲル修道院へと向かい取引を行う予定になっている。


「それでは。道中に私が、この辺りの歴史の話でもしてやろう」


 器用に最前列で後ろを向いたまま前進をしているソトは、後ろにいるカデュウら他の仲間達全体に語り掛けた。


「といっても、大昔の話じゃない。最近の情勢というやつだな」

「この辺りの国々の、関係とかですか?」

「カデュウ、正解。何故かというと、もうすぐ戦争が起きるからだ」


 ――戦争。国と国との。人と人との。

 特別な事ではない。どこかでいつも起きているような、人による自然の出来事。

 支配者側ではない者たちからすれば、たかだか支配者の名前と地図の境界線が変わるだけだ。

 慕われる支配者、憎まれる支配者、怖がられる支配者、空気な支配者、様々な支配者がいるが、民衆の側がそれを選べるわけではない。


「冒険者には大して影響はしない、ギルドは戦争関与を放棄しているからな。戦争絡みの依頼は増えるかもしれんが。だがまあ、実際に何か起きたとき、事情がわからないのでは困るだろう?」

「謎が謎のままだと気分は良くないですよー、ぜひ知っておきたいです」


 気軽な調子でアイスが同意した。


「よろしい。ではまず、この辺りの事情を理解する為には、この国を説明しなくてはならない」

「フィーネ帝国。マーニャ地方中部を領土とし、周辺全ての国へと戦乱を広げていた帝国だ。今は亡き、かつてのな」


 かつての歴史。

 カデュウも大雑把には知っているが詳しい内容までは聞いた事が無い。


「フィーネ帝国はとても強かった。周辺の中小国は蹂躙され、マーニャ地方北部やその北西側周辺地方を支配する大帝国、グランハーブスでも手を焼いていた」

「その強さの根源は帝王アガムナイン・フィーネ。フィーネ帝国創始者にして仮面王と呼ばれた男だ。仮面王は驚異的な強さで立ち塞がる敵を皆殺しにしたという。……なんで仮面帝じゃないのかって思うか? そんな事は私は知らん。呼びやすいとか、親しみやすいとか、そんなんじゃないのか」

「親しみやすいて」


 カデュウのつっこみもスルーしてソトは語り続ける。やはり後ろ向きに歩きながら。


「仮面王本人も、その精鋭軍もとにかく強かった。そして残虐だった。殺戮の限りを尽くしていた。一部では魔王の再来などとささやかれていた事もあった程だ」

「だが、その仮面王が滅ぼした国々の中から、抗う者達が出てきた。フェイタル・ブロウ・ブランダムとその仲間達だ」


 一呼吸を置いて、演説のようにソトが語り続ける。やはり後ろ向きに歩きながら。

 ……そのうち転ぶのではなかろうか。


「フェイタルは抗い続け戦い続けた。たしか25年だったかな? それぐらい長きに渡って戦い続けた。わずかばかりの人数で戦い続ける圧倒的不利であった状況から、いつしか対フィーネ帝国包囲同盟が生まれ周辺諸国やグランハーブスやクレメンス連合も加わり、フィーネ帝国の各拠点を制圧するまでになった」

「ほう、やるじゃねえか」


 シュバイニーが興味深々にその話を聞き、相槌を打った。


「そしてついにフェイタルの手によって仮面王アガムナインの首がはねられた。しかし、首を失ったはずの仮面王はそれでも動き出しフェイタルに重症を負わせたらしい。首がないからその後すぐ死んだみたいだけどな」

「……ひとまずこれでフィーネ帝国による100年ぐらいの覇道の戦いは終わり、元フィーネ帝国の大部分はフェイタルとその配下達が支配した。これが現在のフェイタル帝国だな」

「……めでたしめでたし?」


 イスマがおとぎ話のように締めくくろうとする。

 しかしソトの話はまだ続きがあった。


「ところが戦乱が終わり、フェイタルが重症を負った隙をついて、グランハーブスが動き出した。元々は自分達の領土だ、というのが奴らの言い分だ。フェイタルの配下達が奮戦したものの、奇襲に近い事もあって北部側の領土はかすめ獲られた」

「卑怯者ですねー、汚い奴らです!」

「……アイス、汚い」

「あああ、ごめんなさい」


 勢い余ったのかアイスが食べていたリンゴがイスマの顔に吹き付けられた。


「また、それとは別に戦乱の最中にフィーネ帝国から独立した領地もある。ゼップガルド王国だ。ゼップガルドはフィーネ帝国との戦いに参加していた周辺諸国が、戦後も結んでいたマーニャ地方南部同盟に参加した」

「へえー、あの国そんな経緯があったんですね」


 知っている場所だと興味の度合いも違うのだろう、ゼップガルドの歴史にアイスが食いついている。

 まあ、以前カデュウがさらっと説明したのだが、さらっとしすぎていて印象に残らなかったのかもしれない。


「それから数年、ちょくちょくグランハーブスと戦争をしながらも力を蓄え続けていたフェイタル帝国が、南部地方に攻め込む気配がみられるのさ」

「何故、南部に?」


 カデュウの疑問にソトが答える。


「恨みもあったんじゃないかな、結果的にはフェイタルが戦っていた隙をついて出し抜いて独立した形だし、共にフィーネ帝国と戦ったはずの南部同盟ともあまり仲は良くないみたいだ」

「まあだが。一番の理由は簡単だ。――潰しやすいから。弱いから」


 率直だが、実にもっともな理由でもあった。

 弱いという事は、攻められやすいという事でもある。戦争を仕掛けられる理由になりうるのだ。


「つまり、そういう歴史的な過程があって、これから戦争になりそう。って事ですか」

「うむ、その通り。軍事力ではフェイタル帝国が有利だが、南部同盟もまたフィーネ帝国の猛攻を耐えた国々だ。長引くかもしれんし、長引けば北部からグランハーブスが攻めてくる。難しい状況ではあるな」


 客観的事実から、ソトは現在の情勢を語った。

 そしてその言葉に付け足す。これからどうなりそうなのかを。


「でもな。私の個人的見解から言えば、フェイタル帝国が勝つだろうな。フィーネ帝国と戦い続けた精鋭達が揃っているのもあるが、あそこの将軍達、帝国八軍将と呼ばれるやつらは名将揃いだよ。ま、時間の問題だな」


 その言葉を聞いたカデュウは考え込み目を閉じる。

 このままではまずいのかもしれない、と。

 どうするべきなのか。約束がある。その時までに決心を固めておくべきであった。


「しかしソトさん凄いですね、冒険者なのに国家情勢に詳しいなんて」

「ふはっは。何しろ私は天才だからな!……冒険者にあまり影響はないといえども、それでも影響はあるし、場合によっては我々がどこかの国に結果的に影響を与える事もありうる。知らんよりは知っておいた方が良い、良いように利用されない為にもな」

「なんでそんなに見識があってまともそうなのに、ボッチなんですか?」


 あ、しまった。と、発言したカデュウはすぐに失言を悟る。ついつい口が滑ってしまった。

 余計な事を言うのは悪い癖だ。


「いや、まあ、その……。あいつらに見る目が無かったんだ、そうだ! 私は悪くない! 間違っているのは、世界とか世間とか政治とか、そんな感じのものだ!」


 しどろもどろになって謎の弁解をしだした。

 ハクアとはまた違った反応だ。


「政治は関係ないと思いますよ……、あ、あぶないで」

「あた」


 そしてついに、木にぶつかって倒れる事となった。変な歩法の代償である。


「くそ。森の入り口になったか。太陽の位置から見て時間はまだあるな。休憩は取らずこのまま森に入ってしまおう」


 この森は物凄く茂っていて暗かった。ブナの木だろうか。

 無事通り抜けられるのか、という不安がカデュウによぎる。

 しかしここで休憩を取り時間をかけるのは愚策だ、森は明るいうちに進むべきであった。

 だが、カデュウの想定は別の方向性で覆された。

 なんと、森は少ししかなかったのだ。

 森の入り口から少々歩いた辺りですでに、大分伐採され通りやすい道が作られていた。


「あー、うん。思ったより余裕だったので、もう少し歩いたらその辺の切株に座って昼食にするか。うん」


 ベテラン冒険者も予想外のようだった。

 ……良い方向性に予想が覆されたのだから良い事なのだろう。

 村への旅は順調に進んでいた。

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