7話 指導者は金髪ロリ

 途中にあった村への道を辿るまでもなかった。

 食料は問題なく補充の必要はなかった為に、そのまま目的地へ向かう。

 4日の道程と聞いていたが、3日ほどで到着した。


 ゼップガルド王国の王都ゼップガルド。

 石を積み上げただけ、というぐらいに無骨な城壁のこの街は、王都とはいえそこまで大きな都市でもない。

 田舎の中の都市、カデュウの故郷ル・マリアのような立ち位置の街であった。

 北部へ行く為の通り道の1つではあるが要所ではなく、どちらかというと、ここの南の都市ルクセンシュタッツの方が一般的には重視されているだろう。


 まずは門番に冒険者許可証を見せて、街へ入れてもらう。

 冒険者と言っても新人なので信用度は低いが、冒険者は通行税が免除される。

 ファナキアの場合は自由都市なので例外的に通行税自体が無いのだが、普通の国では通行税を払うのが一般的だ。


 この辺りは、冒険者ギルドの威光がありがたい。

 歴史と長き伝統から、民衆に望まれている冒険者ギルドに余計な干渉を行うのは、国家としても危険な行為であるし、過去いくつかの国がそうして失敗し滅んできた。


 また、これには国側にもメリットがある。

 民の問題や不満の多くは冒険者ギルドに丸投げできるので、あまり予算をかけず治安維持に繋げられるのだ。

 国が一々軍隊を動かして、魔物退治や盗賊退治などを行う必要が薄れるという事は、他の箇所に戦力を注げるという意味でもある。


 つまり他国との戦争だ。

 そしてこれは常時行われるものではないので、軍隊も常時大勢を雇っていく必要は無くなる。

 すると必要な時にだけ兵士を集めればいいので、契約雇用の傭兵の出番である。

 もっとも、生半可な軍隊よりも、戦場で戦い続けている傭兵の方が戦力として頼れる、という背景もあるのだが。


 ちなみに、夜であったのなら盗賊や魔物の侵入を警戒して門が閉じられており、一晩待たされる事になる。

 現在はまだ昼過ぎぐらいの時間なのでカデュウ達の場合はその心配はなかった。


「意外と早く着いたね、よかったよかった」

「村長さんの速度での日程だったのかもですねー」


 冒険者が荷物をあまり持たずに移動した、という点もあるだろう。

 一度も襲われなかった事も幸運だった。

 あの村を襲った連中と遭遇する可能性もありえたのだが。

 そう考えていたカデュウの横から、シュバイニーが尋ねてきた。


「これからどうするんだ、カデュウ?」

「まずは、宿に。と行きたいところですが、服屋です。目立つので服を変えないと」

「目立つと、だめなのか?」

「目立つと……絡まれる頻度があがったり、金持ちだと思われて盗みの対象になったり、するんじゃないかなーと」


「その方がしばき倒して金奪えるんじゃないのか?」

「なんという脳筋思考……。だが一理ある」

「ジュパっといっちゃいましょうよ」


 アイスも含め、大分物騒な考え方になっているが、生活苦の現実があると心が荒んでくるのかもしれない。

 服代の節約にもなるし、目立つ事には目をつむろうとカデュウは方針を変えた。

 どの道、冒険をする上で各自の防具を買う事にはなるのだし。


「それじゃ、宿を探す為に、冒険者ギルドに向かおうか。」


 踏み固めた土からなる大通りを進む。

 活気がない光景だが閑静という程でもなく、そこそこの街という印象であった。

 南ミルディアス地方の建築様式とそこまで差異はなく、全体的に古臭くも飾らない風潮が見え隠れしている。


 ファナキアは良い意味で歴史ある風情を残しているのだが、ゼップガルドの建物は古いとも新しいとも言えないところ。

 ただ、なんというのか。雰囲気があまり明るくないのだ。

 この王国は少し前に独立して出来たものだと聞くが、新しい王の統治が上手くいっていないのだろうか。


 冒険者ギルドの位置がわからなかったので近くの人に聞き、なんとか辿り着いた。

 中央より北門側にある冒険者ギルドのゼップガルド支部は、街の規模に比べて意外に大きいギルドであった。

 周囲のと同じく石造りの建物で、2階と3階は木造で作られていた。

 屋上部分からすこしはみ出しているのは固定式のバリスタであろうか?

 かつてこういうものを必要とした戦いがあったのかもしれない。


 そのまま冒険者ギルドへと、カデュウが先頭になってパイン材のスイング式のドアをくぐった。

 ドアの先のギルドの酒場部分へ足を踏み入れる。

 入れ替わりで他の冒険者達が5人程出て行った、比較的若いメンバーだ。

 カデュウ達は酒を飲みにきたわけではないので、そのまま受付口へと向かう。


「あの、冒険者登録を行いたいのですが。あ、僕以外の2人です」

「はい、承りました。ではお2人方、こちらの部屋にいらしてください」

「カデュウ、この人についてけばいいです?」

「うん、そっちの酒場のテーブルで待ってるから」

「……らじゃった」


 別に冒険者登録をしなくても一緒に仕事をこなす事は出来るのだが、人数が一定以上という条件が決められている場合もあるし、他のパーティと混同で行う仕事に参加しづらい。

 それに冒険者としての実績が付かないので、カデュウが居なかったり、別に行動をしていたり、といった場合に活動の選択肢が減ってしまう。

 仕事の難易度によっては2手に分かれて稼ぐという方法もあるのだ。


 登録自体は、怪しい者、犯罪者として記録されている者、ギルドの前科のある者、性格に著しく問題が見られる者、のような類の人物以外は大体通るぐらいには簡単であるし、無料なのでやっておくに越した事はない。

 

 難易度が低いという背景には、貧困層の受け皿という側面があるし、乱暴な話だが別に死んでしまってもギルドとしては構わないのだ。

 実際に死者は少なくないだろう。

 積極的に人減らしをするわけではないが、力量を過信して死ぬ輩の面倒までは見ていられない。


 だが依頼が失敗して取り返しがつかない事になるのは、ギルド側としても避けたいので、斡旋の際はギルド職員がその依頼を行うに相応しい者かを見極める事となっている。

 中級冒険者メディオのランク以上のベテランの冒険者が指導者として求められるのも、そのシステムの一環なのだろう。


 冒険者にいたずらに被害が出るような事は、冒険者ギルドも避けているのだが、冒険者の本分は「冒険」を自分の意志でする事にあるので、ある程度の犠牲は仕方のない事と言える。


「さて、シュバイニーさん。あっちで待ってましょうか……ってアレ?」


 きょろきょろと見渡しても見当たらない。

 これは一緒に付いていってしまったのかもしれない。

 ……ダメならダメで職員が適切な判断をするだろうと結論付け、1人でジュースでも飲みながら待つ事にした。


「何を飲もうかなー。……まずは現地の在住の方におすすめを聞いてからかな」


 地方や街ごとに特産な品があるし、店ごとに売りも違うものだ。

 味の好みは人それぞれあれど、その場所でのおすすめのものは、当たりでもハズレでも味わっておくのが一興だ。

 そう考え、適切な人物に聞いてみようかと思った所……。


 少し離れた位置から、カデュウを思いっきり見つめている冒険者がいた。

 身体的特徴からしてホビックの……女性。

 キリッとした碧い目と、プラチナブロンドの髪が特徴的だ。

 前髪の右側が切り揃えられているが、左側は伸ばされている変則的な髪形をしている。

 手にはガントレットを装着し、首にはマフラーを巻きその下にはマントを羽織っていた。


 そんな存在感たっぷりのお方と、ばっちり目があってしまった。


「やあ、奇遇だな。そこの若者よ」


 ニヤリと笑ったかと思うと、すぐさま話しかけてきた。

 やばい。カデュウは直感した。

 厄介そうな気がする、ホビックの姿がそう思わせているのだろうか。


「奇遇なので飲み物をおごってやろう。さ、リンゴジュースでもブドウジュースでもミルクでも好きなのを選ぶといい」


 選択を迫られていて激しく聞きにくい状態だが、言わねばならなかった。


「あ、あの。よかったら、この辺りのおすすめのジュースを教えていただけませんか」

「ほほう。ならばリンゴジュースを選ぶが良い、この辺りはリンゴ農家が多い。それにブドウジュースはちょっと高いからな、うん」


 若干後半の部分が気になるが、おすすめに従う事にしよう。


「それじゃあ、リンゴジュースにしてみます」

「よし、そこで待っていたまえ」

「あ、自分で買いますよ……?」

「いいからいいから」


 やたら強引におごりたがっている点が気になるのだが……。

 先輩と思われる冒険者の強い主張には逆らえず、おごられる事となった。


「……ん! これは美味しいですね。当たりですよ」

「そうだろうそうだろう」

「ありがとうございます、……えーと」

「自己紹介が遅れたな、私の名はソト・エルケノ。魔術師だ」


 ソトと名乗ったホビックは、タックを思い出すようなドヤ顔で胸を張っている。

 ……この手の感じはホビックの共通事項なのだろうか。


「僕はカデュウ・ヴァレディです」

「カデュウか。良い名前だ、うん。その初々しさは新人かな?」

「はい、さすがの観察眼ですね」

「そうだろうそうだろう。では指導者はいるか?」

「いたんですけど、はぐれてしまっていますね」


「おお、なんとかわいそうな。よよよ。というわけでここに中級冒険者メディオの私がいる、指導者として見守ってやろう。うん」

「……パーティの方はいらっしゃらないんですか?」

「……丁度、1人でね。運が良いよ君は! こんな天才魔術師が余っているとは!」


 ……怪しい、とてつもなく怪しい。

 しかし指導者となれる冒険者が必要な事も事実だ。

 状況の確認の為に、気分を落ち着けて周囲を見渡してみる。

 ……ヒソヒソこっちを見て何か言ってたり、酒場のマスターがこっちを見て首を振っていた。


「……あの」

「何!? ぜひ一緒に来て欲しい!? そうかそうか、リンゴジュースを奢った恩もあるし、いや違った縁がな」


 カデュウは、もはや逃げられない立場にある事を悟った。

 酒場のマスターが手で頭をかかえており、周囲の冒険者達は『あいつ可哀そうに……寄生されたぞ』などと囁き合っていた。

 その囁きもソトが睨みつけると、目を逸らす始末だ。


 周囲の反応が非常に非常に気になるが、こうなってしまっては仕方がない。

 ひとまず受け入れるしかなかった。

 この手の人物には逆らってはいけないと、直感様が告げていたのだ。


「それじゃあ、よろしく。私のような天才が居ればもう安心だ」

「……はい。……よろしくお願いします」


 ソトの押しの強さにうなずく他なかった。

 もう完全にそういう空気であった。

 まあ、指導者は必要だったのだ。しかもパーティに不足している魔術師だ、空いているポジションが勝手に埋まったのだから良かったとカデュウは思う事にした。

 気持ちの切り替えは大切である。


「それで、あの。ソトさんは、ここの冒険者ギルドの所属なんですか? 僕、逍遥者しょうようしゃなので旅をするのですが」

「おお、そいつはますます奇遇だな。私も旅をするタイプだ、どっちでもいいけどな。安心したまえ、私が気に入ってる限りは離れないからな」


 同じ逍遥者しょうようしゃとして旅が出来るのなら、適役なのかもしれない。

 ……いまさらっと寄生宣言をされた気がしたが、カデュウは考えない事にした。

 冒険者色々、先輩も色々という事なのだろう。ハクアとは大分毛色の違う人だった。


「ではカデュウの仲間が適性試験から戻ってきたら挨拶をしないとな」

「……よく知ってますね」

「ギルドに来た時から狙いを……いや、うん。……勘だ」

「今、狙いをって……」

「勘だ。見たところ指導者らしき者はいないな、と察した辺りが特に」


 鋭い観察眼というべきか、広い視野というべきか、何故そんな事をチェックしていたのかとつっこむべきなのか。

 少なくともソトという人が面白い人物なのは間違いないようだ。


 それから少しして、奥で試験をしていた2人と、おまけの1人が返ってきた。

 カデュウの座る席までやってきたアイス達が、ソトの姿を見て尋ねた。


「カデュウ、こちら様はどちら様なんです?」

「えーと、冒険者として活動する上で指導者が必要なんだけど、その指導者になってくれた人、かな」

「ソト・エルケノだ、よろしくな」

「……よろしく。イスマイリと言う。イスマと呼ばれる。大体そんな感じ」

「それはそれは、お世話になります。よろしくですよ、私はアイスです」

「なんだ知らぬ間に増えたのか。戦力不足だったしいいんじゃねえの。俺はシュバイニーだ」


 つつがなく自己紹介と挨拶も終わった。

 特に問題なく受け入れられたようで何よりだ。

 カデュウが話を進めるべく口を開く。


「それで、試験は通ったかな」

「もちろんですよ。難関はイスマの言葉足らず感ですね。何言ってるのかわからない箇所に職員さんが悩んでました」

「それじゃあ、シュバイニーがついてった件は問題なかったの?」

「……召喚してるって言ったら、問題なかった」

「ああもう面倒臭いからいいや、とか言ってましたよあの職員さん」


 アイスの言葉により裏での光景が目に浮かんできた。

 職員の雑さにカデュウは驚きつつも感謝した。

 冒険者適性に言葉足らずはダメだとか、変な男を召喚してはいけない、なんてないからなあ……。そんな風にも考えつつ。


 ただ、召喚できるという事は、数少ない貴重な魔術師という事でもある。

 冒険者ギルドとしては性格面で問題がなければ、是非受け入れたい人材なのだ。


「ほう、召喚士か。結構結構。ならばこのソト・エルケノを師と崇めるが良い」


 いきなり何言ってんだこの人。

 とカデュウ思ってしまったが、そういえば魔術師だと言っていた事を思い出す。


「……何言ってんのこの人」


 ……考える事は同じだったらしい。

 イスマは率直過ぎると言うか、素直だと言うか。

 カデュウとしては、もう少し波風の立たない言い方を覚えてして欲しいと思った。


「あー。うん。気持ちはわかるけど。ソトさんは魔術師だと言っていたから、きっと召喚系の魔術も習得しているんじゃないかな?」

「おお、まだ君達には言ってなかったか。天才魔術師だぞ、私は。しかも召喚みたいなものは専門分野だ。いつでも崇めてくれたまえ」

「……なるほど。ソトししょーか。……こっちの国は楽しい」


 イスマも独特の思考をしているので、カデュウにも反応読めなかったが、上手くまとまったようであった。

 それにしても、よくわからないところに楽しみを見出すものである。

 さて、面通しが終わった所で、ギルドの依頼を探さなくては。


「ソトさん、それでは依頼を探しましょうよ」

「興味ない、任せる。金になれば何でも良い」


 えらく投げっぱなしな指導者であった。

 仕方がないので、カデュウが受付口に向かう事になった。

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