6話 設定回 ジオール教(飛ばしてもOK)

 日が昇りはじめた早朝、カデュウ達は手早く準備を整え旅を再開した。

 野営で設置するもの自体が少ないので手間がかからない。

 代わりに防寒だとか寝心地だとかは著しく犠牲になっているのだが。


 寝る前に魔術で、生物やらなにやらの色々なものを忌避しておこうとしたら、イスマが出来るというので任せてみた。

 結果として問題なく快適に寝れたので、同じような魔術だったのかもしれない。


 朝食はどうせパンなので、歩きながら食べる事にした。

 村長からの地図によると、今日は1日森を歩く事になるらしい。

 大雑把な地図なので正確かどうかは怪しいのだが、平原より危険度が上がる森を早めに抜けられるのなら、それはそれで構わない。


「……おおー」


 イスマが森の中をみて感心していた。

 相変わらず表情に変化はないがご機嫌なように見える。


 天気は今日も快晴だ、雨でないのが特にありがたい。

 徒歩の旅で雨は大敵となる。

 視界は悪くなり足場も悪くなるし、冷えて身体に支障が出てくる、火はつかないし、食べ物にも被害が出るかもしれない。

 森だとなおさらによろしくない。


 この森は、パネ・ラミデ付近のと明るさ等は同じような雰囲気だが、木の種類が異なっていた。こちらはスプルースの木であろう。

 村長の地図によると分かれ道の森と書いてある、正式名称ではなく地元で勝手に呼んでいる雰囲気が漂う名であった。


「しかし、なんで少し前まで新人として教わりだしたはずの僕が教える側になっているんだか……何かが間違っているよね」

「世の中何が起きるかわからないですね。ここでこうしてみんなで歩いているのも、少し前までは想像も出来なかったでしょう」


「そうだね。アイスは剣を習ってたの?」

「お爺ちゃんとお父さんから教わってました、お爺ちゃんの友達っていう変な人からも教わりましたよ。あの人、今にして思えばこっちの方の服装に近いかもです」

「へぇ~、じゃあアイスの国はそこまで離れてはいないのかもね」

「そうかもですねー」


 森の落ち葉を踏みしめ転ばぬように気を付けていく。

 アイスと会話していたカデュウだが、気が付けばイスマが隣に並んでこちらを見つめてくる。

 何だろうと考えて、昨日寝る前にした約束を思い出した。


「ああ、そうだったね。じゃあ宗教の話をしようか。といっても僕は信仰心が篤い方じゃなかったし詳しくはないけど」

「……その方が良い、客観的なの大事」

「宗教キチガイみてえのは参考にならねえからなあ、俺も昔は苦労したぜ」


 しみじみと語るシュバイニー。この召喚されたらしき人も、よくわからない存在ではあるが、とても人間らしいというか人間そのものの姿と中身である。

 宗教も違うらしいし、お国柄で魔術も違うのかもしれない。

 カデュウの拙い魔術知識では正確な所はわからないのだが。


「まず、ジオール教の主神と言われるのが、秩序と裁きの神ゼナー。教会や聖職者の大半はこのゼナー派だね」

「他に存在する宗派は、戦いと文明の神インティ、全ての精霊の神ケルズ、言語と魔術の神エンリル、自然と芸術の神ガウディ、使えしものの神ジオール、運命と時空の神クローズ。こんな神々がジオール教の宗派として信仰されているんだ」

「……主神じゃないのになんでジオール教って呼ばれてるの?」


 大変もっともな疑問である。

 普通に考えたら主神の名になるか、もっと別の名称になる。

 イスマの疑問にカデュウが答えた。


「それはこのジオールが神々の戦いの後に最後に残った神だと言われていて、この創世神話を伝えたから、らしいね」

「つまり、他の神々はくたばったって事か?」

「神々は最後に神同士の戦いを行ってみんな消え去ったと伝えられていて、その戦いの相手がこれからいう邪神と呼ばれている存在ですね」


 シュバイニーの言う通り、要するにくたばったのだが。

 何故神は消え去ったのか、という過程も説明していく。


「光と闇の神アティラ、というのが邪神側の主神という事になる。他に災厄と魔物の神バスコという邪神が協力していたらしい」

「その神話の戦いで神は滅んだけど、それを嘆いた人々を救うために新たに生まれたのが慈愛と許しの女神ティアラ。宗派としての大きさはゼナーに継ぐ2番目になるのかな。教えの優しさと癒しの力で大人気だね」

「どんな戦いだったんです?」


 アイスからの質問だ。答えたいところであるが、あいにくカデュウは伝道師ではなかった。


「うーん、そこは先生から教わってなくて。僕も知らないんだ。とりあえず大して詳しくなくても暮らしていく上で不便はなかったよ。まったく知らないとまずいだろうけど」

「……なるほど、ふむふむ。……大体わかった」


 手のひらをキリッと閉じた形で小さく掲げる。ありがとう、と言っているようだ。

 イスマの無表情の中の表現にも慣れてきた。

 そういえば、人間の感情は顔よりも体の方にこそ多く出るものだ、と先生が言っていた。


「……アル・クルアーンの元となったという悠久口伝。伝わるはじまりの地と、そこから分かたれた原初の旅。大体そんな感じ?」

「なるほどな……、カデュウよ。それでわかると思うか?」

「うん、さっぱりわからない」


 なんで? と首を斜めにかしげるイスマ。

 シュバイニーですらわからないのだから、カデュウにわかるわけがない。

 理解できたのは、原初の旅、というのがあの遺跡で聞いた言葉だって事ぐらいだ。


「あの、そろそろ違う話にしてもらっていいです? あんまり一気に覚える事でもないかなって」


 アイスの反応も無理からぬ事だとカデュウは思った。

 カデュウ自体が詳しくない事なので、単語の羅列に留まっている。これでは興味がもてなくて当然だ。

 ハクアが居ればもっと詳細に語れたのだろうけれど、それはそれで一日中語りっぱなしになってそうでもある。

 タックあたりが暴れたり寝たりしてそうだな、と考えクスリと笑った。


「それじゃ、僕が冒険者となってから、ここに来るまでの話でもしようか、愉快な仲間達の話も一緒にね」


 葉を踏み枝を折り、森を進む。明るく気持ちのいい森であった。

 目的の街までまだかかる。ただ歩くだけよりも会話をしながらの方が楽なものだ。

 こうして森を無事抜ける事が出来た。

 夕暮れの色が時刻を示している、思ったよりも早いペースであった。

 今日はこの辺りで野営となるようだ。

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