5話 旅の道は野営の道

 ともあれ支度は整った。

 村人にお礼を言ってゼップガルドの街へと歩き出した。

 村長が言うには、ただ道をそのまま歩いていけば到着するらしい。


 戦闘は難しい、と言っていたシュバイニーだが、荷物を持つぐらいは出来るとの事で、5日分ぐらいの水と食料のほとんどを持ってくれている。

 旅をする上で難点となるのは荷物の重量なので、そこがある程度クリアされているのは助かった。


 落ち着いた気分で歩きながら景色を眺めてみた。

 のどかな光景だ。同じような景色を少し前に見たのだが、隣にいるのはまったく別の仲間達、なんとも不思議な気持ちになる。


「どうしました、カデュウ?」

「なんだか、今ここでこうしている事が変な気分だなって思って。これはこれで楽しいけどね」


 覗き込んできたアイスに、カデュウはそのままの気持ちを笑顔で答えた。

 困惑もある。感慨もある。楽しさもある。

 これも未知の体験、あるいは冒険なのかもしれない。


 空を見れば青空と日光。快晴であった。今日は鳥の姿は見かけなかった。

 木も見える範囲では生えていない。

 草もそこまでではなく、草原というよりは平原というべきだろうか。

 土壌はさほど豊かではないのかもしれない。




 しばらく歩いたところで最初の休憩を挟んだ。

 日の高さから昼時を過ぎた辺りだと推測できる。


 保存食といえば干し肉や干し魚が代表的だが、あの村は生憎と肉は作っていないし魚とは縁のない内地であった。どこかに川ならあるのかもしれないが。

 村から頂いたものは、パンと干したベリーやナッツに野菜類。


 軽い休憩なので調理は行わない。

 まずは、あまり日持ちしないパンと野菜を先に食べるべきである。

 調理と言ってもそもそも調理器具自体がないので、パンにベリーやナッツを挟んで食べるぐらいしか思い付かなかったが。

 食事のバリエーションを求めるなら、現地調達かつ、器具が不要なもので調理する必要がある。


「こういうのは私が住んでいた辺りじゃ食べた事なかったですよ」

「……大分違う。なかなか新鮮」


 誰も美味しいとは言わなかったので、喜んでいるのかどうかはわからないが、珍しいものだったらしい。

 自分は人間ではないと言っていたが、シュバイニーも食べている。

 栄養を自己補給する事で、魔力負担の軽減に繋がっているのだろうか。

 カデュウには召喚士の知識がないのでわからなかった。


「そうだ。みんなの得意な分野を聞いておこうかな。僕は剣と魔術が少し出来る程度なんだけど……」

「魔術が使えるなんて凄いですね。私は剣以外出来ないですよ」

「俺は荷物持ち」

「……荷物持ちの維持?」


 何とも言い難いパーティだった。

 実質、前衛2人のみである。偶然出会った者たちで固まっただけなので仕方ない。

 とりあえず後者2人は得意な分野とかそういう話ですらなかった。

 イスマは本来は召喚士なのだろうけれど。


「魔術と言っても攻撃できる凄い奴じゃなくて、明かりつけたりちょっとごまかすぐらいの何かが出来るって程度なんだけどね。それに僕は剣の才能がないから」

「昨日結構スッパスパしてましたけどね。あの人達雑魚過ぎではありましたけど」

「後ろから暗殺者の真似事で処理していっただけだしね。技量とはあまり関係ないかなあ」


 ひとまず戦力の確認のついでに、共通認識を持ってもらう事は出来た。

 無茶をしない為には、どこまでが無茶なのか知っておくべきなのだ。

 自分が何が出来るのか、仲間がどこまで出来るのか、そこまでは実際のところを見ない事には始まらないのだが。


「じゃ、みんな食べ終わったしそろそろ行こう」

「……はーい。出発出発」


 表情は動いていないのだが、イスマが心なしか楽しそうに見える。

 そういえばイスマも不思議な子だ。

 性別不詳に見えていた時もあったが、こうしてみると女の子のようであった。

 雰囲気自体が最初の頃と違っている。こっちが素なのだろうか。

 細々とした模様が描かれている高い技術の高級そうな服を着ているし、貴族や富豪といった上流階級出身なのかもしれない。



 再び歩き出す。夕方頃になってくると、道中で野生の馬であるとか猪であるとか鹿であるとか、そんな動物類もちらほらと見かけた。

 あの村の村長によれば、目的地の街に行くまでに人が住んでいる場所は1つだけ。

 逆に言えば動物や、魔物魔獣の領域という事になる。


 さて、歩き続けたところ森の手前の分岐点にきた。

 そろそろ日が落ちる頃だし、森に入る前に夜を過ごした方がいいだろうとカデュウは他の者の同意を取り、野営の支度をはじめた。


 森の近くなので、燃えそうな木の枝を手分けをして集めていく。 

 テントなどという贅沢品は当然なく、毛布すら持ち合わせていない。

 代用としてオーバーサイズのローブを毛布代わりに包まって寝る事になるわけだ。

 ある意味では手間がかからないと言えなくもない。


「では食事の合間に、知っておいた方が良い事を伝えていくよ」


 カデュウが左手に持っている野菜を挟んだパンは、焚火で少し炙って香ばしさを引き出しているものだ。

 焼いた肉やソーセージなども挟むと美味しくなるのだが、ないものねだりをしても始まらない。

 美味しいという事はないが、まずいという程のものでもない。

 飢え死にしないだけありがたいというものだ。


「まず、これから行く場所のおさらいをしておこうか」

「ほい、お願いしますよ」


 口にパンをちぎって入れながら、アイスが相槌を打つ。


「この辺りを治めている国の名がゼップガルド王国、少し前に仮面王戦争で独立した新興国だね。そしてその王都となるのが、都市ゼップガルド」


「この国はマーニャ地方南部の位置にある。北には同じく仮面王戦争で独立したフェイタル帝国っていう大きめの国があって、西にノイエンガルド王国、南にルクセンシュタッツ王国、南西にベルマイヤー王国、南南西にミロステルン王国がある」


「フェイタル帝国は、仮面王の国だったフィーネ帝国の領土の半分ぐらい占領し継承しているので結構大きい国だけど、南部地方の他の国は小さい国々なんだよね」


「これらの国々の南の位置にファナキアって街があって、僕はそこから飛んできたんだ」


 一気に説明してしまった。

 もう少し興味が出るように解説を加えるべきだったかもしれない。


「居た場所が、結構近くだったんですねー」

「……ご近所さん」


 説明が上手くいかなかったかと不安になったカデュウだが、アイスもイスマも返事をしてくれていた。


「うん、マーニャ地方南部には昔に来た事があるし、さっき言ったルクセンシュタッツって所には同じ先生に教わった親友がいるんだ」

「カデュウが色々知ってる人で助かりますよ、運が良かった。私なんかさっぱりです」

「……なるほど、なるほど。という気分」


 カデュウはそこまで詳しい方ではないのだが、さすがに住んでいる場所付近の常識的な事ぐらいはわかる。

 意外と言うべきか見た目通りというべきか、野性的な物言いの割に眼鏡をかけて知的な外見をしているシュバイニーなどは、興味深々で聞いていた。


「それで、行先はそのゼップガルドって国の王都。ここに冒険者ギルドがあるはずなので、そこでみんなで登録してお仕事を貰ってお金を稼ごう、という流れだね」


 食事もすでに終わり、そろそろ寝ようかなとカデュウが考えたところでイスマが別の質問を持ってきた。


「……神は、宗教はどうなってるの?」


 どういう意味だろうか。

 考えてもよくわからないので知っている事を答えてみる事にした。


「もちろん、ジオール教のゼナー様やそれに連なる神々を多くの人が崇めてるんじゃないかな?」

「……そんな宗教知らない」


 これは意外であった。だが違う信仰を持つ国も中にはある。

 カデュウが知る範囲でも、マルク帝国ではこの大陸と違い、1つの神が全てだというマスダール教という宗教が主流だ。


「よかったな」


 何故か嬉しそうにイスマに微笑むシュバイニー。

 知らない宗教が嬉しいのだろうか?


「とりあえずその辺の話も聞いておいた方がいいですね、変な発言したら面倒になりそうです」

「確かにそうだね。じゃあそこもやっておこうか……。でも明日でいいかな、歩きながら話すよ。そろそろ寝ないとね」

「あ、そうでしたね。じゃあ明日です」

「……すりーぴん」

「おう、見張りはやっといてやる。寝とけ寝とけ」


 やはり召喚された存在は寝なくていいのだろうか。交代もする必要はないらしい。

 こうしてとても平穏な1日が終わった。

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