4話 死体漁りは冒険者の嗜みですよね

 朝日が昇り始めた頃、まだ早い時間だがカデュウは目を覚ました。

 ベッドを2人に譲り、床で寝ていた為、眠りが浅かったのかもしれない。


 とにかく起きてしまったものは仕方がない。

 物音を立てないように気を付けながら家の外へと出た。

 1階部分には他の村人が何人か寝泊まりしていたらしい。


 明るくなったことで、夜にはあまり気にならなかった敵の死体の姿が目に入った。

 近づき持ち物を調べてみようと考える。役立つものがあるかもしれない。


「……これ、紋章?」


 ふと、死体の服についていた紋章が気になった。

 もしかしたらただの盗賊ではないのかもしれない。詳しく調べてみる事にした。

 ……銀貨が6枚、銅貨が2枚。しけていた。


「何か他のものはないかなっと。あ、このナイフは拾っておこうかな」


 目ぼしいものは見当たらない。


「何もなかった……。しけているのは村じゃなくてこいつらだよーっと」


 物自体が何も出てこない。

 何も持っていないからこそ、盗賊行為をしているのかもしれないが。


「それじゃ、他の奴も……っと、この紋章について調べるんだった」


 カデュウは漁るのに夢中になってしまっていた。

 きっと冒険者の性だろうと思う事にした。

 とはいえこの死体からは他の手がかりがない、他の場所を調べに移動をする。


 少し歩いて次の手がかりの元を見つけた。

 こちらの盗賊面した人は、革鎧に付けられた紋章の下に文字が書いてあった。

 どちら様も盗賊面というか野盗面というか山賊面というか、そういう何かなので違いはあまり無いのだが。


「……クースピークス?」


 聞いた事がない。少なくともそのような国家や街は存在しない。

 という事は何らかのチーム名という可能性が高そうだ。

 問題は何の集団なのか、だ。

 ただの盗賊の集まりなのか、あるいは……。


「もしかしたら、傭兵の下っ端、って事はあるのかも」


 その紋章部分を切り取って確保しておいた。

 そして銀貨8枚を見つける。先程よりはマシな収穫だ。


「他にも死体はあるけど、とりあえず手がかりは手に入れたし、戻りますかね」


 浄化魔術を使い汚れや臭いを消し去る。

 朝の軽い散歩を終えて、カデュウは村長宅へと戻った。

 年寄りだけあって早起きなのか村長がすでに起きていた。

 食事の支度をしているようだ。


「おお、冒険者様。お早いですな」

「おはようございます、目が覚めてしまったので散歩に行ってました。あ、僕はカデュウと申します」


 そういえば名乗っていなかった、とカデュウは思い出す。


「村長さん、クースピークスって何かわかりますか?」


 村長は少し考えるように頭に指を当てた。

 表情から察するに心当たりはないようだ。


「いえ、聞いた事もございませんな」

「なるほど、ありがとうございます。……良い匂いですね、美味しそうです」

「喜んでいただければ儂も嬉しいですな、もう少しで出来ますよ」


 小麦の焼ける香ばしい匂いがする、朝食のパンを用意しているのであろう。

 ありがたい事だ、今日の食に感謝を。


「それでは他の者を呼んできます」


 そう伝えてカデュウは2階へ上がった。

 寝泊まりしていた部屋では、すでに皆が起きていた。


「食事がもうすぐ出来るそうだよ、まずは食べよう」

「そうしましょう、どこへ行っていたかはその後に聞きましょう」


 当然ながらカデュウ1人が、無断で出歩いていた事は気にされていたようだ。

 しかしまずは食事の時間である。カデュウ達は揃って食卓に移動した


 テーブルには、焼きたてのパンがすでに並べられていた。

 農家らしい全粒粉のパンだ。

 厨房から他の匂いも漂ってくる。先程は気にしていなかったが村長の孫娘だろうか、若い女性が厨房でシチューを煮込んでいた。


 そこら辺で寝ていた他の村人も長机に自分達の食事の用意をしている。

 カデュウ達も別に用意されたテーブルにつき、朝食を開始した。


「ところで、ここはどの辺りの国や位置なのでしょう?」

「おや、迷い人でいらっしゃいますかな? ここはゼップガルド王の領地ですな。一番外れの東側、エルフの森の付近です」

「ゼップガルド、……となるとマーニャ地方ですか」


 元々居た、南ミルディアス地方の都市ファナキアから北上していき、他の小国を1つ挟んだ位置だ。思ったより離れた位置ではなかった。

 ハクア達と意外に早く再会できるのかもしれないが、ハクア達も移動する事だろう。うまく会えるかというとかなり偶然を頼る事になる。

 どの道、旅費が必要にはなるので無理に探しに行く事は出来ない。


 そういえば、その間にある小国ルクセンシュタッツには共に先生の下で修業をしていた同年代の弟子が居たのだが、元気にしているだろうか。とカデュウは懐かしく昔を思い返していた。


「よくわからないので、後で教えてくださいね。この辺りに詳しい人がいて助かりますよ、ほんと」


 アイスはそう言うとパンをちぎってシチューにつけて口に入れた。

 皆にこの辺りの国や常識などの基礎知識は教えた方が良さそうだ。

 カデュウ1人しか理解していない現状では、相談もできないので厳しい。


「しかしおめえ様方、変わった服だべや」


 カデュウからみても個性的な、異国情緒を感じさせるアイスやイスマやシュバイニーの服装が目立っているようであった。

 村人たちが食事をしながらも興味深そうに見ている。


「……服も買ったほうが良いかもしれない」


 特にイスマとシュバイニーの服は高そうだ、色々と面倒事の種になりかねない。

 ゼップガルドの街に行く前に可能ならば着替えさせておきたいが、それなりの街の服屋でないと、冒険者用というよりそれこそ村人用の服しか扱っていないだろう。

 ある程度の規模で住人がいない事には、そもそも服屋など無いかもしれないのだ。

 しかし予算が厳しい現状では、あまり無駄遣いはしたくないのも確かである。


「村長さん、ここからゼップガルドへ行く道と行程を教えていただけますか」

「道は後で簡単な地図を書いて用意しましょう。そんなに難しいものではありませんし。日数は、大体4日程度歩けば到着するでしょうな」


 徒歩で4日ならそこまで遠くはない。

 そしてその為の重要な案件もカデュウは交渉しなければならない。


「あの、大変申し訳ないのですが……。良ければ食料と水とローブを頂けませんか……」

「ええ、そのような事でしたら。村の大恩人です、その程度いくらでも仰ってください」

「んだべや。オラ達を助けてくれたんだ。そのぐれえ気にするなって」


 村人の温かい気持ちと援助品を頂ける事になった。人助けはしておくものである。


 食事も終わり、先程の手がかりの情報や、この辺り周辺の知識を共有する為に、部屋で出発の支度をしながら説明をした。

 それと目立たぬようローブを纏え、と。


 もっともこの村から貰えたローブは、カデュウやアイスですら丁度良いサイズが無くぶかぶかした状態であったし、より小さいイスマにはオーバーサイズ過ぎてずるずる引きずる事になってしまう為に、結局街で服を調達するまでは現状の服で動く事になったのだが。


 別に狙われているわけでも犯罪者というわけでもないのだ。

 無理する程の事ではない。

 そう思いなおして、今まで通りの服装で活動する事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます