2話 魔王村開拓チーム

 部屋を出て、まずは城の外を見てみようとしたカデュウは気が付いた。

 今はまだ夜であった、と。

 月明かりでは土地を確認しようにも難しいかもしれないが、多少なら何か発見があるかもしれないと考える。

 少し歩き出したところで、ふと気が付き、他の2人に挨拶をする事にした。

 

「改めて、はじめまして。僕はカデュウと言います。冒険者をしています。色々と突然、かつ強引過ぎて混乱していたかと思いますが……」

「これはこれは。私はアイスと申しますよ。本当にわけがわからなかったのですが、色々わかってそうな貴方が話を進めてくれていたので任せておきました。私そういうのよくわかりませんし」


 奇妙な服装の少女、アイスがにっこり笑った。

 あまり気軽に発言しにくい空気であった事もあって、ほぼカデュウが話を纏めた形となったが、そこは任されていたようだ。

 それに、最初は言葉が通じなかったのだ。

 文化的な違いもあると判断したのかもしれない。

 その場合は確かに理解している者に一任するのは手であろう。


「それでこっちの子は、ご家族か何かです?」

「いえ、アイスさんより少し前に出会った子です。そういえば名前はなんていうのかな?」


 出会ってから一言もしゃべらないその子を、2人で見つめる。


「……名前はイスマイリ。……そしてこっちが」


 無口な子、イスマイリがはじめて喋り、ごそごそと小さな杯を取り出した。

 美しくも不思議な模様が描かれたものだった。

 カデュウの知識では詳しくはわからないが、意匠としてはカヌスア大陸のマルク帝国のものに近いような印象を受けた。

 その杯が輝き、――突如1人の男性が現れた。


「やっと出れたか。ったく、あの野郎ふざけやがって。イスマ、お前もだな……」

「このうるさいのがシュバイニー」

「誰がうるさいのだ、お前が静かすぎるんだ」


 突然現れたその男性は、カデュウら3人に比べて、長身の青年だ。

 青年は、異国の衣装を纏い、ラメラーアーマーらしき鎧を中に着込んでいた。

 眼鏡をかけた知的な風貌ながらも、どこか野性的な雰囲気も併せ持っていた。


 そんな姿形よりも、どこから出てきたのか、という疑問の方が強いのではあるが。

 口をあんぐりさせた、アイスの驚きの表情がカデュウと同じ疑問を物語っていた。


「おうそうだ、そこのお前。カデュウと言ったか。こいつを助けてくれてありがとうな、おかげで俺も助かったぜ」

「よくわかりませんが、力になれて良かったです。ところであの……、突然どこからか現れた所がとても気になるのですが」

「さっきのやばい奴も言ってただろ、細かい事は気にするなってな」


 何度も思うが、細かくはない。


「言える範囲で簡潔に言うと、俺はこいつの守護者だ。頼れる格好良いお兄さんだとでも思っときな」

「……シュバイニーは、ここ。呼ぶと出る、呼ばなくても出る、そしてうるさい」

「せっかくボカしてやったのにお前は……」


 いまいちどころかさっぱり要領を得ないが、言えない秘密があるのだろう。

 カデュウは深く詮索はしない事にした。

 出会ったばかりの人間に言えないのはごく当たり前の話なのだから。


 何はともあれ、一通り名前だけではあるが自己紹介は済んだ。

 今後の事も話し合っておくべきであろう、とカデュウは考え、話を始めた。




「とりあえず僕達は、同じようにどこからか転移して、たまたまここで出会って、魔王さんに無茶ぶりをされたわけですが」

「そうですねー。なんとなくみんな事故でここに来たんだなーって事は察してました」


 アイスがお気楽そうに答える。あまり動じてないようであった。


「僕は、あのままだったら飢え死にしていたかもしれないし、1人ではとてもこの周辺から出れなかったと思います。魔王さんに命を助けられたようなものですから、恩返しという事もあるし、頼まれた事自体は面白そうかなとも思うので、頼みを引き受ける事にしました」


 他の者達の顔を見渡し、一呼吸おいてからカデュウがまた語りだした。

 何しろ転移事故で食料もなく放り出されたのだ。

 ある意味で魔王は命の恩人と言える。


 そして、1000年前の人々や、その付近の時代の人々なら違うのだろうが、カデュウは魔王に何の恨みもない。

 おとぎ話のような古き過去の歴史は知っているが、少なくとも頼まれた事が人類の脅威へと繋がるようには思えない。


「でも、皆さんが他にやるべき事があるのでしたら、それでも構わないと思うのです。……魔王さんには僕がお願いしてみますから」

「それは無理じゃないかなー。カデュウは、なんとなくこの辺りに一番詳しそうなんですが、多分私達はこの辺の事について何にもわからないですよ? ということは何か重大な使命があったとしても、勝手がわかるまでは案内役についていくのが無難なんじゃないですか?」

「……別に何も使命はない。……カデュウについてく」


 そう呟くように答えたのがイスマイリ。

 そしてアイスが言うように、カデュウには案内役としての役目もあった、と認識させられる。

 ここで放り出す方が、不親切であり、冷たい対応というものだ。

 しかし、あまり考えていないのかと思ったら意外に考えている。

 掴みどころがあるようでないような子であった。


「だそうだ。俺らの目的があるとしたら、それは楽しむ事だからな。この事態もある意味じゃ楽しめてるぜ。よくわからねえが面白そうじゃねえか」

「面白そうなのは素敵です。私達が元の場所に帰れるわけでもないですし。多分ここというか、この辺りの場所が、私の目的地だと思いますし?」


 どうやら脱落者はいないようだ。

 カデュウに比べたらよくわからない事だらけであろうに、中々環境適応が早い。

 ならば少なくとも、しばらくの間は一蓮托生という事であろう。

 冒険者風に言うと、パーティという事になるだろうか。


 しかし。楽しむ事。

 そう聞いた時、カデュウは先生に教わった事を思い出した。


 厳しい修行の最後となる別れ際。

 『楽しむ事だ』、と。そう教わったのだ。


「ありがとうございます。それでは、皆さん一緒にやっていきましょう」

「はい、やり直し!」

「ええ!?」


 アイスからダメ出しを食らった。わけがわからず困惑するカデュウ。


「もっと親しく気楽にですよ!」

「えーと。みんな一緒にがんばろー……?」

「そうそう、私達はもう仲間みたいなものなんですから、かしこまらなくていいんです」


 うんうんと、ドヤ顔気味に腕を組み頷くアイス。

 堅苦しいのはやめよう、という事らしい。

 そう言うアイスは丁寧気味な口調なのだが、確かにどこかフランクではある。


「うん、その通りだ。よろしくね、アイス。イスマ。シュバイニーさん」

「おいコラ、なんで俺だけさん付けなんだよ。のけ者か?」

「いやなんかこう年上の方っぽいですし、呼び捨てにしにくいというか。ある程度はこう必要かなって」

「いいけどよ。呼びたいように呼べばいいさ」


 苦笑して答えるシュバイニーに、カデュウの表情も緩む。




「では、ひとまず街を作る事になった場所を見に行きましょうか、暗いですけど」

「了解ー。さくさく行っちゃいましょうか、そしてさくさく食事にしましょう。腹ペコです」


 カデュウも食事をしてから大分時間が立っていた。

 食事の確保は現状急務なので下見にあまり時間はかけていられない。

 幸い、壁に穴が開いていたので、城内の道がわからなくとも入り口部分のすぐ近くまでショートカットできた。

 外はもちろん暗かったが、魔術で明かりをつけていたので近場ぐらいなら見る事は可能だ。

 現場を見たアイスがその感想を語った。


「いやー……、なんもないですね。平地というか草地というか更地というか?」

「うん……。ここから見えてる範囲だと、草以外何にもないね」


 予想以上に何もなかった。

 魔王と会う前に見えていた森は、結構離れているのかもしれない。

 暗くて視界が狭くなっているというのも大きい。


「……清らか、草一杯」


 草地が気に入ったのかイスマが楽しそうにしている。


「やっぱりもっと明るくないとわからなそうだ。アイスもお腹空いてるだろうし、先に食事と宿求めて、転移をしてみようか」

「賛成ー。まずは食べ物ですよ、カデュウ。命大事に!」


 早々に下見を諦めて城正面の左側、魔王が言っていた場所にやってきた。

 元々城の施設として屋根があったのであろうが、戦いで壊れたのか月日の流れで崩れ去ったのか、柱と石畳だけが残されていた。

 見事な遺跡っぷりのこの城は、ハクアがいたら大喜びで調査して回りそうだ。


「転移陣ってのはどれだ? 俺には廃墟しか見えんが」

「見えませんね。埋もれているのかもしれませんが、探してみましょう」


 そして柱や壁の瓦礫から見て、中央に近づいた時だった。

 カデュウの身体が鼓動した。ドクン、と。

 カデュウだけではない、アイスも、イスマも。


 身体の変化に呼応するように、かつて転移の間として用いられしその場所に、1000年前の転移陣が現れた。


 煌々と。輝きを放ち――。


「!?」


 その中心地にすでに立っていたカデュウ達は、驚きと共にその場から消え去った。

 ――転移したのだ。目的通りに。

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