14話 クリーチャー

 森の奥深く、うっそうと茂る木々に囲まれて、その遺跡は長い長い年月の間に土に埋もれてそこに佇んでいた。

 パネ・ラミデの祭壇。古代ミルディアス帝国よりもさらに古く、その内部の特徴は他の遺跡とも異なっていた。

 誰が何のために作ったのか、まったく判明していない謎の遺跡。

 冒険者ギルドの記録によれば、ギルド発足当時の時点ですでに先人によって探索済みであったという。

 本来の入り口は地下深く埋まっているのだが、一部発掘した場所に壊れた穴があったため、そこが入口の代わりとなっていた。

 遺跡付近には強力な魔獣が暮らしている上に、人里に行くまでも辛く、盗賊のアジトとしても向いていない。

 稀に学者や興味本位の遺跡探索者が訪れるぐらいの、誰にとっても価値の少ない静かな遺跡であったその場所は、日が照る時刻でもアンデッドが無数にうろつく危険な迷宮となり果てていた。


「これは凄い、アンデッドの街みたいだよ。ギルドで聞いた、アンデッドがいないって報告はなんだったんだ」

「一杯いますよ、ハクアさん。誰かに1度片付けられて、再度発生した、とかでしょうか?」

「その可能性はありうるね、カデュウくん。もしくは、なんらかの事情で一旦アンデッドの使役を解除して、再び術を使ったのかもしれない。儀式か何かの都合でそうしなければいけなかった、という事は考えられる」

「低位の骨だけじゃなく、スケルトンナイトや霊体のスペクターも結構いるね。傭兵さんって霊体いけるのかな?」


 タックの質問に、武器を見せながらアークリーズは答えた。

 美しい装飾が施された、見事な両手剣――クレイモアだ。

 刀身からは清らかな光を発している。


「武器次第だな、私らの武器なら問題ないが」

「普通の武器じゃどうにもならないからね。付与魔術で加工されていたり、特殊な金属が使われていたり、聖別されていたり、そういう武器なら霊体に攻撃する事は出来るね。ボクがカデュウくんにやったように魔術で一時的な強化を施してた状態なら斬れるよ」

「技とかではダメなんでしょうか?」

「ただの技術ではダメね。魔力とかそういう、霊的な力を含むような特殊な技ならやれるわね。アタシはあんまり得意じゃないわ」


 カデュウの疑問に答えつつも、マリアルイゼは苦笑しておどけてみせた。

 霊には肉体がないので物理的な干渉はできないが、魔力や神聖なものなど霊的な力ならば影響を及ぼす事が出来る。

 意外なほど多くの聖職者が冒険者の一員となって活動している理由の1つだ。

 術の使い手自体が数が少ないため、冒険者パーティーで需要が高いが、特に聖職者は人気だ。

 とはいえ需要の高さの大部分は、傷を癒せる導聖術の使い手だから、という理由なのだが。

 ……別に魔術や精霊術でも癒せるのだが、専門外の人だと知らない場合もあるだろうし、この辺りは伝統的なイメージというものなのかもしれない。


「これだけいるならもっと上位のアンデッドがいる可能性も考えておいた方が良さそうだね。ボクも魔術を使わないといけないかな、節約したいところだけど」

「それにしても、こんなうじゃうじゃと。死霊術師なら可能なの、この惨状?」


 骨達が特に目的もなく動き回る姿を、タックは呆れたような目つきをしつつ話しかけた。

 考え込むようなポーズをして、ハクアが語りだす。


死霊術ネクロマディアは専門外だけど……。術式を工夫して魔力維持をクリアして、時間をかけて増やしていけば、理論上は多分出来るんじゃないかな?」


 理論上という言葉には、それはないだろうという風な意味を含ませているようにカデュウは受け取る。

 ハクアは1呼吸置いて、さらに続けた。


「だが、どちらかというと大物アンデッドが呼び出され、そいつが大量のアンデッドを使役している、という方がありえるね」

「こんな芸もってるなら戦場の方が輝きそうだな」


 傭兵らしい感想を漏らしたのはアークリーズだ。


「そうだろうね。といっても死霊術を使える者とくれば、大抵は邪神信仰だったり禁忌に手を出すような倫理が外れた魔術師だからね。そういう奴らの性格って根暗なネガティブ要素盛沢山ってとこだろうし。何でもありの傭兵の世界でも受け入れられるかどうか」


 やや偏見混じりな気もするのだが、カデュウもその手の方々で協調性に優れた人材というのはあまりイメージできなかった。


「ハクアちゃんの言う通りね。汚い手段はアタシらの稼業じゃ日常茶飯事だけれども。陰気で人嫌いの個人主義者じゃ、仲間として信頼もできないわ。揉め事起こして刃傷沙汰がオチよ」

「それはそうだな。まして国家の軍隊じゃ評判は悪くなるし、邪教徒を使って教会側に目を付けられたり、民に不安がられるリスクを冒すわけがない。……今までそんな相手に出会った経験もないしな」

「普通の魔術師だって軍隊と反りが合わないぐらいだからね。……そんな事よりここをどうするか。あの裏手にいけば入り口があるんだけど」


 ハクアが指さした方を改めて確認する。

 元々丘のように少し高い場所に作られていたのだろう、土砂にまみれ地形と一体化して、さながら山のように姿を変えたその遺跡の裏側までの道のりには多くのアンデッドが蠢いていた。

 一斉に襲いに来る気配はない。目的もなさそうに、ただうろうろと動き回っているだけなのだが、近づけば攻撃をしてくる事は目に見えている。


「面倒だな、正面突破するか」

「それが早いわね。ついてきなさいハクアちゃん達」

「ひょー! 見事な脳筋スタイル、憧れちゃうね!」


 アークリーズ達の手早い結論にタックは合いの手をいれる。


「脳筋ではない、最善手と言ってくれ。私達がこそこそ隠れて移動できるわけがないしな。大体アイツら目とかないだろ、気配か何かで察知してるんじゃないのか」

「ははは。さすがアークだね。アンデッドは目じゃなくて生命反応だとか魔力感知だとかで見てる。隠れても無駄なのは確かだよ」

「強引な一手でも、時として最善手になりうるんですね。勉強になります」


 満場一致で強行突破と決まった。頼れる強者がいるからこそ出来る戦術だ。

 アークリーズを先頭にして、ハクア達も一気に駆け出した。


「邪魔だ、骨共ッ!」


 生命反応を見つけ動き出すアンデッドの群れに、アークリーズがクレイモアを振り回し次々と吹き飛ばしていった。

 スケルトンの骨が切り裂かれ、砕かれ、バラバラに飛び散り、面白いように蹴散らされていく。

 スペクターが横から襲い掛かるが、その霊体すらもクレイモアで切り裂いた。

 魔術武器なのであろうその大剣は刀身の模様が青白く輝いている。

 先程話していた付与魔術が施された霊体にも通じる武器だ。

 ハクア達は後ろからついていくだけで難なくアンデッドの群れを突破したのだが……。

 何故か後ろのアンデッド達は追ってこようともしない。距離が空いたからであろうか、妙な反応と言える。




 その時、ハクア達が向かうその目的地の辺りで、轟音が鳴り響いた。

 スケルトンの骨らしきものが多量に飛び散る。別の誰かがアンデッドと戦っている、いや蹂躙しているようだった。

 その空に浮かぶのはうっすらと見えるローブ姿の死霊、その下にはアンデッドを蹴散らした野性的な外見の大男がいた。


「あの霊体、レイスだ。魔術師の霊体とされる、強力なアンデッドだ。……って、ええ!?」


 その男は、事もあろうに霊体であるレイスを雄叫びと共に殴りつけた。

 すり抜けて空を切るだけだったはずの拳は、なんとレイスの顔面を砕き吹き飛ばし粉砕したのだ。

 ――滅茶苦茶だ、ただの素手の一撃で強力な霊体を殴り飛ばすなんて。

 レイスの体はハクア達の目の前まで飛ばされ、そこで空気に溶けて消えていく。


「んな馬鹿な!?」


 タックが驚くのも無理はない。

 だがそんな事は些事だ、その元凶たる男が発する凶暴で圧倒的な気配の前では。

 その大男は、褐色というにはやや浅黒い肌で、髭を生やした、歴戦の猛者といった風情であった。

 エルフのような尖った耳と高い背を持ち、ドワーフのように筋骨隆々な身体つき。

 その外見だけでも強者だとはわかるが、そんな事よりもにじみ出ている狂猛なる暴威のオーラが、男を危険過ぎる存在だと知らしめていた。

 本能が、訴えかけていた。絶対に戦ってはいけない相手だと理解させられた。

 ――怪物。一言で表すならば、この言葉がふさわしい。


「……おいおい。お前が来てるのか、ゾンダ。さてはまた干されたな?」

「おう、アークじゃねえか。こんなとこで会うとは奇遇だな、嫁になるか?」

「ゾンダ、……ゾンダ・ゼッテ!? 大陸最強の一角と言われる、あのクリーチャー傭兵団の団長……!?」


 ――クリーチャー傭兵団。数多ある主要傭兵団の中に置いて、最も少数でありながら最も恐ろしく最も強いと言われる最精鋭集団。

 その団長が目の前の怪物、ゾンダ・ゼッテ。

 吟遊詩人の叙事詩にも傍若無人の破壊者として登場し、心行くまで暴れ回る誰にも止められない生きた災害として扱われている。

 世俗に少々疎いカデュウであっても聞いた事がある、怪物クリーチャーの中の怪物クリーチャーだ。


「寝言いってんじゃないよ。美少年になって出直してきな。で? お前が何故ここにいる? まさか冒険者に転職したなんて話じゃないだろう?」

「仕事のお呼びがかからないからな、傭兵ギルドの奴らに干されてるしよ。ま、出稼ぎのつまらん仕事だ」


 大物の傭兵同士、知り合いなのだろう。アークリーズとゾンダは軽快な調子で会話をしている。


「出稼ぎの依頼が来たのはいいが……。突っ立ってるだけなんつーふざけた仕事やらせやがって。アイツらを暇つぶしに斬って刻んで挽き潰して、みんな大好きの食肉にしてやろうかと思ってたンだが、……まだ加工しちゃあいない。……冷静に考えたらマズそうだし、何よりも面倒くさいよなァ。冷静になるってのは大事だぜ? 糞みてえな依頼者でも、金の分ぐらいは働いてやるのも傭兵のお仕事のうちだ。気に入らなくてもぶん殴るぐらいにしとかねえとな?」

「いや、ぶん殴っちゃいかんだろう」


 表情も声色も、怒りの方へと傾いていた。緊迫した空気、いつ戦いが始まってもおかしくはないような。

 そんな雰囲気の中、この怪物につっこみを入れられるだけで、さすが一流の傭兵だと思えた。


「そうか? ……まあでもよ。よく来たな、これからは楽しい娯楽の時間だ、ありがとうよ。そうだ、よく来たなァ、歓迎するぜ、よく来たよォ、ほんと、暇で暇で仕方なかったぜ」


 その狂気を感じる言葉と同時に、暴風の如き圧倒的な闘気が放たれた。先程の空気など、これに比べればそよ風だ。恐怖のあまり気絶しても不思議はない、というぐらいに凄まじい闘気、今すぐこの場から逃げ出したいと、思わない方がおかしいのだ。

 タックもハクアも。ベテランの冒険者であっても、それは変わらない。だが、冒険者であるからこそ危険の度合いが推し量れたとも言えるし、正気を保って危機に対処すべく考えられたとも言える。

 “怪物”が地面に刺してあったハルバードと分厚い刀身の大剣をそれぞれ片手に持つ。木の枝のように軽々と振り回す。

 見た目通り。いや見た目以上にその膂力も桁外れ、頭の方も大分イカれてそうな発言具合。

 これだけのアンデッドに囲まれ戦いながらも暇で仕方がないという、その実力。どれをとっても文句なしに超一流。

 ――何が。何が出来るだろうか。カデュウは気圧され恐れながら汗が流れるが、冷静にどうするべきか考えた。出来ない事よりも、出来る事を探す時だ。


「――やはり、お前が番人か。クリーチャー」

「冗談じゃないわ。迷惑な暇人ね、まったく」

「カマ野郎、お前も遊ぶか? 2人同時でもヒヨッコ共全員でも構わんぜ、なあ遊んでけよ?」

「足手まといが居ても邪魔なだけだろ。お前の存在は教育にも悪い。マリア! 後はお前が護衛だ! こいつの相手は私に任せときな!」

「心得たわ。……みんないくわよ!」


 マリアルイゼがカデュウの肩を叩き、遺跡の入り口へと走りながら誘導する。

 ハクアとタックもそれに釣られる形で、この選択でいいのかと、戸惑いながらついていった。




「……アーク1人に任せるのかい? みんなで戦った方が――」


 後方に意識を取られながら不安そうに、ハクアがマリアルイゼの方を向きながら走っていた。


「無理ね。あの怪物相手じゃ貴方達を守り切れないわ。団長の判断は的確よ」

「戦っても勝ち目は薄いからアークリーズさんが1人で受け持ち、僕らの護衛をマリアルイゼさんが担うわけですね……」

「それに問題を起こしているのはあいつじゃない、奥にいる悪い奴らだよ。あそこで戦ったら例え勝てても目的が達成できない。もしかしたら、時間もないかもしれないしね」


 そう、ゾンダ・ゼッテは最大の障害かもしれないが、原因でもなければ倒さなくてはならない敵でもない。タックの言は正しい。


「……その通りだね。アークの実力を疑うみたいで失礼だし、マリア以外が残っていても本当に足手まといでしかないだろう。目的を履き違えていたよ。ごめんね」


 戸惑っていたハクアの指針がはっきりと定まった。

 全ての敵を倒していくことが仕事ではない。怪物退治が依頼なのではない。さらに言えば、奥にいると思われる敵を倒すこともまた正しい目的ではない。遺跡を調査し、可能ならば事態を解決する事が目的なのだ。


「ゾンダ・ゼッテとサシで戦えるのはアタシ達の中でアークリーズだけよ。過去に何度か戦ってるのよ、あの2人。倒すのは無理でしょうけど、心配はいらないわ」


 今この場で最も2人の実力を知るマリアルイゼの言葉だ、信じるほかなかった。

 石材、に見える飾りっ気のない遺跡を走り進み、登る階段へと差し掛かる。

 ハクアが先頭に立ち、遺跡を知る者として案内を始めた。


 この依頼で経験者のみが募集されていたのは、この遺跡に危険な罠がいくつか仕込まれている事が判明しているからだ。

 緊急事態となった状況で引き受ける者がいなければ、その条項も撤廃されていたかもしれないが、その場合は恐らく多数の被害者が出ていただろう。

 長い歴史の中での、かつて調査に向かった複数回に渡る冒険者の報告記録。冒険者ギルドに残されているその情報には、罠の種類こそ書いてあるが、詳しい罠の回避方法などは記入されていない。

 一部には罠についてまでは報告しない冒険者がいるのは確かだが、この遺跡の場合は違う。報告自体が食い違っていたからだ。

 遺跡学者によれば、この遺跡のトラップは、複数のパターンがあり、それがランダムに変化するのだという。

 古代ミルディアス帝国の魔術によって構成された悪辣な可変トラップであり、それを乗り越えた末に何も宝がないのでは冒険者が嫌煙するのは自然である。学者も危険性が高いとわかったので研究する者が少なかった。

 その危険性が知られている今では、ハクアのような変わり者以外は、こんな厄介な遺跡など近寄らないのだ。


「よし、こっちだよ」


 ハクアが指した道とは逆方向をちらりと見る。

 明かりが届かないのではっきりとはしないが、奥の方に黒いローブを纏ったの人間らしきものが転がっていた。


「この遺跡は変わっていてね、中心部に辿り着くまではミルディアス様式の内装なんだ。といってもその簡素なものだけどね。トラップも同じ時代のものなんだが、それは僕が最も得意とする時代の罠でもある」

「つまり魔術式のトラップかぁ。トラップ対策がお仕事の僕の肩身が狭いじぇ……」

「普通の遺跡なら魔術式トラップであってもタックならわかるはずだけどね、ここは念入りに魔術以外では何もわからないように出来ているのさ」

「おのれ卑劣な……僕の活躍を奪うとわ!」

「そこまで厳重に守っている中心部には何があったんですか?」

「中心部だけ全然違う作りでね、はっきりとはわからないが、もしかしたら神話時代のものかもしれない。ま、変なオブジェがあるだけでめぼしいものは何もなかったけどね! 先人が取ってたんじゃないかな」

「神話時代……、遥か太古に神々が地に存在していたという……」

「おっと、次の罠だ。……右端に張り付いて進むよ。絶対にボクが歩いた道から外れないで」


 一体、どのように判断しているのか。極めて的確な罠探知によって、難なく突破していく。

 進んだ先の、ハクアが歩いてはいけないと言っていた中央には、黒いローブの死体があった。血痕も比較的新しい。

 侵入者達の死体であろうか。あまり考える暇もない、集中してハクアの後を追わなくては。




 ――その頃、遺跡の入り口では。

 圧倒的強者同士、傭兵の頂点同士の戦いが始まろうとしていた。


「しかし、つれねえカマ野郎だな。おカマに振られるとはどういう事だ? まあいい、暇つぶしに付き合えよ。アークリーズ・ヴォルディガズ」

「こんな所でこんな奴と遭遇するとはねえ、私にゃ運がなかったが、アイツらには運があったって事かね。やれやれ、報酬に合わん仕事だ。まあいいさ、付き合ってやるよ。ゾンダ・ゼッテ」


 傭兵同士は、互いに武器を持ち、構えているのかいないのかわからないような態勢を取った。

 どちらもぶらりと武器持つだけは持ったという格好。リラックスしているようでいて、いつでも武器を振れるようなこの態勢こそが、この2人の構えであった。

 剣術というものを師について学んでいない2人が戦いに明け暮れ辿り着いた、強者ならではの自在の構えである。


「ところで、いいのか? 侵入者を阻むのが仕事じゃなかったのか? あいつら行っちまったぞ」

「お前さんに邪魔されるのはわかってるからな。それに報酬まだ1割しか貰ってねえんだあのケチ野郎共。なら半分も仕事してりゃ上等だろうよ。良い仕事してんだろ、俺」


 一閃。突きを放ち先手を撃ったのはアークリーズであった。

 頭を狙ったその突きはゾンダの大剣に逸らされる。

 その分厚い大剣――ベルガンソードは大陸北東の島々を拠点に活動するヘズナルというシードワーフの傭兵団が愛用するものであった。

 耐久性に優れる代わりに重量もあるこの剣は、常人では扱いきれないものではあるが、その見た目に反して切れ味も優れている。

 最初から逸らされる事がわかっていたアークリーズはその流れに乗って宙に飛び、1回転して横薙ぎに斬りつける。

 それも大剣で力を逸らし、左手で持つハルバードで下段から薙ぎ払うが、アークリーズは柄を蹴り足場にしてひらりと躱した。

 互いにその態勢から追加の攻撃をする事も出来たが、始まったばかりの段階でその程度の曲芸を用いて倒せるような相手でもない事は共通の見解であった。


「報酬後払いの契約なんだろうが、随分せこいな。よく引き受けたものだ」

「世知辛い世の中だからなぁ、先立つモノがカッツカツよ。やれ領主をぶちのめしただの貴族をぶち殺しただの、細かい難癖付けられて困っちまうよ。ちょっと気に入らねえから教育してやっただけなんだがよォ」

「貴族共が頭も性格も悪いのは今に始まった事じゃないが、お前のそのツラを見てデカい態度に出れるんだから、ある意味勇者と言えるかもしれんぞ。ま、その調子じゃ評判悪すぎて仕事も減るだろう」


 世間話を語りながら、攻防を続ける。嵐の最中の如き力と速度によって轟音と暴風が激しく行き交う。周囲のアンデッドが巻き込まれ飛び散り遺跡を覆っていた土砂の一部が吹き飛ばされた。


「ま。ンナ、つまらねえ事はいいさ。こうして楽しい楽しいおデートが出来てるんだからな、人生ってのは何が起きるかわからんねえ」

「私は猛獣使いの気分だがね。久々の友人との楽しい一時を邪魔しやがって、まったく」

「なんだ、そいつは悪い事をしたなアーク。今度があって覚えてたら埋め合わせするぞ、俺は紳士淑女だからな。いや淑女じゃねえか?」

「おまえのようなゴツい淑女がいてたまるか、紳士ってツラでもないだろう」

「うるせえよ美少年ハンター。変態淑女に言われたかねえ、それとも紳士か?」

「ハンターなどしていないッ! 紳士でもないッ!」


 闘気がほとばしりクレイモアの刻印が輝く、アークリーズが放った頭上からの破壊的な一撃を、ゾンダは剛柔を使い分けベルガンソードの刀身で受け流した。

 逸らされた衝撃の余波が地面に叩きつけられ爆発した、深い斬撃の痕が残り大地が大きく抉れている。

 すでに戦いの場は遺跡から離れた森に近い場所での戦いとなっていた。


「ハッハッハ。楽しいねぇオイ、楽しいなぁオイ。ええオイ?」


 ゾンダが軽々と片手で振り回すハルバードの連撃を躱し、逸らし、受け、余裕をもって右手のベルガンソードに注意を払う。

 その右手の一撃が放たれる、左手のハルバードと同時に両翼から斜めに振り下ろす。

 十字を描く軌道の攻撃をアークリーズは左斜め後方に跳躍し回避した。激しい音と共に木が倒れる、投げ放たれたベルガンソードがそこにあった木を叩き斬ったのだ。


「同じ傭兵でも、騎士気取りのスカしたツクネフレンツの奴らは好きになれんが、お前のとこは面白くていいわ、気が合うよ」

「私はお前と合わんがな! ま、あの騎士ごっこしてる奴らが気に入らんのは確かだ」


 アークリーズの連撃をハルバード1本で捌きつつ、遠くに投げたベルガンソードを回収に向かう。

 攻撃されながらも難なく回収してベルガンソードで一撃を受ける。

 アークリーズの光を纏うクレイモアが叩きつけられ、分厚く耐久性に優れた剣が真っ二つに切り裂かれた。


「やべ。まともに受けちまった。やっぱ安物はいかんな」

「どうせ適当に奪った武器を使ってたんだろう、私のように美しく素晴らしい武器を大事に扱うべきだぞ」

「あんまり金が無いんだよな、ウチにゃ湯水の如く浪費する金食い虫が居やがるからよ。団長の俺様も節約してその辺に捨ててある武器を再利用してるんだぞ。自然に優しいだろ」


 ハルバードを振り回しアークリーズがそれを避け、余波によって木々が切り倒される。


「自然破壊しかしてない気がするんだが」

「まあ細かい事は気にするな」


 ハルバードをくるりと右手に持ち替え、ゾンダはその全身から闘気を放つ。

 ここからが本番という事だ、アークリーズにもわかっていた。


「準備運動はこんなとこだろ、1本になっちまったがこいつは大事に使ってやらんとな。後で捨てるけど」


 そう、アークリーズにはわかっていた。武器を1つ壊そうが、自身の武器の方が遥かに優れていようが、この怪物相手にその程度の優位など大した意味を持たないと。

 鬼気迫る笑顔で、ご機嫌になりながら、ゾンダの猛攻が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます