序章 これは、新人冒険者の物語

1話 旅立ちは平凡に


 序章と1章の場所を入れ替えました。

 時系列で言うと、序章は1章の前にあった話となります。

 設定などは序章に書かれている事も結構あります。

 興味があれば、ぜひ読んでみて下さい。

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 現実とは凡である。


 物語のような壮大なる始まり、だとか。

 運命的な場面での出会い、だとか。


 そういう類のものとは、縁がないのが現実である。

 夢のような出来事は、おきないからこそ夢であり。

 奇跡とは、ありえない事だからこそ奇跡なのだ。



 カデュウの冒険者としての始まりも、普通で、一般的で、ありふれた日常のようなものから始まった。


「カデュウ、ギルドへの登録は済んだ。めでたく、お前も冒険者の一員ってわけだ」


 カデュウ・ヴァレディはこの日から冒険者となった。

 ここ冒険者ギルドのル・マリア支部にて、いくつかの適性試験を終えての結果発表を、ギルド支部長から告げられている。

 カデュウの子供の頃からの念願、その始まりの一歩となるものであった。


「はい! ありがとうございます、支部長。僕、頑張りますよ」


 カデュウの顔立ちは整っているが童顔だ。

 男性というより男の子、あるいはやや女性気味。

 その容姿から、見るものに優しげな印象を与えている。


 身長は同年代と比べて小さめであり、細い身体をしていた。

 武具を付けていなければ普通の少年に見えるだろう。


 また、外見で見分けがつけづらいのだが耳が少しだけ伸びている。

 商人の父と、エルフの母を持つ、ちょっとだけ変わったハーフエルフの少年だ。


 尚、ハーフエルフでもエルフでもドワーフでも、広義ではまとめて人間と呼ぶ。

 しかし、種族としての人間自体もまた人間と呼ばれるのだ。

 少々わかりにくいが、古来よりそのように呼ばれてきたので致し方ない。


「厳しく審査させてもらったが、お前ならうまくやれるだろう。多分な?」


 適性試験自体はまったく難しいものではない。

 犯罪の経歴のチェックや性格の審査があるぐらいで、大抵の人間は合格する。


 だがカデュウの場合は、親の説得という、より高い基準が設けられていたため、少々勝手が違っていた。


「ええ、多分。のんびりまったり、やっていきますよ」


 この街、ル・マリアは平和で冒険者の需要が少なく、ギルド支部も小さい。

 当然、ギルドの建物自体にも予算がかけられていない、シンプルな木造だ。


 小さなギルドではあるが、それでも所属している冒険者が数名はいたはずだ。

 不思議と、今日の所はまだ誰とも会っていない。


 ……なにやら、奥の方で謎の奇声が発せられているような気もする。

 だが、会話中にギルド支部長から目を離すのも失礼だろう。

 カデュウは少し気にはなったがそのまま会話に集中する。


「それでは、残るは……」

「ああ、中級冒険者メディオの指導者が必要だな。知っての通り、先達の冒険者と同行しながら仕事を学ぶわけなのだが……」


 ベテランの冒険者を表すランク――メディオ。

 登録したての経験も信頼もない新人に、単独で仕事を回す事は出来ない。

 そこで中級冒険者メディオと呼ばれるベテランが新人とパーティを組み指導者となるのだ。


 冒険者ギルドで適切な者の中からその新人に適切な冒険者が選ばれる。

 新人は経験豊富な先達に教われ仕事もこなせるようになるし、中級冒険者メディオも人手の補充が出来る。

 指導者と性格などが合わなければいつでも申請で変えられる事になっているなどの保護するためのルールもある。

 巡り合わせの運次第ではその権利を使う新人もいるだろう。

 

「……なのだが。……どうしたもんかな」

「どうしました?」


 ギルド支部長が難しい顔をしながらチラチラと横目で見る視線の先には。

 ――なんというか、物凄い格好の人がいた。

 顔は包帯ぐるぐる巻き、高価な黒ガラスの丸眼鏡をかけている。

 時折クカカ…などと1人で笑いだすナイスガイだ。


 さっきの奇妙な声はコレか。

 カデュウは少し引いた顔で納得した。

 明らかに関わってはいけない人の雰囲気が漂っている。

 ドカっとソファに座ってテーブルの上で足を組み、触るな危険と自ら表現しているかの如し。


「まさかあの方しか中級冒険者メディオがいない、のでしょうか……?」


 改めて見渡しても、冒険者らしき人が他にいない。

 平和な田舎街なせいか元々冒険者は少ない小規模ギルドではあったが、さすがにもう少し人数がいたはずだ。


「……今日はずいぶん冒険者の方々が少ないんですね?」

「久々に大規模な仕事が回ってきてな。レディスタ支部の召集で領主様直々の依頼らしい、帰ってくるまでに結構かかると思うぞ」

「……えーと、あちらのステキなお方は?」


 包帯ぐるぐるのお方を少しだけチラリと見て指し示す。

 ギルド支部長は困ったように肩をすくめ、その薄い髪をぽりぽりとかき出した。


「たまたま旅の途中に寄った冒険者だ、俺も見るのは初めての顔だな。……あんな奴、一度見たら忘れられんし」

「旅の……、という事は」

「そう。逍遥者しょうようしゃとも言われる冒険者本来のタイプ。つまり、お前の希望通りの指導者候補ではある」


 冒険者には大雑把に2種類のタイプがいる。


 拠点を決めてその周辺で行動する地域密着型――冒険者と、

 拠点を持たず放浪して旅をしながら依頼をこなす諸国漫遊型――逍遥者しょうようしゃだ。


 放浪者と呼ぶ人もいるが少々ネガティブなイメージがあるので、冒険者ギルドでは気ままに漫遊するものという意味から、逍遥者しょうようしゃと呼んでいた。


 より冒険してそうな方が冒険者と呼ばれないのもおかしな話だが、数が多いのは拠点を決めて活動する側であるし、地域事に様々な"冒険"となるべき問題はある。

 実際に住民にお役立ちなのは旅をする不定期な連中より、地域に貢献する方々だ。


 さらに細かく言えば探検者、開拓者等々と活動の種類による呼び方はあるのだが、その辺りはまた別の話。

 ともあれ、カデュウの指導者として適格なのは共に旅をするタイプなのだ。


「俺も、お前の親御さんから預かってる立場だからな。……今日である必要もないし、誰か来るかもしれん。紅茶でも飲んでゆっくりするか?」

「いえ、選べるような身分ではありませんし。中級冒険者メディオともなれば腕利きの先輩ですから。……あまり旅の冒険者はここに来ませんしね」


 ギルド支部長は判断に迷っているようであった。

 友人の子であるし、ここ最近だが冒険者になる過程で面倒を見てきたのだ。

 見た目が露骨に危ないあの人物に預けたいとは思わないだろう。

 だが、旅の冒険者がそもそも来ないのでこういう機会は貴重ではある。


 カデュウからすると、新人が腕利きの冒険者を値踏みするなど失礼な話だと思っていたし、それに見かけによらず良い人かもしれないとも考えていた。

 ……見かけは誰が見ても本当に危険人物でしかないのだが。

 

 ――その時、高く鳴る金属の奏でる音が。

 ギルドの扉が開く鐘の音が建物内に響き渡った。

 扉を開き、見知らぬ誰かが、冒険者ギルドへと入ってきた。




 ――それは、白く透き通るような少女だった。

 日の光を反射して輝く白く長い髪に、黒い服。

 ひと際目立つその姿にカデュウは思わず目を奪われた。

 出で立ちによるものなのか、それとも彼女自体が発するものなのか。

 どこか神秘的な雰囲気に包まれている。


 年はカデュウより少し上といった所だろうか。

 背丈は同じぐらいで、慎ましいスレンダーな身体つきをしている。


「冒険者よ、自由なれ。……ただいま到着しました。こちら預かってきたものです」

「冒険者よ、自由なれ。お仕事ご苦労さん。お前さん、初めての顔だな」


 白い髪の女性はそのまま支部長の元へ向かった。

 互いに、ギルドで用いられるあいさつを交わす。

 かつて1000年程の昔に生まれた合言葉が発祥だという。

 どうやら他所で受けた依頼の報告に来たようだ、書類を手渡している。

 それをギルド支部長がうなずきながら確認していく。


「レディスタの方から来たのか、あっちは今忙しいんだって?」

「そうみたいですね、ここは平和そうで落ち着きますよ」


 別の街の情勢などの会話を交えながら支部長達は手続きを進めていった。

 冒険者が記入した報告の書類だけでは不足している情報もよくある。

 よって、ギルド職員が必要な情報を口頭で聞きだし追加記入する、というのが冒険者ギルドの依頼報告の流れとなる。

 報告を終えて、初めてくるギルドの確認なのか、白い髪の女性はギルドの内部を見回していた。


「……ふぅむ」


 支部長がうなりつつ、チラっと奥を見て、再びハクアに視線を戻し、また考えるように書類を覗き込む。

 そして支部長が顔を上げて、その女性を手で指し示し、カデュウに伝えた。


「さて、待たせたな。こちらがお前の教育担当となる中級冒険者メディオだ、よかったな」

「……えっ?」


 突然の通達だった。

 説明がなさすぎて困惑せざるを得ないのは正しい人の正しい反応ではないだろうか、などとカデュウは困惑した事を考えだす。

 それは言われた女性の方も同じようで、戸惑っていた。

 その正しい人の有様によって、神秘的な何かなど吹き飛んでしまった。


「……えと、何の話ですか?」

新人冒険者ヌーヴォの教導だよ、ベテランさん。あんたなら資格も十分、安心して新人を預けられるってもんだ」

「いや突然でわけがわからないし、お受けするとは一言も」


 大変もっともな答えだ。この支部長、説明不足すぎる。


 話に出たヌーヴォとは冒険者のランクの一つ。


 新人冒険者ヌーヴォ

 下級冒険者メッツォ

 中級冒険者メディオ


 実績を積めば段階的に昇格していき、ギルド内でも世間でもそれに応じて信用が高まるというわけだ。

 上級冒険者からはランクごとに数の称号を与えられ、通常の実績だけでなく偉業を認められたり多大な貢献を果たした場合などにより昇格する仕組みだ。


 こうした冒険者の功績は、吟遊詩人の叙事詩となって世間に広まり、娯楽や情報になると共に、冒険者の名声を高める要因にもなっている。

 トップクラスの冒険者は英雄と呼べる存在で、その活躍の物語は庶民にも人気だ。


「こいつはアンタと同じ逍遥者しょうようしゃをご希望でな。この街にゃあまり旅の冒険者は来ないんだ。いきなりで悪かったが頼んだぞ」

「……いや私、新人教育してる余裕な」

「他のメディオが、あっちの危なそうな包帯男しかいないんだよ、頼むよ」


 女性の言葉をさえぎって、支部長が強引に話をまとめにかかる。

 女性はちらりと包帯男の姿を覗き見て、……うわ、という表情になり、溜息と共に右手で頭を抱えた。


「こわ。いや不気味とか以前に、大怪我してるんじゃ……?」

「怪我ではなさそうだがな、不気味に笑ってるし。……どの道、ここは大して仕事のない小規模ギルドだから、放浪の冒険者なんてあんまり来ねえんだよな……」


 もちろん旅に出るのは経験を積んでからというのも堅実なコースではあるが、あくまで個人の意志が重視される冒険者業だ。

 その意志が強いのならば、せめてより良き道を。そう考えたのかもしれない。

 白い髪の女性は、カデュウをチラリと一瞥し、小さく頷いた。 


「……わかりました、先達の義務ですし、お引き受けします」

「いやあ、それはよかった。助かるよ、こいつはこの街の友人の息子でね、よろしく頼まれてたんだ」


 白い髪の女性が、ちらりとカデュウの方を向き、手を差し出す。

 少し間があいて、その意図に気付いたカデュウが慌てて手を握り返した。

 

「その、ありがとうございます。これから、よろしくお願いします」

「ハクア」

「?」

「ボクの名前はハクアだよ。ハクアージュ・クロゥニア。よろしく」

「あ、はい。僕はカデュウ。カデュウ・ヴァレリィです。よろしくお願いします」


 ギルド支部長が大げさに首をふり頷く中、冒険者の師弟関係は結ばれた。

 それが形式上のものなのか、心からそう思えるものになるのか、それは今この時に決まるものではないだろう。

 だが、これで条件は整った。カデュウの新人冒険者としての始まりだ。

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