第103話 これ、ドラゴンです
公爵がその
ゴガアアアアアアアアアアアアアン!?
激しい爆発音と共に公爵屋敷が激しく揺れ、俺達は思わずその場にしゃがみ込む。
地震大国で生まれ育った俺でも立っていられない揺れは一瞬で収まったものの、何処からか瓦礫が崩れ落ちるような音と悲鳴が聞こえてくる。
「いったい何がっ!」
壁にかけてあった絵画や美術品が、無残な姿で床に散らばっている室内を見回す。
だがその俺の言葉に答えられる人は当然のことながらだれも居ない。
「何かがぶつかったような音でしたわね」
何か。
この大きな屋敷を揺らすほどの何か。
俺達はそれに心当たりがあった。
「
その時、窓の外から人々の叫び声が聞こえてきた。
「うわあああああああああああああっ」
「にげろおおおおおおお」
俺達が窓に駆け寄り外の様子を伺うと、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
屋敷の端の方が崩れ落ち、その瓦礫が大きな庭に散乱しているのが見える。
幸いにも庭の各所に建てられたテントに直撃こそは無かったようだが、何らかの衝撃で吹き飛ばされ、倒れているものもある。
そんな中、散り散りになって森の中に逃げ込んでいく人々。
その顔は一様に恐怖に彩られている。
「インティア!?」
そんな人混みに揉まれながらも一人、逃げていく人達とは逆に屋敷に向かってくるインティアの姿を見つけたエリネスさんが叫ぶ。
どうやら彼女も無事のようだ。
なんだかかなりヘロヘロ状態に見えるが、外傷は無さそうで安心する。
そんな階下の様子に困惑していると、応接室の扉の外から大きな声で入出許可を求める兵士の声が聞こえた。
「公爵様!! 至急お伝えしたいことがっ」
「構わない、すぐ聞こう」
公爵が返事をすると同時に勢いよく扉が開き、一人の兵士が色の失った顔をしながら飛び込んで来る。
その顔を見た俺達は、なにかとんでもないことが起きた事を一瞬で理解する。
「申し上げます!! 火山の中に戻っていた
「街は無事か!?
公爵が兵士に詰め寄ると、その兵士は青い顔をしたまま無言で指を上に向ける。
「まさか」
「火炎山火口から突然現れた
震える声でそこまで伝えた兵士は、あまりの恐怖のためかその場にへたり込む。
どうりで皆、屋敷に避難せず森に逃げていったはずだ。
むしろそんな状況でここまで報告に来てくれた兵士の勇気に報いなきゃならないな。
そんな言葉が頭の中に浮かんだ。
こんな緊急事態で、
それなのに何故か俺は逆にどんどん冷静になっていく自分を感じる。
思えば最初のダークタイガーの時もそうだった。
いや、今ほどじゃなかったけど、それでも転生前の俺ならあんなの見ただけで腰抜かして動けなくなるか、一目散にエレーナを見捨てて逃げていてもおかしくなかった。
なのになぜだろう。
正直今の俺はまったく恐怖を感じない。
そして、そんな伝説級の強敵相手だというのに負ける気が一切しないのだ。
「屋根の上なら登れば殴れるんじゃない?」
俺のその言葉に一同がぽかーんとした間の抜けた顔を俺に向けてくる。
その「何言ってんだこいつ。ばっかじゃねーの」的な視線やめてくださいませんかねほんと。
しかしその中で一人、目をきらめかせて俺を見つめている人物が居た。
「拓海様なら
もちろん全幅の信頼に満ちた目で俺を見つめるのは炎の姫ことエレーナである。
信頼が重い。
「さすがに一発では無理だと思うけど、なんとかなるんじゃないかとは思ってるよ」
「正気ですか!?」
のんきな俺の言葉に公爵様が悲鳴のような声を上げる。
「私はあなたの事は良く知りませんが、いくら強くても
「でしょうね。俺一人だと空とか飛べないんで、飛ばれたらどうしょうもないでしょうし」
「いや、そういう話では……」
俺の返答内容に困惑の表情を浮かべる公爵を他所に、俺はもう一度窓の外に顔を出す。
が、俺の探している物はそこに見当たらない。
暇になって何処かに遊びに行ったのだろうか?
「とりあえず呼べば来るだろう」
俺は大きく息を吸い込んで叫んだ。
「ウリドラァァァ!!」
「ぴぎゅ?」
ん?
叫んだ俺の声に対する返事は思わぬ近くから発せられた。
そして俺の足をトントンと叩く何か。
「ぴぎゅっ!」
足元に目を向けると俺の探していたウリドラが小さくなって前足で俺の足を突っついていた。
えっ、こいつ屋敷の中についてきてたの?
てっきり庭にいるものだと思って叫んじゃったよ。
滅茶苦茶恥ずかしいじゃん。
「拓海様、その生き物は一体何なんです?」
公爵が突然現れたプリティな丸いウリ模様の生き物を指さして尋ねてくる。
俺は足元にまとわりつくウリドラを両手で抱え込むように持ち上げ告げた。
「よくわからない生き物でしょ……これ、ドラゴンです」
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