第89話 奴隷解放
エリネスさんの指示の下、今まで男爵に取り入って甘い汁を吸っていた兵士と、真面目な兵士が選別されていった。
選別方法はエリネスさんの優しい尋問である。
その間、俺とエレーナは、治療をしているインティアと、その護衛をウリドラにまかせてガルバス爺とともに男爵屋敷の敷地内へ向かった。
目指す先は、さっき俺が蹴り落としたカブトムシ……もとい、奴隷エルフだ。
「奴隷の首輪にも何種類も在るんですね」
「ああそうじゃ。インティアの首輪のように決められた場所から逃げ出すと首を絞めるものから、命令には逆らえないようにするものまで在る」
「自分の意志は関係なくですか?」
「うむ。ただし強力なものほど魔力の消費量が多くての。そこまで強力なものになると一週間ももたず魔力が枯渇してしまうのじゃが」
俺達は大きな木の下で足を止める。
そこには俺が置き去りにした時と同じ格好で眠っている女エルフが横たわっていた。
「あの方が?」
「ああ、男爵に無理やり俺達を狙うように命令されたっぽいエルフさんだ」
エレーナが駆け寄って横に屈み込み、女エルフの上体を抱き上げる。
小柄なエレーナが近くにいると、女エルフの大女っぷりがよく分かるな。
そして体のラインもお赤飯前なエレーナと違ってボンキュッボンである。
俺の中でのエルフのイメージは見かけだけならインティアの様にスレンダーな物なんだが。
現にエルフ領で見かけたエルフは目の前の彼女のようなのは居なかった。
もしかしてハーフエルフとか、逆にハイエルフとかそういうものなのだろうか?
「どれどれ、ちょいとみせてくれ」
ガルバス爺がエルフの前に座り込んでその首に巻かれた首輪を確認する。
「ふむ。たしかにこれは隷属の首輪じゃな」
「さっき言ってた奴隷の首輪強力版ってことですか。外せます?」
「外し方は他の首輪と一緒じゃよ」
ガルバス爺はそう答えながら、腰につけていたポーチから解呪結晶を取り出すと女エルフの首輪にあてがう。
インティアの時と同じ様に解呪結晶が真っ黒に変わった頃、パチンと軽い音がして、女エルフの首から隷属の首輪が外れ、地面に落ちた。
「これで大丈夫じゃな」
俺は一応用心のために女エルフの両手両足をガルバス爺に手伝ってもらいながら縛る。
謎の背徳感。
とりあえずこれで目が覚めた途端エレーナに襲いかかるなんてことは出来ないだろう。
「エレーナさん、後はまかせていいかな?」
「はい」
「目が覚めて暴れるようなら適度に燃やしていいからね」
「もうっ、そんなことしませんよ!」
死なない程度ならインティアが治してくれると思うと無茶も言える。
「じゃあ行きますか」
「ワシは入り口で待ってればいいのかの?」
「安全が確保できたら呼びますから、それでお願いします。多分戦力なんてもう居ないでしょうけど」
俺がガルバスさんを連れて向かった先。
そこは領主屋敷の庭を潰して建てられたと聞いた奴隷商の奴隷館であった。
「昔の面影は見る影もないのう」
「この屋敷の庭はガルバスさんが手入れしてたんでしたね」
「そうじゃ。奥方様にはよく褒められたものじゃ。そしてお
エリネスさん……。
「本当ならこんな建物、一気に潰してしまいたいけど、まずは中の人達を助けないとね」
「まかせたぞい」
「じゃあ、いきますね」
俺は奴隷館の扉を開けて中に入った。
扉の中で待ち伏せがあるかもしれないと慎重に扉を開けたものの、中からは何の反撃もない。
「ん?」
建物の中に入って最初の部屋を開ける。
立派なソファーと悪趣味な装飾品が置かれた応接室っぽい部屋の中は、まるで泥棒が入った後のように荒れていた。
「もしかして奴隷商とかいう奴はもう居ないのか?」
その後も数箇所あった部屋をすべて回るがもぬけの殻であった。
部屋の内訳は、多分だけど奴隷商の護衛の部屋、奴隷の首輪への魔力補充部屋、そして拘束具とかの胸糞悪い道具が置かれた倉庫部屋だ。
仕方なく俺は更に奥に進んで、多分奴隷が監禁されているであろう方へ向かう。
頑丈そうな鉄扉を開けると、その奥には牢屋のような檻が左右に並んだ形の通路になっていた。
「な、なんだお前は」
扉から一番近い檻からそんな男の声がする。
インティアも女エルフもそうだが、その男も俺のイメージする奴隷と違って血色はかなり良さそうである。
もしかして待遇はかなりいいのか?
「俺は田中拓海。あなた達を開放しに来ました」
「助けてくれるのか!?」
「ええ、既に外は俺の仲間達で制圧済みです」
俺の言葉に廊下沿いの檻の中から歓声が上がる。
といってもここに居るのは十人程度のようだ。
他は多分岩塩鉱山に送られているのだろう。
俺は後のことをガルバス爺にまかせて奴隷館の裏口から外へ出る。
奴隷商の名前は捕まっていた人から聞いた。
あの男爵が口にしていたバルクというのがそいつの名前だったらしい。
「逃げたとしても、男爵達が形勢不利になったのを見てからだろうからそんなに遠くにはまだ逃げられていないはずだ」
正門は俺達が戦っていたから、逃げたとすれば裏門からだろう。
俺は裏門に全力で走って向かう。
ここの所、素早さのステータスをあえて上げずに、その制御の訓練を続けていたおかげで転ばずに全力が出せる。
よほど慌てていたのか、裏門までの間、まるでヘンゼルとグレーテルのパンの様に色々なものが地面に落ちている所を見ると、俺の考えは間違っていない。
「いたっ」
俺が裏門にたどり着くと、一台の馬車が猛スピードで走っていくのが目に入った。
間違いなくあれがバルクの乗った馬車だろう。
「逃がすかよっ」
普通の人なら全力を出した馬車には追いつけるはずはない。
だが俺は違う。
なんたってチートの種のおかげでこの世界の誰よりも速い『素早さ』を手に入れているのだから。
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