第75話 ドワーフ村の宴会

 俺達が集会所に入っていくと、もう既に出来上がっているのかドワーフ達の騒がしい声で満たされていた。

 どこを見ても髭、髭、髭である。

 いや、成人前の子供達は普通の人間の子供のように髭はないけれど。


「拓海様、遅かったですわね」

「おお、拓海殿。さぁさぁ、こちらへお座りください」


 奥からエリネスさんがやってきて、ガルバスさんの隣の席へ案内してくれた。

 村長と言うだけあって上座ではあったが、席としては別に他の人達と違って立派なわけでもなく、場所以外は一緒だ。


「あらあらうふふ、エレーナったらまだお酒も飲んでないのにどうしてそんなに顔が赤いのかしら?」


 エリネスさんがエレーナの顔を見て、からかうようにそう口にする。


「ちょっと寒かっただけですわ。それよりも私お腹が空きました」


 エレーナはその赤らんだ頬を両手で隠すようにしながらエリネスさんに答える。

 なぜだか俺も恥ずかしくなってきた。


「ささっ、拓海殿も駆けつけ一杯」


 ガルバスが空気を読まず木製のジョッキに波々と注がれたビールっぽいものを俺に手渡す。

 これってあれかな。

 エールってやつ。


「ささ、ぐいっと」

「ありがとうございます」


 俺はジョッキを持ち上げ一気に喉に流し込む。

 うーん、ぬるい。

 けど美味い。


 ビールってキンキンに冷えてないと不味いイメージだったけどこのお酒はぬるくても美味い。

 さすが酒好き種族の作っているお酒だ。


 しかしかなり困窮してるはずの村だというのに、何故かお酒だけは色々と豊富に用意されていた。

 不思議に思ってガルバスにその事を尋ねると「食い物は無くてもドワーフは生きていけるが、酒が切れたら死んでしまうじゃろ」と真顔で言われた。


 いや、意味がわからない。

 食い物がなかったら流石に死ぬんじゃなかろうか。

 もしかしてこの世界のドワーフってアルコールだけあれば生きていけるような謎体内構造をしてるのだろうか?


 ありえる。

 なんせここは異世界だ。

 俺の常識は異世界の非常識なんてことも一杯あるだろう。


「流石にお酒だけでは生きていけませんわよ」


 エリネスさんが横からフォローを入れてくれる。


 まぁそりゃそうだろう。

 そもそも子供たちはいくらドワーフといえどもお酒は飲んでいないようだし。


 何歳からOKなのかはわからないが、成人前らしいエレーナは少しだけど飲んで顔を上気させている。

 結構色っぽいので、畑でのこともあってちょっとドキドキする。


「さすが拓海殿だ。人族なのになかなかいい飲みっぷりですな」

「いや、このお酒が美味しすぎるせいですよ。これってエールですか?」

「そうじゃ、エールじゃ。他にも色々とあるぞ、ちょっと持ってきますかな」


 ガルバスはそう言うと、立ち上がってお酒を取りに行ってしまった。

 一方俺は、空きっ腹にジョッキ一杯のエールをいきなり飲んだせいか、お腹の中が熱くなってきている。


 早くなにか食べ物を胃の中に入れないと悪酔いしそうだ。

 幸い眼の前には豪華とは言い切れないまでも、色々な種類の料理が並んでいる。


「もう飲んじゃった後だけど、いただきます」


 俺はそう言って両手を合わせると、一番近い皿から順番に料理を食べていった。

 岩塩鉱山を持つ土地だけあって、よく異世界物であるような味が薄い料理ではなかったが、やっぱり香辛料は無いらしく一味何か足りない。


 それでも十分美味しいのだが、現代日本人としてはやはり物足りない。

 これは香辛料もこの領地で育ててもらうしか無いな。


 そのためには胡椒とかの種も手に入れたい。

 あの種娘ちゃんに今度聞いてみるかな。


「拓海様、料理はどうですかな?」


 ガルバスがエールと違う澄んだ液体が注がれた陶器製の湯呑を二つ持ってやってきた。


 日本酒か?

 それとも焼酎?


「この酒はワシが作ったものなんじゃよ」

「ガルバスさんが?」


 まぁ、この世界というか国には個人でお酒を作ってはいけないなんて法律はなさそうだし普通なのか。


「今まで色々な酒を飲んできたんじゃが、どれもこれもこうワシには甘すぎてな」


 日本酒とかワインとかは甘口だとかなり甘いからな。

 どうやらガルバスさんは辛口党のようだ。

 俺もどちらかと言うと辛口が好きなので気持ちはわかる。


「それで行き着いたのがこの酒じゃ。ぜひ拓海殿にも飲んで貰いたくてな」


 そう言いながらガルバスは片方の湯呑を俺に差し出す。


「ありがとうございます」


 俺は湯呑を受け取ると、ガルバスと軽く湯呑をかち合わせ、一気に喉の奥に流し込んだ。

 途端に喉の奥がまるで炎にあぶられたように熱くなる。


 なんだこれ。

 辛口とか強い酒なんてレベルのもんじゃない。


 純度100%のアルコールを喉に流し込んだような。

 もしかしたらそれ以上かもしれない。


「どうですかな拓海様。この胃の中が一気に燃え上がる感覚がたまらんとはおもいませんか」


 俺はその言葉に返事することも出来ず目を白黒させていた。


 そうか、もしかしたらこの爺さん、火属性……。


 俺の意識はそこで途絶えた。


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