第73話 未来の最強土魔法使い
「なんだよ兄ちゃん、突然」
俺は土壌改良が成功した事を伝えるために親指を立てて、いわゆるサムズアップをした。
なのに、それを見た二人の反応がおかしい。
「拓海様……こんな所でそんな……」
ツオール少年は微妙な表情を浮かべ俺を軽蔑した様な目で見ている。
一方、エレーナは何故か真っ赤になって、その顔を両手で覆っている。
指の間からチラチラこちらをのぞき見しているのも気になるが、微妙に周囲の温度が上がっている様な……。
「いや、無事成功したんだけど」
「それと、そのジェスチャーはどういう関係があんのさ」
「えっ、成功したって意味のジェスチャーだけど?」
俺は不思議そうな顔をしてそう聞き返すと、少年の表情は更に強ばる。
同時にエレーナが何やらブツブツ言いながらその場にしゃがみこんでしまった。
一体何が……あっ、もしかして。
俺は昔どこかで聞いた事がある話を思い出した。
ジェスチャーというのは、国によって意味が違う事があると。
サムズアップも国によっては侮蔑の意味で使われるらしい。
しかしエレーナの反応を見るとこれは侮蔑とかそんなんじゃなくて……。
俺はそこまで考えると慌てて差し出していた手を引っ込める。
「ご、ごめん。俺の住んでいた所ではこのジェスチャーは『成功した』とか『よくやった』みたいな時に使われてたんだよ」
「拓海様って、エルフ領生まれですよね? でも確かあちらでも意味は同じだったはず」
そういえばそういう設定だったか。
俺は慌てて早口で言い訳を並べ立てる。
「それはほら、俺ってエルフの領域に家はあるけど人里とか行ってないじゃない? だから両親から教わったんだよ、うん」
そしてその両親は遠い国の出身だからと必死に説明する。
しばらくするとまだ少し顔を赤らめたエレーナが立ち上がって「私こそ勘違いしてしまって」と逆に謝られた。
一方のツオールはそんな俺達を今度はニヤニヤしながら見ていた。
殴りたい、あの笑顔。
いや、俺が殴るのは悪人とか魔物とか、俺達に害を及ぼす奴らだけだが。
「そ、そうだ二人共。土壌改良が成功したんだよ」
「本当ですか?」
「土壌改良ってなんだかわかんないけど、野菜がよく育つ様になるの?」
「ああ、それもとびっきり凄い野菜が育つかもしれない」
なんせ極上まで土の品質を上げてしまったのだ。
きっと極上の野菜が育つに違いない。
ああ、なんだか久々にのんびりとスローライフっぽい事をしてるなぁ俺。
家に帰ったら家の畑も同じ様に土壌改良してやろうかな。
その土に更に
想像するだけで危険な物が出来そうだ。
「さてと、ツオール」
「?」
「とりあえずこれで今年の収穫量は問題ないはずだ」
俺は両手に付いた土を払い落としながら立ち上がる。
畑は俺が力を使った範囲だけ少し色合いが黒く、感覚的にだが柔らかそうに変化していた。
「言わなくても見ればわかると思うけど、この色が変わってる部分が俺のスキルで土壌改良した所だから」
「兄ちゃんすげぇな。俺もそんなスキルほしい! 僕にも教えてくれよ」
教えて欲しいと言われても、どうすればこの世界で同じ様な力が手に入るのか俺にはわからない。
なんたって女神様から直接貰ったチート能力だし。
「教えてあげたいけど、この力は俺が気づいた時にはもう持ってた力だからよくわかんないんだ」
「そうなの?」
ツオールはあからさまにガッカリした顔をする。
そんな顔されたって俺にはどうする事も出来ない。
「可能性があるとすれば土魔法を極めればもしかしたら出来るかもしれない」
「土魔法を?」
「ああ、だって土壌をいじるわけだろ。つまりそれって土魔法の領域じゃないか?」
あっ、でもこの子の属性を聞いてない。
ドワーフでよくある属性は炎と土らしいけど、エリネスさんの様に光属性を持って生まれるドワーフも居るわけで。
「そっか、土魔法の訓練をすれば兄ちゃんみたいに慣れるのか」
「ツオールは土属性なのか?」
「うん!」
大きく頷いた少年の顔を見て、俺は内心とんでもなくホッとしていた。
でもまぁ、だからといって
イメージ的には土魔法と同じく水魔法も必要なんじゃないかな。
現状それを出来そうなのは二重属性を持てる事がわかったウリドラくらいか。
「よし、僕も頑張って兄ちゃんみたいになるんだ」
「お、おぅ。頑張れよ」
俺みたいにって言ってくれるのは嬉しいけど、俺の力は全部貰い物だから微妙な気分だ。
確かに剣の訓練をしたり、素早さに慣れるために走り回って何度もすっ転んだりはしたけどさ。
俺はやる気満々なツオールから目をそらし、土壌開発を終えた畑を眺める。
畑は一応
「ツオール。この畑ってまだ種植えとか終わってなさそうだけど、今日これからやるのか?」
「うん、朝から皆でやってたんだけど兄ちゃん達が来たり、騎士団が来たりしたから中止になっちゃったんだ」
「私達のせいで……ごめんね。ツオール」
エレーナに手を握られ謝られたツオールが頬を染めてあたふたしだす。
マセガキめ。
まぁ、エレーナは可愛いから仕方ないけどさ。
これがもうしばらくすると髭面になるかと思うと、お兄さんちょっと涙が出ます。
「それじゃあもう今日は畑仕事はしないのか」
「うん、みんな他にもいっぱい仕事があるから。種まきは一日くらい遅れても問題ないしね」
「そっか、それじゃあ――」
俺は懐から随分中身の減ってしまった五つの小袋を取り出す。
「端っこの方でいいからこの種を植えさせて貰えないかな?」
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