第86話
「ごめんね?さっき葵に気づきそうな人がいたから焦っちゃって…」
私が改めて謝ると葵はホッとしたような顔をした。
「そうだったんだ。なんか、怒らせちゃったかと思った。……ありがとう由季」
「怒らないよ。じゃ、改めて行こっか?ここの公園はデートでも定番みたいだから」
葵を安心させるように言ってから今度は葵のペースに合わせて歩き出す。これだけ人がまばらにしかいないなら平気だろう。葵はすぐに腕を組んできてまた一緒に歩き出した。
公園を少し歩いてからベンチに座る。葵は私に密着するように座ってきた。広いベンチに窮屈な気がするけどいつものことなので特に何も言わない。
「楽しかったね葵。いっぱい食べてお腹いっぱいだよ」
「うん、私も。すっごく楽しかった。由季ありがとう」
「全然。それよりさ、夜はバーにでも行こうと思うんだけどどうかな?ダーツとかビリヤードができるバーでね、案外楽しいと思うんだけど葵はやったことある?」
この後、夜に行こうと思っているバーは遥イチオシしのバーで私の友達の誰かは大体いる所だ。葵には秘密だけど偶然を装おって誰かと会って遊ぼうと思っている。これで葵が私以外と関わる機会ができるなら二人の時間が少し減っても私は構わない。
「ないけど……難しい?」
「ううん、簡単だよ。ダーツは初めてでも良い線行ける人とかいるから。挑戦してみよう?」
「うん。初めてやるけど楽しみ」
葵は笑って頷いてくれた。これなら大丈夫そうだ。それから私は少し気になっていたことを訪ねた。葵との携帯でのやり取りで話していたけど私が今一番気になることだ。
「葵、何か良い趣味とかは見つかった?」
「え?……うん、まだ探してるけど…料理教室は…たまに行こうかなって思ってるよ」
料理教室か、葵のレパートリーがまた増えるのは喜ばしいし美味しくできるようになるなら良いこと尽くしだ。
「そっか、良かった。遥からも聞いてると思うけど遥はアクティブだから何か料理の他にも楽しめるのがあると良いね」
「うん。そうだね」
「ハロウィンも遥楽しみにしてたよ。葵はハロウィンに仮装とかしたことないの?」
ハロウィンはまだ先だけど聞いてみた。葵のスタイルなら何でも似合いそうだけどやったことはあるんだろうか。葵は控え目に首を振った。
「ないよ。恥ずかしいしできないよ」
「え?そうなの?やったら良いのに。葵は可愛いから何でも似合うよ」
「……そんなことないよ」
葵の性格を考えたらこう言うのは当たり前なのかもしれない。前に出る方じゃないし目立ちたい方でもない。でも、折角だし私は葵と楽しみたい。
「じゃあさ、私も軽く仮装するから葵もしない?」
「え?……でも、恥ずかしいし」
やっぱり恥ずかしがっているけど私は押し切ろうと思う。こんな機会は中々ない。私は元々やる気はなかったけど葵と楽しめるなら話は別だ。
「一緒なら平気だよ。そんな本格的にしなくても帽子被るだけとかでも良いし、遥も何かやるみたいだしさ。私も葵と何かやりたいな」
「……あんまり、エッチなのとかは嫌だよ?」
可愛い葵にそんな際どい服とかを着せるつもりもないけどやってはくれるみたいだ。私は安心させるように笑った。
「そんなの分かってるよ。可愛い葵にそんなエッチなの何か着させられないよ。葵が狙われちゃうし」
「……うん。分かった…」
「ふふ、楽しみだね。私はどうしようかな―。何か良いのあるかな?」
葵の仮装姿が見れるなんてラッキーだ。仮装したら恥ずかしがるんだろうけど見るのが今から楽しみだ。それよりも私自身はどうするか悩む所だ。何が良いか分からないし、ここで気合いを入れてもなぁ。考えていたら葵は横から腕を掴んで引っ張ってきた。
「由季も、エッチなのはダメだよ?」
真面目な顔をして注意してくる葵。こんな容姿でそんな格好はできないけどとりあえず頷いた。
「分かってるよ。私はそんなのしないから、そんな心配しないで?」
「……うん。本当にダメだからね?」
「うんうん、分かってる。何かネットで探してみるよ」
「私も探してみる」
とりあえず葵を納得させてハロウィンの仮装を取り付けた。楽しくなりそうだ。内心うきうきしながら私は夜になったら渡すタイミングがないかもしれないなと思っていたプレゼントを今渡そうと思った。
葵が喜びそうなのを選んだつもりだけど、どうだろう。私はおもむろに朝から持っていた小さい紙袋を葵に渡した。
「葵?これプレゼント」
「え?プレゼント?」
「うん。葵のために買ってきたよ。今日は記念日とかじゃないけど葵のためのデートだから」
「……よかったのに……」
葵はサプライズに驚いているようだった。まぁ確かに今日は何かお祝いをする日じゃないから当たり前だ。
「葵を喜ばそうと思って買っちゃった。開けて見てみて?」
「う、うん……ありがとう。開けてみるね」
葵は嬉しそうに笑うと中に入っていたプレゼントの包装を丁寧に解いていく。出てきたプレゼントに葵はとても驚いていた。
「わぁ!綺麗……。これは生花なの?」
葵は、綺麗な青いバラが飾られたガラスのハイヒールを取り出した。葵の表情を見るとプレゼントとしてはインパクトがあって良かったみたいだ。
「ガラスの靴はインテリアみたいな物なんだけどその花は生花を保存加工してるんだよ。ブリザードフラワーってやつでね、長く鑑賞できるようにされてるから二、三年は飾れるんだって。環境によってはもっと長く飾れるみたいなんだけど、葵の名前から青いバラにしてみたんだけどどうかな?」
ガラスの靴の底に入れられたバラは生花のように美しくて本物と見違える。こんなロマンティックな物をあげるのは照れるしちょっと引かれちゃうかもなと思っていたけど葵は形に残る物の方が喜ぶだろうし部屋は可愛らしいクッションやインテリアを置いているから買ってみたのだ。
「……すごく嬉しい…。本当にありがとう」
葵はプレゼントを見ながら顔をほころばせて本当に喜んでくれた。プレゼントも大成功みたいだ。喜んでくれて私もひと安心する。実はプレゼントは一番悩んでいたから。
「良かった。日光とか湿気?に弱いみたいだからそういうとこは避けて飾ってみてね」
「うん!……ガラスの靴もお花も……初めて貰った…」
葵は本当に嬉しそうに笑ってくれた。私もこの顔が見れて喜んでしまう。良かった。良いデートにできて本当に良かった。
「可愛いよね。葵にぴったりだなって思ったんだよ。葵は特別だからね」
こんなに喜んでくれて私もデートのプランをよく考えた甲斐があった。葵のためのデートだったけど私の方が貰っているかもしれない。
実はガラスの靴には葵の名前とメッセージを彫ってもらっているけどこれは秘密にしておく。気づいていない葵が帰ってからも喜んでくれるように私は何も言わなかった。
「ありがとう由季。本当にありがとう。大切にするね」
葵は本当に嬉しそうに笑って言った。何だか葵への気持ちが溢れて抱き締めてキスをしたい所だけど今は外だし我慢する。二人の時なら遠慮なくできるからいい。
葵はガラスの靴を嬉しそうに眺めると、紙袋の中にしまって軽く抱き締めるように膝の上に置いた。嬉しそうな表情に私は笑ってしまった。
「葵が喜んでくれて良かったよ。結構悩んだから本当に良かった」
「喜ぶに決まってるよ。私、本当に嬉しくて幸せ。由季ありがとう。デートも色々考えてくれて、プレゼントまでくれて……本当にありがとう」
葵は私を見て嬉しそうな顔をして涙をこぼした。泣き虫だな、また嬉しくて泣いちゃったのかなと思いながら私は涙を拭おうとしたけど、葵の次の言葉に手が止まった。
「もう由季は、私のこと……いらなくなっちゃった?」
葵は嬉しそうに笑っていたのに悲しそうな表情をして私を見つめた。私はその言葉に理解ができなかった。
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