第80話
「……やだ?」
「いや、嫌って訳じゃないけど……こないだ一緒に入ったでしょ」
葵と一緒にまた入るなんて心臓が幾つあっても足りなくなる。私の気持ち何か知りもしない葵はなおもねだった。
「そうだけど。……こないだ、由季から貰ったプレゼント……一緒に使いたい」
「あれは葵にあげたんだから葵が使いな?」
「……でも、一緒に使いたい。……由季と使いたいなって思ってたから、あんまり使ってない……」
確かに昨日一人で風呂に入った時に私があげたスクラブや入浴剤等が置いてあったけどあまり使っていなかったから気に入らなかったかなと思ったけどそういうことだったのか。あぁ、どうしよう。葵には悪いが断る方向に持って行こう。あの緊張は体に悪い。
「ちゃんと使ってよ。一緒に入らなくても来た時は使えるんだから。それよりお風呂、早く入ってきて?」
私にしては少し強めな口調で言って葵を急かすけど葵は私の首に抱きついてきて離れない。
「……一緒がいい」
「狭いから一人で入ってきて」
「……前は二人で大丈夫だったもん……」
「…それでもちょっとは狭かったでしょ?」
葵を引き剥がそうとするもどうやら嫌みたいでさらに強く抱きついてきた。そこまで一緒にいたがる葵に嬉しく思うけどこれは中々葵も折れる気はないらしい。
「……狭くない。……くっつけば平気だよ」
「葵、別にお風呂くらい一緒じゃなくても…」
「や、やだ!……一緒に入りたい…」
「……もう、分かったよ。分かった。入るから。お風呂の準備してくるから離して?」
仕方なく承諾してしまった。葵に我が儘を言われるともうどうしようもなくなる。また緊張するなと思いながら離れてくれた葵を置いて風呂を沸かす。プレゼントを私と使いたいなんて、プレゼントの意味が分かってるのか?少し呆れながら風呂が沸くのを待った。
風呂が沸いてから一緒にお風呂に入ったけど、私があげたボディソープやスクラブはとても良い匂いがして肌が良くなった気がする。洗顔用に買ったやつもそれはそれは良かったが、極めつけは入浴剤だ。これは前に職場の人が言っていたのを思い出して買ったが本当に香りが良かった。肌を保湿してくれて疲労等にも効果があるらしいし、乳白色に変わったお湯に浸かっているだけで癒されるしずっと浸かっていたくなるくらいだ。
「気持ちいいね」
葵は上機嫌に私に凭れながら言ってきた。浴槽に入れば入浴剤のおかげで葵の体型は見えないから幾らか胸のドキドキは減るけど無防備な姿にいつもの落ち着きはない。
「そうだね。本当に良い匂いだね」
「うん!由季ありがとうね」
「ううん。葵が一緒に入りたいって言ったのも分かるよ」
お風呂の中で手を繋ぎながら葵を引き寄せる。葵からも本当に良い匂いがする。葵が喜んでくれて良かったけど背中にスクラブを塗りあうのはドキドキして大変だったしまた葵の完璧な体を見て私は内心動揺していて、これはまだまだ慣れそうにない。
私があげた防水用のスピーカーから流れる音楽を変えてから葵は私を見てきた。流れてきた歌は私が好きだと言っていたやつだ。
「それもあるけど、お風呂は一人で寂しいから、由季と一緒が良いなって思ってたの」
「お風呂以外は一緒なのに寂しいの?」
「…うん。由季と一緒の時は……あんまり離れたくないから」
離れたくないって、離れたの内に入らないと思うけど寂しそうに言うから葵には嫌なことなんだろう。こんなに寂しがり屋にしてしまったのは私が甘やかしているからだろうか。
「一緒の空間にいるんだから良いじゃん。本当に寂しがり屋だね葵は。じゃあ、これからもたまには一緒に入ろっか?」
寂しがる葵を見ると心苦しくてつい葵の気持ちを優先してしまう。いつもは私がどうにかなってしまいそうなので妥協して提案したのに葵は首を傾げて聞いてきた。
「……たまにだけ?」
純粋な葵は分かっていない。私が葵を見て胸がときめいたり、興奮したり、いやらしい目で見たりすることを。この子は私を本当に優しい人だと認識している。本当はこういう部分は葵には見せたくないけど教えてあげようと思った。私を分かりたい葵に私はにっこり笑ってキスをしてから言った。
「したくなるから、たまにだけだよ」
「え?」
葵はよく分かってなさそうな顔をする。まぁ葵がこれだけで理解できるはずがないか。私は恥ずかしいけど答えた。
「葵の裸見たり触ったりするとね、胸がドキドキするけど興奮して、エッチな目で見ちゃう時があるからたまにだけ。それで襲っちゃったら私も止められないから」
「……そうだったんだ……」
恥ずかしいことを言ったのは私なのに葵が恥ずかしそうに視線を下げてしまった。聞いてきたくせに可愛らしい姿に私はまたキスをして横から葵を見ながら話した。
「葵が魅力的だから現に今もドキドキするし、可愛くて綺麗だから目が離せなくなるよ」
「……そういうこと言われると嬉しくて、私の方がドキドキしちゃうよ……」
「だって本当に可愛いもん葵は。でも、そういうことだからいつもは勘弁してね?」
「……うん」
毎回一緒だと襲いかねない。これで
葵の感触と温かさに動揺してしまう。
「また…したくなっちゃった…」
葵の無自覚なおねだりに私は胸が高鳴るけど抱き締めながらいつもみたいに答えた。この誘惑は抗うのが難しい。
「……今?」
「……うん。由季が嬉しいこと…言うから」
「エッチな目で見てたんだよ?」
「……由季のそういう視線も好きだもん。そうやって見てくれてるの気づかなかった。私にドキドキして、興奮して、エッチな気分になってくれるの嬉しくて……ムラムラしちゃった」
付き合ってるんだから性的に見るのは当たり前なのに葵はそんな当たり前のことに喜んで私を求めてきた。昨日も散々したし葵は仕事があるのに私は気づいたら葵に当てられたように体に手を這わせていた。
「葵がそんなこと言うから、したくなっちゃったじゃん」
「んっ……早くしよ?私のこと、もっと触って?由季が興奮してくれるように……頑張るから」
「もう興奮してるから大丈夫だよ。葵、そこに座って?舐めてあげる」
葵のせいで私は完全にやる気になってしまった。葵は素直に浴槽の縁に座ると私を期待するような眼差しで見つめながら足を開いた。あぁ、これだけでさらに興奮してしまう。
「声、また我慢してね?」
「うん。由季、その前に……キスしたい」
太ももを撫でていたら葵は女の顔をして私の肩に手を置いた。無意識にしているその表情は本当に色っぽくて胸が高鳴る。葵の言葉に煽られて私は無言で優しくキスをしてねっとりと舌を絡めた。
「んっ…はぁ、由季とのキス……気持ちいい」
「私も気持ちいいよ」
「……由季…もっとキスしたい」
「いいよ。葵がしたいだけしてあげる」
快楽に興奮したような葵に私は笑ってまたキスをする。葵はそれを嬉しそうに受け入れて私の頭を抱き締めてきた。
キスをしてるだけで気持ちが良いのは本当に葵が好きだからだろうか。葵に触れながら頭の片隅でぼんやり考えた。
葵に触れるのは本当に好きだ。キスをして肌を重ねていると考えなくちゃならないことを一時的に忘れられる。それに葵に溺れている時は好きな気持ちだけでいられる。
私達は、好き同士じゃないかもしれないけど。
でも、今はこの気持ちだけでいたい。好きだと思いたい。私を求めてくれる葵を愛したい。私の心はその気持ちで溢れていた。
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