第44話
「…可愛い、由季。恥ずかしいけど……嬉しい」
「ふふ、良かった。これからは、するようにするね」
「うん……」
頭を優しく撫でてくる葵に、いつもとは違う立場に違和感があるけど包まれている感じが安心するし心地よくてもっと甘えたくなる。思い返すと私は葵に甘えたりすることが殆どなかった。葵の要望でもあるし私もやりたいから今度からはうんと甘やかしてもらおうか、そう考えていたら葵は頭を撫でながら話し出した。
「由季?あの、嫌なことがあったら、言ってね?ちゃんと直すようにするし由季が嫌なら……さっきのしてほしいことも、しなくていいよ?あれは、私の我が儘だし……優しいからいつも全部受け入れてくれるけど、嫌じゃない?」
「嫌じゃないよ」
葵と少し距離を取る。付き合っているのに、この子は本当に心配症だ。言って聞かせてあげないといけない。
「葵が好きだから、嫌じゃないよ?好きだから葵のお願いは何でも聞いてあげたいし嫌だとも今まで特に思ったことないから。また、気にしてたの?」
言わなくても私達の間では分かるような指摘に申し訳なさそうに頷く葵。この子のコンプレックスはどこまでも付きまとう。
「由季と付き合えて、好きになってもらって……嬉しくて幸せで凄く満たされるの。だけど、前よりも……由季に嫌われたくなくて由季を取られたくなくて、この幸せがなくなったら……嫌で、由季のこと考えると、私、抑えられない。……本当はね、全部独り占めしたいの」
「もう独り占めしてるでしょ?私達、付き合ってるんだよ」
暗い表情をした葵を安心させたくて言ったのに、ただ首を横に振って控えめに葵は笑った。
「由季がね、見るのも笑うのも触れるのも一緒にいるのも……全部私だけが良い。由季を誰にも渡したくない。私だけの、私だけの由季にしたい。だから、誰にも由季を見せたくないの。私ね、最近、考えたことがあるの」
葵は私を愛しそうに見つめながら首に腕を回して顔を近づけてきた。私はそんな葵から目が離せなかった。
「由季を私が養って、外に出さないようにして、私がずっと、ずっと由季のお世話をしたら……私、不安とか心配なことがなくなって、本当に幸せになれるのかなって。毎日、大好きな由季をお世話してあげたら、由季は私だけ見てくれるでしょ?そしたら私、凄く嬉しくて満たされて……誰よりも幸せになれると思うの。だけど、…おかしい…よね。そんなの無理だし、由季に嫌われる。でも、由季が好きだから、そんなことばっかり考えちゃうの」
葵の愛に私は言葉が出せなかった。私への一心の愛は葵を幸せにすると同時に葵を狂わせていくようで、気持ちが上手くコントロールできなくなってきているようだった。私への愛は執着と依存が混ざって、とめどないことは本人も理解をしている。私も理解していたが、これ程までに膨らむとは思わなかった。だけどそれが苦痛に感じない私も、少しおかしくなってきているのかもしれない。この子の言葉に喜びを感じたんだから。
私はただ、葵の不安を消してあげたかった。不安定なこの子に愛を証明させるべく、控えめに笑って私を見つめる葵に安心させるように笑って片手を頭に回してキスをした。それはただ唇を合わせるだけじゃなく舌を絡めて貪るような荒いキスだ。舌を強引に絡めて吸い上げて舌の奥から先、歯列まで全て這うようになぞった。
「ん、はぁ、あ…ん……んんんっ!」
葵はなすがままに口の中を犯されて私の首に強く抱きつく。卑猥な音にお互いの息が荒くなりながら角度を変えてキスを続けて私は葵を押し倒すようにベッドに優しく寝かせた。
「ん、はぁ、ゆ、き」
唇をやっと離すと葵は熱のこもった眼差しを向ける。それに目が離せなくて興奮するけど、伝えないといけないことがある。至近距離でしっかりと目を見つめた。
「そんなこと考えなくて大丈夫だよ。私は、葵だけだよ。私は葵しか見てないしこうやってキスをするのも葵だけ。葵が一番好きだよ、本当に愛してる。だからもっと、私を信じて。私は葵のだし、葵は私のでしょ?」
「うん。私は由季のだよ。私も、私もね……愛してる」
「ふふ、うん。ねぇ葵?してもいい?葵の不安なくしてあげたいし、私が好きなの伝えたい」
我慢ができなくなって葵の首に舌を這わせる。葵はそれだけで体を震わせた。
「あっ!んっんん…ゆき、それ…はぁっ、んんっ!だめ」
「葵?もう我慢できないよ」
一旦舐めるのを止めて葵を見ると嬉しそうに笑った。
「…いいよ。早く、いっぱい触って?」
私はそれを合図にまた唇を奪った。気持ちの良いキスにますます興奮して、葵の身体中に手を這わせる。愛したくて触れたくてもう気持ちは止まらない。葵はそんな私の頭を抱き締めて応えるように舌を絡めた。愛情と興奮に身を任せて行為はどんどん激しくなって私は心からの愛を全身で葵に伝えた。
愛しあってから眠ってしまった私は、少し肌寒くて目が覚めた。隣には裸の葵が気持ち良さそうに眠っている。私は毛布を肩までしっかりかけてあげると起き上がった。昼をかなり過ぎている。葵はまだ目覚めないだろう。初めてのエッチは葵が可愛すぎて無理をさせてしまったかもしれない。乱れた彼女は普段からは考えられないくらいいやらしくて可愛らしくて本当に興奮してしまった。でも私の気持ちは充分に伝わったと思う。私は脱ぎ散らかった服をまとめて畳むとシャワーを借りてさっと浴びた。
シャワーから出ても葵は眠ったままだった。丁度良いので遅いけど昼ご飯を何か用意してあげようと思ったけど私は葵のキッチンに立ったことがない。勝手に使うのは気が引けるしやったとしても葵の料理に見合う程の物が作れない。これは仕方がないから、コンビニまで行くか。私はお財布と鍵だけ持って音をたてないように部屋を出てコンビニに向かった。コンビニでは葵が好きそうな物を中心に買ってきた。
「葵?起きて?」
昼ご飯を調達してから葵の肩を優しく揺する。葵は唸りながら目を擦っている。
「ほら、シャワー浴びてきな?お昼過ぎたけどさっき買って来たんだ。昼ご飯食べよう?」
「うぅん、」
眠そうに目を開けた葵は私を見るなり顔を赤らめて驚いたように起き上がった。
「お、起きてたの?!」
「あぁ、うん、さっき起きた。シャワー借りさせてもらったよ」
「それは、良いけど…」
「ほら、早くシャワー浴びてきな?昼ご飯にしよう?」
「うん、シャワー浴びてくるから……こっち、見ないで…?恥ずかしいから」
毛布で体を隠す葵。今さらそんな反応しなくても良いのに。私は分かったよと言って、てっとり早く後ろを向いた。すると足早に葵はシャワーに向かったので、残ったシーツの後片付けをした。
「どれ食べたい?適当に買って来たから好きなの食べて」
シャワーから上がった葵にさっき買ってきた物をテーブルに並べながら見せた。
「うん、ありがとう」
葵はさっきからずっと照れていて私と目が合うと逸らしてしまう。さっきのエッチを意識しているのか、私は苦笑いしながら葵の体を心配した。
「体、痛くない?」
「う、うん。平気……だよ」
「良かった、喉は?平気?」
「うん」
素直に答える葵に、少し恥ずかしいけど初めてだったし、葵は終わってすぐに疲れたように眠ってしまったので心配だからもう一度聞く。
「そっか。なんか、葵が可愛すぎて……やり過ぎたとこもあった、というか。ごめんね?私も初めてだったから、本当に痛くない体?」
ちょっと照れながら様子を伺うと葵は耳まで赤くしながら小さく呟いた。
「本当に、大丈夫だよ。由季がしてくれること、何でも嬉しいから。それに私、あの、……気持ち、良すぎて。本当に、よ、良かった…から、変な声……出てたと思うんだけど……幻滅、してない?」
葵の思わぬ返答に今度は私が恥ずかしくなって顔が赤くなるのが分かる。良かったならそれで良いけど、葵の声も姿も胸が高鳴ったし幻滅なんかするはずがない。
「す、する訳ないから、葵に幻滅なんかしないよ。葵は、その…私には本当に勿体ないくらい、良い彼女だからさ」
「……嬉しいけど、恥ずかしいよ…」
葵はそれだけ言って下を向く。私もなんだか顔が赤くなって照れてしまって、それから黙ってしまった。嫌な沈黙じゃないけどこの沈黙は恥ずかしかった。どうにか話を変えようと私は体よりも気になっていることを聞いた。
「それより、私の気持ち伝わった?不安はなくなった?」
その問いにやっと目線を上げた葵。まだ照れているけどはにかみながら小さく頷いて見せた。
「うん。由季の気持ちいっぱい伝わって、不安じゃなくなったよ」
「良かった。私も葵の気持ち伝わったよ。ちゃんとこれからも伝えるからね」
「……うん。…なんか、幸せすぎて、胸が苦しい」
葵は突然涙を流した。私はぎょっとした。
「なに泣いてんの?もう泣かないでよ」
大袈裟な葵の頭を撫でてあげるけど、葵の涙は止まらない。さっきまでは恥ずかしがっていたのに困ったものだ。
「だって、由季が私のこと大好きなの凄く伝わってきて、嬉しくて、私…愛されてるんだなって思って」
「そりゃそうだよ。私は葵が大好きなんだよ。本当にね」
「うん、私も大好き。……ごめんね、いきなり泣いて」
「いいよ。ほら、早く泣き止んで?ご飯食べよ?」
泣きながら笑う葵を慰めて私達は遅めのご飯を食べた。とりあえず、不安がなくなったのなら良かったし愛が伝わったみたいで安心した。葵のとめどない気持ちに私は応えられたようだ。
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