第49話0049★《封印》されし神殿とビャクヤ4 罠を張る


 ビャクヤは、そうとわからないように、わざと傷を負い、血を流しながら、その空間に巨大サークルを作るように飛び跳ねる。

 そう、血を使っての大規模な《結界》をしき、その中のモノ全てを灰燼かいじんとする為に…………。


 ビャクヤが使う灰燼かいじんは、実は魔術ではなく、古い古い禁術の1つなのだ。

 偶然で見つけた秘密の小部屋に、その禁断の書はあった。


 過去に、たった独りの狂った男の手によって、都市ひとつ全てを灰燼かいじんとした魔術。


 その由来は、目に入れても痛くないというほど可愛がっていた愛娘を奪われ、陵辱されて嬲り殺された狂気が産んだモノだった。


 男は、おのが血と生命を使って、都市ひとつを何も無い更地へと変えたばかりではなく、大地すら侵食し続けたと書かれていた。


 その禁断の書に込められた怨念と、術の危険性から、世から抹殺された、灰燼かいじん


 込められた憎悪は、女神サー・ラー・フローリアンの邪神達を封じた《封印》すらるがしたと、書かれていた。


 それをしずめる為に、冥府の女神サー・ラー・レイリアンと地母神サー・ラー・メイリアンも協力したという記述が添付されていた。


 3柱の女神によって、どうにかしずめられた男の怨念の術。


 通常の小さなモノを消滅させる灰燼かいじんは、頭の中に術のサークルを思い浮かべるだけで簡単に発動した。

 保有する《魔力》が強大だったセイもあって、ビャクヤは難なく使用するが、術に失敗すると、周辺や自分自身へと発動してしまうモノなのだ。


 そこに、血や《生命力》などを付与して術を使えば、かなり危険なモノとなる。


 だが、この地で、自分を……飛翔族の皇太子を強襲した者達を取り逃がす危険を考えれば、ためらう余裕など無かった。


 ビャクヤは、 灰燼かいじんの為のサークルを描き終え、術を発動させる為に、わざと追い詰められたふりをしながら、その陣の中央へと走る。


 12人の追っ手は、ビャクヤの動きに釣られ追いかける。


 ビャクヤは、ひらけた場所だけにサークルを作るとバレる危険性を考え、ここの誘い込む時の目印とした、赤い樹皮の香焔樹かえんじゅを中心とした。


 ビャクヤは、荷物を背負ったまま、慌てたように香焔樹かえんじゅの幹を登っていく。


 それに気づいた追っ手は、釣られて慌ててビャクヤを追いかけ、半分が同じように幹を登ってくる。


 そう、飛翔族の皇子がキツネの獣人に化けていると想定しての強襲なので、本当に飛翔族の皇子だった場合、樹上へと登られると、飛んで逃げられてしまうのだ。


 ゆえに、傍観……というか、様子を観察していた者達も慌てて、香焔樹かえんじゅに取り付き上り始める。


 それでも、冷静な者が2人いた。


 その1人は、ビャクヤの弓を切り落とし、その腕に傷を負わせた者だった。


 するすると、背に荷物を背負っているとは到底思えない速度で、樹上へと向かうビャクヤに、2人は舌打ちする。

 頂点へと到達し、翼を広げて逃げられては、飛べない自分達は、追うことが出来ないゆえに………。







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