第24話 カタカタ



 父が急逝したため、家業を継がなければならなくなった。仕事をやめ、郷里に帰った。

 自分の子ども部屋は、もう物置になってしまっているので、生前、父が使っていた部屋を寝室にすることになった。


 しばらくして、私は、その音に気づいた。

 どこからか知らないが、つねに、カタカタと変な音がする。


 カタカタ、カタカタ——


 ナベのふたが、ふきこぼれそうになって、ふるえているときのような?

 とめどなく、カタカタと鳴り続けている。


 最初は、あまり気にしてなかった。

 古い家だから、どこかから、すきま風でも入ってるんだろうと。


 しかし、毎日、続くと、だんだん、その音が耳ざわりになった。

 どうにか止めたくて、音の発生源をさがした。


 どうやら、その音は和ダンスからしている。

 どっしりした、とても、りっぱな和ダンスだ。

 その二段めの引き出しの持ち手の金具が、小刻みにゆれている。それが引き出しを打って、そんな音をたててるのだ。


 なんだか、薄気味悪い。

 とくに風もないし、近くで工事などしているわけでもない。地震だって、こんなにずっと、ゆれてるわけはない。


 いや、そもそも、なぜ、二段めの引き出しだけが、ゆれるのか? 一段めや三段めは、ゆれてないのに?

 そう思うと、そこはかとなく、気持ち悪い。


 金具をタオルで包み、輪ゴムで縛った。

 音はしなくなった。

 ほっとして、その夜は熟睡した。


 深夜——

 ふと、目がさめた。

 また、あの音がしている……。

 なぜ? タオルで巻いて、しばったはずだ。


 布団のなかから、視線だけ、そっちへ送る。

 すると、たたみの上に、タオルが落ちていた。

 振動で、ゆるんだのかもしれない。

 なんだ。まったく……手間かけるなあ。

 そう思って、体を起こした。


 その瞬間、和ダンスの上にのったものが見えた。

 外からの月明かりが、その輪郭を浮かびあがらせている。


 それは、斬首された罪人の首だ。

 まげを切られた、ざんばら髪。

 にぶく光を反射する双眸。

 口の端から血をたらしている。

 にごった目が、ちろりと、こっちを見た。


 悲鳴をあげ、私は失神した。




 *


 翌朝。

 私はタンスの引き出しをあけた。

 なかには、ふろしきに包んだ日本刀が入っていた。

 私はそれを菩提寺に持っていき、供養をしてもらった。刀は寄贈して、お寺で始末してもらうことにした。


 これで、もう安心だ。

 あの引き出しも、もうカタカタ鳴らない。




 *


 その夜……。

 真夜中に、私は、また目がさめた。


 枕元に男が立っていた。

 白い裃をきた、首のない男が。

 あの刀をふりあげて——

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