第74話 SS その後の若君視点
「ナナってさ、俺を警邏のお兄さんって呼んでた時、俺の姿が分からなかったじゃないか」
「ええ、そうですね」
それが何か? という風にナナが首をかしげる。
「ちょっと思ったんだけど、その頃俺の姿を、ワイアットみたいな感じを想像してなかった?」
ワイアットはナナの祖父の名だ。
年寄りだなんて間違っても言えないような威風堂々たる大男で、会議の時もナナのこともひょいと腕に乗せていた。白い髭のワイルドな男だ。
「あれ? 私、言ったことがありましたっけ?」
やっぱりか。
ナナの好みは自分の父親のような男だという。ついでに言えば祖父もだそうだ。
二人の共通点は、見るからに逞しい男らしい男。
俺も上背だけなら負けてないのだが、いかんせん、どう頑張ってもああいう野性味あふれる風にはならないのが悩みだ。
「陛下って、ワイアットに似てるよな……」
「そうですか? んー、言われてみればそうかもしれませんね。親子ですものね」
とろけそうな笑顔でナナが同意する。
「チェイス様は、陛下に似てるよな……」
「どうなんでしょう……。言われてみればそんな気もしますけど、あと十年くらいしないとよく分からないかも」
十年はまずい。
その頃の体が完璧に作られたチェイス様では、ナナの好みにドストライクになってしまう!
「それがどうかしたんですか?」
「えっと……、チェイス様より俺のほうが強いって知ってる?」
「知ってますよ?」
ナナは、何を言ってるのだという顔だ。
だが言えない。
ナナの理想の俺になりたいなんて。
結婚まで先が長いっていうのに、すぐ近くに理想が服着て歩いてるんだぞ!
ナナがよそ見をすることはないだろうけど、がっかりされるのだけは絶対避けたい。
なんで俺、この娘が絡むと全然自信がなくなるんだろうなぁ。
「テッド?」
不思議そうに俺の顔をのぞき込むナナの頭をクシャリと撫でる。
そんな無防備にかわいい顔を見せないでくれ。
「あの、ちょっとここに座ってくれますか?」
ナナにベンチをさされ、素直に座ると、ナナが横にちょこんと座った。
「今からちょっと変なことを言うかもですけど……」
「ん?」
「私の理想は、テッドですからね?」
「えっ?」
「あの、その。お父さんやおじいちゃんが理想って言ったことがあったじゃないですか。もしかしたら、テッドはそのことを気にしてるのかなぁって思って。違ってたら、すごく恥ずかしいんですけど」
すでにナナの顔が真っ赤だ。
「いや、違わない」
ばれてた恥ずかしさより、自分を理想と言ってくれたことのほうが気になる。
「本当に? 俺が理想? 俺、鍛えてもあんな風にはなれないんだけど」
昔からそれがコンプレックスの一つだったんだが……。
「私が理想だって言ったのは、お父さんとお母さんみたいな、そしておじいちゃんとおばあちゃんみたいな夫婦になれる人って意味なんです。一生にただ一人の人って……そういう意味なの……」
最後は消え入りそうな声でナナが言った言葉が、じわじわと胸にしみわたる。
「一生にただ一人?」
こくんと頷くナナ。
ナナが大好きな人たちのような夫婦になれる。それがナナの理想の男? それなら十四年間、ナナの側で見てきた。俺以上に理解してるやつなんていないだろ。
「それなら、俺だ……」
思わずこぼれた言葉に、ナナが花がこぼれるような輝く笑顔になった。
やばい、可愛すぎて息が止まる!
「ナナ、こっちを見て」
その頬に触れ、俺たちはいつもより長いキスを交わした。
俺にとってもただ一人の、最愛の人。
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