第72話 SS 第62話買い物の裏 若君視点

ゲシュティに戻るため、二人でナナのワンピースを買いに行ったテイバー・ウィルフレッドは――


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 デートだ!

 今度こそ間違いなくデートだ。


 差し出した俺の手を、ためらいなく握り返してくれるナナの可愛さに震えが走る。

 今日のナナは、白いブラウスにふわふわ揺れるミニスカート姿で、うぬぼれでなければ俺のために・・・・・目一杯おしゃれをしてくれている!

 可愛い、本当に可愛い!

 日本に慣れてるテイバー目線で考えると大人しすぎるくらいのコーディネイトだが、ゲシュティの感覚だと足が出すぎなこと以外はとても上品で、ああ、いつものナナだと感じる。だが揺れるミニスカートから伸びる綺麗な足も、ブラウスの胸元も、うっすら桜色の頬もふっくらとやわらかな唇も、すべてが可愛い。可愛すぎるだろ! 本当にこの子が、俺のことを好きだって言ってくれたんだよな。

 まずい、気を抜くとついつい頬が緩む。ナナの前でにやけないよう気を付けないと。

 だがしかし、今日はワンピースだけではなくロングスカートも買ったほうがいいだろう。この足を、他の男に見せてやる義理はない。


 ああ、長かった。ここまで本当に長かった。


「こうしてると、王都の市場を歩いてる時を思い出すね」

 そう言って笑いかけると、赤くなってうつむくのもたまらなく可愛い。

「そうですね」

「俺にとっては、あれ、デートだったんだよ」

「そうなんですか?」

「うん。ナナはまったく気づいてないどころか、色々ポキポキへし折ってくれてたけど」

 タキだったほうの俺は、ウィルが腰に手を回してすぐそばに立っているのにもかかわらず、あまりにもナナが平然としてるので当然やきもきした。

 ウィルの肩から人としての目線を楽しみはしたが、ウィル(俺)、もっと頑張れよって気分だったのだ。

 二つの視点で自分を思い出すと、あまりにも不甲斐なくて情けなくなる。


「えーっと。……ごめんなさい」

「今日は、間違いなくデートだよね?」

「……はい」

 はいだって。やった。


「じゃあ、ナナは俺の彼女だよね?」

「えっと……」

「そこで迷う?」

「だって……」


 ――やっぱりそうなるよな。

 浮わついた気持ちが、少しだけ冷静になる。

 このまま日本に住むなら、一緒にいることへの障害なんてないも同然だ。

 問題は多いが、それでも準備を重ねてきた分、クリアできる目途はある。


 だがナナは、ゲシュティで上級仕立て士になることを選んでいるのだ。

 テイバーも最初はそれを望んだ。ウィルと一つに戻るために。

 でもいざそうなると、問題があまりにも多すぎた。


 ふと、チェイス様の顔が思い浮かぶ。

 試合が終わって打ち上げをしていた時だっただろうか。

 何のきっかけだったか、ナナの話が出ていた。


 その頃には、陛下が王子のどちらかを領主に、どちらかをナナの婿にと考えてると言う噂が聞こえ始めていた。ウィルの耳に入らないようにしていたらしいが、わからないはずがない。


 表面的にはブライス様が優勢だった。

 二人きりでいるところを見たという、目撃情報も多かったのだ。

 それでもたまたま、彼はナナを妹と同じに見ていることを知ったから冷静でいられた。

 実際そうだったしな。


 だがチェイス様は……。

 なにか違うのだ。ウィルフレッドの目から見てもそうだったし、タキとしてそばにいたテイバーの目から見てもそう感じた。

 上手く言えないが、もし、もしも出会う順番が逆だったら……?

 もし最初から、二人が普通のイトコ同士として暮らしていたら?


 いや、そんなことは考えるだけ無駄だ。

 ナナが好きだと言ったのは俺なんだから。


「ナナ、聞いて。俺が一番大切なのは君だけなんだ。やっと、やっと手に入れたのに、二度と手放すつもりなんてないんだから覚悟してね」

 そうだ。絶対に彼女を手放したりしない。

「覚悟って……」

「俺を信じて。ちゃんと守るから」


 必ず、ナナも納得できる形で、一緒に生きられる道を見つけよう。

 でなきゃ、ナナは陰で泣いたとしても、表には平気な顔を見せて身を引いてしまうだろう。俺たちにはそれぞれ、別の伴侶が必要なことは分かってる。でもサラの言葉を信じて、絶対にナナをもらうつもりだ。彼女に引け目や罪悪感を感じさせず求婚を受け入れてもらう。絶対に幸せにするから!


「……はい」

 それでも不安そうなナナの頭をポンポンとたたいた。

 ごめんな。もう少しだけ待って。

 絶対、君が頼れる男になるから。


「ま、今は買い物を楽しもうか」

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