第67話 SS 第53日本~54話サロンの裏 ウィルフレッド視点

日本で目覚めたウィルフレッドは……


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 蛇口をひねり、冷たい水を浴びる。

 ナナの祖母からシャワーの使い方は習ったが、今は頭を冷やしたかった。


 目が覚めると、自分がどこにいるのかさっぱりわからなかった。というより、自分が何者なのか、何が起こってここにいるのかが全く分からなかったのだ。

 あたりに注意を払いながらゆっくり起き上がる。

 体に痛みはなかった。

 小さいが、清潔で整えられた部屋だ。

 見たこともない調度品の中に、自分のマントとコートが丁寧にたたんで置いてある。


 そっと部屋を出てみると、むせかえるような暑さで驚いた。

 声が聞こえる。複数の女の声だ。


 身を隠しながら、扉のガラス部分から中をのぞくと、若い女が二人と年配の女が一人いた。三人とも見たことがない服装だ。――その中の一人が、突然上衣を脱がされた。

 その女の肌に目が釘付けになり、胸が痛いくらいに早鐘を打つ。

 透けるような白い肌だ。だが美しいその肌には似つかわしくない、たくさんの傷跡があった。まだ癒えたばかりの赤い傷や、白く見える古い傷が。


「ナナ……」


 自分の唇からこぼれた声に、一気に記憶がよみがえる。

 ナナが俺の盾になった。ナナが、目の前で血に染まっていく。

 なんてことを……。


 俺に気づいたらしい年配の女――ナナの祖母に促され、そっとドアを開けると、まっさきにナナは俺の名を呼んだ。だが、俺を直接見ないよう、視線を少しそらしている。


 嫌われている。瞬間的にそう思った。当たり前だ。

 なのになぜ君は俺の盾になった?

 なぜ何もなかったように優しくする?


 レシュールにつけられた傷など一つもない己の体を見る。

 俺の代わりにナナが傷ついた。

 俺の代わりにナナが血を流した。

「くそっ。何やってんだ、俺」

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