第204話ヨーコ
12月8日AM1:00
ピアノパブから4人で出てくる。
料金は55000円だった。どう計算しても合わないが、文句を言うのも面倒なので、そのまま払った。
客引きに支払う分を載せているのだろう。
新宿にしてはいい店だった。
六本木だと知り合いに会いそうで行きたくなかったのだ。
4人で靖国通り方向に歩く。
ステージで歌っていたヨーコは俺の腕に自分の腕を絡めている。
二階堂は女と肩を組んで俺達の前を歩く。
空腹だと言う彼女らの希望を聞いて焼肉屋に入った。
二階堂の女が焼きを仕切った。
2人の女は良く食べる。
俺は牛タンと冷麺を食べながら焼酎を飲んだ。
1時間程、他愛のない話をして焼肉屋を出る。
二階堂は連れの女とタクシーで消えた。
ヨーコが言う。
「どうする?」
「何処に住んでるんだ?」
「南台」
「方南通りか」
「良く知ってるね」
「部屋に行っていいか?」
「・・・何で私?若い子じゃなくて」
「褒めて欲しいのか?」
「うんと褒めて」
「部屋に行ってから褒めよう」
「散らかってるよ、部屋」
「散らかってる部屋も褒める」
タクシーでヨーコのアパートに着く。5階建の4階。酔った足に階段が辛い。2人で笑いながら階段を上がる。
ヨーコが言う。
「この前ね、仕事から帰ってきたら私の部屋のドアが開かないの。何回鍵を試しても開かなくて、しまいに頭に来てドアを蹴っ飛ばしたのね。私は酔ってたし。そしたらドアがスゥって開くの」
「誰かがいたのか?」
「そう、いたの、若い男。『何ですか』って言うのよ。私も言い返したの『ここで何やってるの。警察呼ぶわよ!』って」
「呼んだのか?」
「違うの。そしたらその若い男が『警察呼びたいのはこっちの方ですよ。ここ、3階だけど』って」
「ははは。それで、謝って自分の部屋までもう一階分階段を上がったと」
「そうしたかったんだけど、もう足に力が入らなくて、その若い男に部屋まで運んで貰ったの」
「親切な男でよかったな」
「うん」
4階のヨーコの部屋に入った。
女の部屋は『散らかってるのよ』と言っても、片付いている場合が多いが、ヨーコの部屋は本当に散らかっていた。
テーブルの上にはジャズのLP レコードが数枚置かれ、その上に柿ピーがばら蒔かれている。クリスマスツリーにはブラジャーが掛けられていた。
俺が言う。
「素晴らしい。散らかり方が芸術してる」
LPレコードのジャケットを持ち上げても、柿ピーのあられは落ちないでくっついている。
「褒めてくれてありがとう」
1DKのリビングに置かれたソファーに並んで座り、ヨーコが話を続ける。
「それでね、次の日に下の階に謝りに行ったの。何となく覚えてたから。そしたら彼が言うには、私が彼に命令してたらしいの。『上の階まで運べ』って。それで、部屋に入ったら『水!冷蔵庫の中』って指示して、その後は『下がってよろしい』って言ったんだって」
「災難だったな、彼に取っては」
ヨーコはアクビを噛み殺す。
「そうね・・・ごめん、私眠い。飲み過ぎたかも」
「いいよ。ゆっくり眠りな」
ヨーコにベッドまで付き添った。
上着を脱いで横になると、直ぐに寝息が聞こえてくる。
1人でヨーコの部屋を出た。ダイニングテーブルの上にメモを残す。
『鍵はドアの郵便受け』
『笠井ヨーコか・・いい女だ。大事にしよう』
1人で呟いて方南通りを新宿方向に歩く。
タクシーを拾おうかと思ったが、道の説明も面倒なので飛び上がった。
松涛の家までは直線で3キロ少々だ。直ぐに自宅の真上に来て庭に着地する。
驚いたパオが吠えるが、俺だと分かると、申し訳無さそうに尻尾を振って身体を擦り付けて来る。
自分の寝室に入りベッドに潜り込む。
ヨーコが歌っている夢を見た。
客席には俺しかいない。
ヨーコは俺だけを見て歌っていた。
ヨーコとベッドにいる。
38歳のわりにオッパイには弾力が有り、十分なボリュームがある。触っていて気持ちいい。
「おじさん」
聞き覚えの有る声。
目を開けると綾香の顔。綾香のオッパイを触っていた。
「綾香か・・・」
「ちょっと、誰だと思ってたの?」
誤魔化してベッドから出る。
時計を見ると朝8時だ。
「腹へったな」
マキが部屋に入ってくる。
綾香がマキに言う。
「今、起こしたの。朝ごはん行こ」
2人して部屋を出て行った。
ダイニングテーブルに着く。
今日は娘達と同じトーストとハムエッグだ。玉子は半熟にと幸恵に頼む。
バターを塗ったトーストの上に半熟玉子のハムエッグを乗せる。
黄身の部分に小さな穴を開け醤油を少し垂らす。
黄身の部分まで口が届く様に、大きく噛る・・・旨い。
ハムエッグトーストを2枚食べて、テーブルに載っていたバナナを1本食べて朝食を終えた。
コーヒーを持ってリビングのテレビ前のソファーに座る。
テレビニュースを眺める。
百済県(くだらけん)の事以外にもニュースが流れるが、企業絡みの民放のニュースは疑ってかかる。
スポンサーに気遣って作ったニュース等、何の価値も無い。それは新聞も同じだ。
CNN は24時間ニュースを放送している。テレビニュースではBBCかCNN が、まだまともに思えた。
ニュースで得られない確実な情報は二階堂が持ってくる。
ヨーロッパからアジアに掛けて、紛争などの問題に、未だにアメリカが多く関わっている。
まぁ、頑張ってくれ。
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