第198話朝鮮人民軍偵察総局
12月5日木曜日AM11:30
護衛艦『あたご』に降りたって、青いスーツの上半身を脱ぎながらブリッジに向かう。
途中で会った乗員が敬礼してくる。
ブリッジでは艦長の小城と二階堂が俺を迎えた。
二階堂に言う。
「早いな」
「総理官邸から直で飛んで来ましたから」
「状況は?」
「最悪です。事件を知ったテレビ局のヘリが撃ち落とされました」
「そんな武器を持ち込んでたのか」
「携帯式地対空ミサイルの9K32 だと思います。大きめのバックに入りますから」
「そんなのがあるのか」
「そのミサイルで民間ジェット機が撃墜された事も有ります」
「犯人達は北じゃなくて韓国人なのか?」
「まだ、分かりません。両替額の引き上げ要求は見せかけで、北が動いているのかも知れません。地対空ミサイルまで用意しているとなると、北の特殊部隊である偵察総局(朝鮮人民軍偵察総局)の可能性も有ります。或いは韓国特殊戦旅団のSeals の過激派か」
俺の頭の中に『テロ』の文字が浮かんだ。
二階堂に聞く。
「北にしろ南にしろ、日本に対してテロの対象になるのは他には何処だ?」
二階堂の顔が険しくなる。
「中本さん・・・原発です」
「ハイジャックに目を惹き付けて、その間に原発が狙われるかも知れない」
二階堂は総理官邸に連絡し、原発の警備を厳重にするように指示した。
その時、海上自衛隊の舞鶴基地から東側僅か10数キロの高浜原発が、既に北朝鮮の特殊部隊である偵察総局の兵士40人に占拠されていた。
原発職員15人が拘束され一室に監禁されている。
護衛艦『あたご』のブリッジでハイジャックされた観光船『レインボージェット』の位置を確認する。
二階堂と小城に言う。
「取り敢えずこれを片付けないとな」
甲板のMCH-101ヘリコプターに5億円が入ったプラスチックケースと共に乗り込む。乗員は操縦士1人だけだ。
爆音を上げて離陸する。
上空500メートルまで上昇した時に操縦士が振り返って俺を見る。
SBU隊員の長谷川だった。
大声で言う。
「お前が操縦してるのか!」
聞こえない様でヘッドセットを俺に渡す。頭に装着して言う。
「またお前か!」
「怒鳴らなくても大丈夫です。俺が志願したんです」
「地対空ミサイルを持ってる相手だぞ」
「大丈夫です。撃ち落とされても中本さんが居ますから」
「責任持てねーぞ・・・あとどれ位で追い付く?」
「30分です」
「そうか。ケースを投下したら直ぐに逃げろよ」
「分かりました。一緒に乗り込みたい所ですけど」
「俺に任せとけ」
30分後に『レインボージェット』が目視出来る。高度500メートルから船の進行方向前方にパラシュートを付けたケースを投下した。
操縦席に行き、長谷川に言う。
「それじゃ、後で『あたご』でな」
MCH-101ヘリから飛び出た。
連中が注目しているケースとは反対の、船の後部から近づき、屋根に静かに降りた。
船の狭い前甲板には携帯ミサイルを持った男と、マシンガンを背中に背負ってフックの付いた長い棒を持った男が落ちて来るケースを見つめている。
屋根から船の中を透視する。マシンガンを持った男が2人。乗客は上部の客席にまとまっている。
操舵室には船長と拳銃を持った男。
見る限りでは犯人は5人だ。
船のスピードが落ちる。
前方を見ると、甲板の1人が海面からケースを引き揚げている。
客席の2人の犯人を念力で止めて、客席横の窓から中に入る。
人差し指を口に当てて乗客に見せると数人が頷く。
マシンガンを床に置き2人を縛り上げた。海面からケースを拾い上げた2人が戻ってくる足音がする。
船の、エンジン音が高くなり再び走り出す。
2人が何か話ながら階段を上って来る。光の玉で片付けようと構えた時、背中に連続した衝撃を受ける。マシンガンの乾いた発砲音が響く。
3秒で銃撃は終わった。弾倉の弾を撃ち尽くしたようだ。
振り返ると、乗客に紛れていた女がマシンガンを俺に向けていた。
軽く光の玉で寝て貰う。
階段下から韓国語で叫ぶ声。
透視すると2人共、マシンガンを構えている。念力で動きを止める。
ミサイルとマシンガンを取り上げて縛り上げる。上の客席に連れて上がり、縛った4人を並べる。
日本語と英語で聞く。
「偵察総局か?」
4人とも上目遣いで俺を見て笑う。
「金正恩万歳!」
次の瞬間、全員が口から血を流した。
舌を噛みきったようだ。
口から血を流しながら笑っている。不気味な連中だ。
乗客に扮していた女を担いで操舵室に向かう。舌を噛みきられない様に猿轡を噛ませた。
操舵室に入る手前で、中から銃撃を受ける。念力で心臓を止めてやる。
どうせ何も喋らない。
船長に隠岐の島に向かって戻るように告げた。
担いでいる女を見ると、若くていい女だった。機関室にほうり込んで客室に戻る。乗客と乗員に安全を告げて、下の客室に移動させた。
金の入ったケースを持って機関室に行く。女を裸にした時に意識が戻る。
叫ぼうとするが猿轡で上手く声が出ない。機関室の騒音の中で、裸の女とやることは一つだ。
かかとで俺の背中を蹴るが、お構い無しだ。
事が終わると、自分で猿轡を外し、俺を睨みながら服を着た。
突然、手近に有った大きなモンキーレンチを握って殴り掛かって来た。
光の玉を受けた女は、後ろの壁まで飛んで息絶えた。
どうせ、この女を生かしておいても何も言わない。
6人の北朝鮮特殊部隊、偵察総局の処理が終わった。
二階堂に電話する。
「終わったよ。犠牲者無し。北のテロリスト6人は死んだよ。今、隠岐の島に向かってる」
「分かりました。現金のケースとミサイルの残りが有ったら『あたご』に持ってきて下さい。次は原発です」
「人使い荒いな。この5億円は俺のギャラって事でな。総理に言っておいて」
5億円が入った50キロを越えるケースと携帯ミサイル2基を持って『あたご』へと飛んだ。
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