第97話 カナダ・オタワの女

ホワイトハウスから飛び立って北東に向かう。せっかく、ここまで来たのでニューヨークを見て行きたい。ワシントンから約400km強。高度1000メートル程で景色を見ながら飛ぶ。30分も飛ぶと海が見えて来る。右下にローワー湾だ。真下にスタテンアイランド。スタテン島を超えるとアッパー湾。高度を500メートルに下げる。左下に自由の女神。その先はマンハッタンだ。見覚えのあるビル。エンパイア・ステートビルディング。ビルの屋上に着陸。飛行服の上着を脱ぎ、腰に巻く。展望台を一周。観光客が多い。空から見ている方が面白いので、すぐに離陸。フィフスアベニュー上空を北東に。セントラルパークだ。パーク内の動物園横の林に着陸。道路を渡り、北側の公園に移る。ジョギングに励む人がいる。黒のTシャツに水色のツナギのパンツで歩いても、それ程不自然ではない。東京の代々木公園と大して変わらないが、映画でよく見た公園なので、感慨深い。観光客丸出しでキョロキョロと周りを見回しながら歩く。首にはオリンパス。所々で写真を撮る。ふいに2人の男が俺の前に立ち塞がる。人気のない場所だ。1人は黒人。もう1人はナイフを持ったヒスパニック系。若い・・・20歳前後。

「いいカメラだね」

「ありがとう。防水のオリンパスだよ」

「金持ってるか?」

「持ってるけど、やらないよ」

「金を出せ!・・・カメラも寄越せ」

ナイフを俺の目に前に突き出す。念力・・・男が、相棒の黒人の脚にナイフを突き刺さす。血まみれのナイフを自分の顔の前に持ち震えている。ゆっくりと自分の太股に突き刺す。 

路上でもがく2人の男を後にする。


噴水のある場所に出る。散歩中の犬が、尻尾を振って近づいてくる。黒のラブラドール・レトリーバーと柴犬のような日本犬。飼い主の、俺と同年代の男性が笑いかける。

 俺が聞く。

「これはシバ?」

「そうだよ。日本の犬でシバだよ・・・今、シバを飼うのが流行ってる。可愛いだろ」

「俺も日本から来てる。俺は可愛くないけど」

2人で笑う。ラブが飛びついてきて顔を舐められる。

しばらく犬達と遊ぶ。


セントラルパークを飛び立った。オタワに向かう。ホテルの自分の部屋に到着。午後1時だ。腹が減っている。着替えを済まし、ホテルの外に出る。正面の通り、ライドーストリートを左に。すぐ左側のマイルストーンというレストランに入る。ハンバーガーとサラダ。ビールを注文する。ハンバーガーが旨い。ビールを2本飲み、会計。米ドルで35ドル・・・結構高いな。ファミレス程度の店なのに。今の日本の物価が安すぎるのだ。

レストランを出て街を散歩。清潔過ぎて俺には合わない街だ。

ホテルの部屋に帰る。部屋の清掃は終わっており、ミニバーに飲み物が補充されていた。昨日のタクシーの運転手がくれた名刺を見つけ電話する。

「夜遊びできる場所、知ってるか?」

「任せとけ・・・女か?」

話が早い。午後8時に迎えに来る事になる。

時間を持て余す。まだ2時半だ。せっかくオタワにいるのだから散歩だ。

ホテルから出て、ハンバーガーを食べたレストランとの間の道を北に歩く。10分も歩くと、ガラス張りのような、カナダ国立美術館が有る。建物を見て満足してしまった。美術館の前のマレーストリートを西に歩く。橋が掛かっている。オタワ川に掛かる、アレクサンドリア橋。橋の手前右側が高い展望台の様になっている。橋を歩く。振り返ると展望台の上に銅像が立っている。橋の中ほどまで来た。風が気持ちいい。橋の上から、景色を見る。ついさっきまで、トランプ大統領と話をしていたのが嘘のようだ。酔いが覚めてしまった。

ホテルに戻る。ミニバーからビールとピーナツを取ってソファーに座りくつろぐ。テレビで映画を見ながら飲む。

衛星電話が鳴っている。二階堂だ。

「凄いですね、中本さん。地位協定をひっくり返しましたね」

「もう、敵さん動いてますか」

「明日、東京で日米地位協定改正の署名が行われます。あさっては全米軍基地に警察の査察が入ります・・・信じられません!何の交換条件も無しに・・・安倍総理も驚いています」

「良かったです。思い切って行動して」

「何をやったんですか?」

「まあ、詳しい事は帰ってからで」

「今はどこですか?」

「カナダのオタワです」

「帰りはいつですか?」

「あっ・・・まだチケット買って無かったです」

電話を切り、チケットを調べる。来た時と同じでバンクーバー経由だ。明日の朝9時発のバンクーバー行きに乗らなくてはならない。629000円。いい値段だ。

二階堂に電話。3日の16時25分に成田に着くと言う。空港まで迎えに来るらしい。

成田までタクシーを使って来てよかった。

午後6時。腹が減る。ホテルのレストランで食事。ステーキを1ポンドとスモークサーモン。サラダと共に完食する。ジジイの大食いにウェイターが『グレイト』と言う。

午後8時。タクシーが迎えに来る。行き先はホテルから近いらしい。中国語の看板が多くなる。チャイナタウンだ。それを過ぎると何やら読めない看板が出て来る。運転手が車を停める。彼に案内されて細い路地を歩く。ここは何だと聞くとベトナム人街だと言う。

一軒の食堂の2階に上がる。薄暗い部屋。誰かが電気を点ける。暗い中に女が3人いたのに驚く。奥のドアから、女達が次々と出て来る。全部で15人位か。運転手が言う。

「気に入った子がいれば連れて帰れる」

女の顔を見る。全部ベトナム人のようだ。

「ベトナムじゃなくてカナダ人の女はいないのか?」

建物を出る。運転手は最初にカナダ人の女と言ってくれればと言う。

次に連れて行かれた先はカジノ。外人客が多い。ヨーロッパ系、アラブ系、中国人も多い。日本人らしき人はいない。運転手が言う。

「セクシーな服を着てるのは売春婦だから、気に入ったのがいれば俺が声を掛けてやる」

「大丈夫。自分で声を掛けるから。チップは渡すから心配するな」

所々に客を物色しているらしき女が見つかるが、今ひとつ。

ブラックジャックのテーブルを遠目で見る女。獲物を探しているのか。革のミニスカートにショートブーツ。白いレースのブラウス。黒のブラが透けている。金髪だが、多分染めているんだろう。背は俺と同じ位か。細身で足が綺麗だ。歳は分からない。若くも見えるし30近いかもしれない。

女が俺の視線に気づく。俺を観察する。足元から顔まで・・・微笑む。

俺も笑いかけると近づいて来て言う。

「調子どう?」

小顔の美人。ソバカスが有る。近くで見ると若い。

「まあまあだ。時間ある?」

「あなた次第・・・ホテルどこ?」

「シャトーローリエ」

「フェアモントね・・・いくら?」


タクシーでホテルに帰る。運転手には100ドル渡す。

ドアマンがニヤッと笑うが、気にしない。

部屋に入ると女がキスしてくる。

「凄い部屋。このホテルに来たことあるけど、全然違う」

「冷蔵庫に飲み物が入ってるから好きなの飲んでいいよ」

女はペリエを出し、一口飲む。

「ねえ、先払いでお願い」

「後だ」

「何で?物を買うときは先に払うでしょ?」

「レストランでは食べた後に払う・・・俺が金を持って無いと思うのか?」

「分かった。後でいいけど、約束よ」

「心配するな」

シャワーを一緒に浴びる。見た目よりもオッパイが大きい。

「歳、いくつなんだ?」

「19。大学生」

ジュニアが反応してしまう。

 女の声がバスルームに響く。数分後、力が抜けた女が床に座り込む。タオルで身体を拭かせ、ベッドに移動する。ベッドが軋むほど責め立てた。


ベッドから起き上がり冷蔵庫からビールを出す。1本飲み終わる頃に女が目を覚ます。

ベッドにうつ伏せになり、ソファーに座る俺を見る。

「日本人・・・だよね?」

「そうだよ。初めてか?」

「初めて・・・・凄いね」

笑い顔が可愛い。バスルームに消える。

シャワーを終えて出てきた女が俺の顔をじっと見る。

「朝まで、いていい?」

「構わないけど、追加料金か?」

「そうじゃないの。十分。家が遠いから寝ていきたいの」

「学校は?」

「明日は午後から」

「寝て行っても構わないけど、明日は7時にホテルをチェックアウトするよ」

「大丈夫。アリガトウ」

女がお腹が空いたと言う。俺もだ。ルームサービスで、俺はサンドウィッチとサラダ。彼女はパスタを注文する。俺の事を聞かれる。仕事で来て、2泊してすぐに日本に帰ると言う。彼女は日本に咲く桜の花を見たいと言った。オタワでも桜を見る事が出来るが、テレビで見た、日本の桜並木の下を歩きたいそうだ。大学では建築を専攻しており、3DのCADの使いこなしに苦労していると言う。俺には全く分からない。

食事が終わって、当然もう一回戦だ。彼女が上になる。下から見上げる19歳のカナダの女子大生もいいもんだ。


7月2日

朝6時に起きる。レストランに行き、女と軽く朝食を摂る。シャワーを浴びてから帰りたいと言って、女はバスルームに入って行った。7時にはホテルから出たい。あと20分。なるようになるさ。俺もバスルームに入り女を抱く。


身支度が整った。7時10分。フロントにチェックアウトと電話する。俺達が部屋を出るのと同時に部屋係りが来た。フロントで清算する。デポジットの500ドルでは足りなかったらしい。追加で200ドル支払う。女とタクシーに乗る。空港に行く途中で降ろしてくれと言われていた。タクシーの中で財布を見る。紙幣が厚み十分に残っている。100ドル札を半分くらい取り出す。女に言う。

「何枚あるか数えてくれるか?」

紙幣を数える女・・・下手糞な数え方。時間をかけて数え終わった。

「35枚。凄いね3500ドル」

「楽しかったよ。オタワのいい思い出だ」

キョトンとする女。手にしている35枚の100ドル紙幣を見つめている。

腕に抱き着いてくる。空港の少し手前で女は車を降りた。


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