第29話 脱出 2

マカティ上空から繁華街を見下ろす。

東京の六本木と渋谷と大手町と山谷を合わせた様な街だ。

山谷が入ってくるのは、ホテルや近代的なオフィスビルの、すぐ裏手にスラム街が有ったりするのだ。

まさに『フィリピンの光と影』


3人を乗せた空飛ぶテーブルが『シャングリラホテル』の前にある公園『グロリエッタバーク』に着陸する。殆ど駐車場のような場所なので、それほど人目にはつかない。

見た人がいても、目の錯覚だと思うだろう。思ってほしい。 


グロリエッタバークに隣接する靴屋で履き物を買い、ショッピングモールで服を買う。

又しても、レストランFRIDAYを見つけ、4人でスペアリブを手づかみで食べる。30代の2人のアメリカ男と美女と俺。

奇妙な取り合わせの遅めのランチ。

全員が顔に傷。目立つよな。

イザベルはマークに電話し、暗号で何かやり取りする。

食事が終わり、現金を詰めたバックから自己申告で奪われた分を取り戻す。

残りのペソとアメリカドルは4人で等分に分けた。中国元は彼らがマークに持っていく。

イザベルは俺からの70万ペソを取り戻せた。さらに等分に分けた30万ペソと2万ドルを手にした。大金だ。イザベルの手には全部ペソにすると、約200万ペソが入った。


俺とイザベルはマニラのコンドミニアムに戻ってみる。彼らはカビテとは別のセーフハウスに向かう。


タクシーでコンドミニアムに戻る。

部屋に入る時、イザベルは中国人から取り戻した銃(グロック17)を構えている。


部屋はそれほど荒らされてはいない。

俺のリモアのスーツケースは無くなっていたが、大事な物は取り返してある。


ソファーに座る。

シャワーを浴び終わったイザベルがバックに入れていた金を取り出し始める。

俺はシャワー。

出てくると、俺の分の金、35万ペソと2万ドル、それと80万円がテーブルがテーブルに置いてある。

自分の分の100万ペソと2万ドルも横に置き、俺の隣に座る。

「凄いね。お母さんに家を建ててあげられる」

遠くを見るような目。

その為に、自分はどれだけの犠牲を払っているんだ・・・

イザベルの肩に手をまわしキスする。

「私が何をされたか、見てたでしょ?・・・」

「覚えてない・・・」

イザベルを抱きかかえベッドに運んだ。


マニラ湾からの夕日が、部屋に深く差し込むまで抱きあった。

これが最初で最後。そんな気がしていた。


目が覚めると夜。

時計・・・9時。

よく寝てしまった。

部屋の明かりを点ける。

隣に手を伸ばすが誰もいない。

「イザベル!」

返事が無い。

リビングに出る。

テーブルには俺の分の札束がそのまま。

イザベルの分は無い。彼女のバックも無い。

クローゼットを開ける。

彼女の服はそのままだが、大事な物は何も残っていないようだ。もちろん銃も無い。


クローゼットに残っていたイザベルのショルダーバッグに、金と大事な物を全部入れて部屋を出た。

駐車場に降りる。

イザベルの車も無い。

もう一度会いたい、抱きたい・・・


駐車場のスロープを歩き地上に向かう。

いきなり、何かにつまづき転んだ。

排水溝の蓋だった。

後ろから走ってきたヒュンダイにクラクションを鳴らされる。

運転手が窓から何か叫んだ・・・韓国人。


よろよろと起き上がり、手を見る。

転んだ時に手を着いたからか、血が滲んでいる。


腹が減った。


スマホがポケットで震える。

日本からの電話。

「はい」

「河野です」

海上自衛隊、海将の河野だ。

「見事な活躍でした。アメリカさんも満足のようです・・・お疲れさまでした。あと2日はそちらに残って下さい。何が有ったら連絡がいきます」

「2泊して、何も連絡が無かったら日本に戻ってもいいと言うことですね?」

「そうです。電話は常に持ち歩いて下さい」「分かりました」


アドリアティコ通りを歩く。パンパシフィックホテルの向こう側に、焼き肉屋。

『アメリカ和牛』の張り紙。笑える。

思わず入ってしまった。


凍ったままの『アメリカ和牛』をグリルにのせる。

「あと2日か・・・」


焼き肉屋を出て右に歩くと、すぐにエリの働いているKTVだ。


白のミニのワンピース。太股を触っていてもイザベルが頭から離れない。

店が終わったら連絡をくれと言い残し、1時間で店を出る。2000ペソを置いてきた。


タクシーを止める。

「カビテまで行けるか?」

マニラのタクシーは遠くに行きたがらない。帰りの客が捕まえられないからだ。

「いくら払う?」

決まり文句。

「2時間チャーターで、2000ペソ払おう」

運転手の笑顔。こいつも前歯が一本化抜けている。


カビテのCIA セーフハウスには誰も居なかった。待たせていたタクシーでマニラに戻る。

頭からイザベルの顔を背し去ろうと努める。先程の、焼き肉屋の隣のパンパシフィックホテルにチェックインする。

高層階のいい部屋だ。ここしか空いていないと言われた。2泊で約34000ペソ。


午前1時。エリからの電話。

客が居なくなったの店は早終いだ、

何か食べに行こうと言われた。


混みあった店内。道路に面してプラスチックのテーブルや椅子が所狭しと置いてある。

バーベキューの煙があがる。

エリの店から歩いて5分。

俺のテーブルにはエリ以外に女の子が5人。

メシをたかろうと言うわけだ。

20本くらいの焼き鳥のような串に刺したポークバーベキューとスーブ、ルンピアと呼ばれる揚げ春巻き、ごはん。ビールにコーラ。

みんな腹が減っている。

殆どが地方からの出稼ぎで、親に仕送りをしている。運が良ければ外人の男を捕まえられる。

どんどん食べて飲んでくれ!


ホテルにエリと戻ったのは午前4時。

一戦交えて外を見ると朝だった。


午後3時。

ホテルのプール。小さいが快適だ。

ジャグジーにエリと浸かりながらスイカシェイクを飲む。


エリを引き寄せ、膝にのせる。

周りに誰もいないのを確認し、エリのワンピースの水着の股の部分を横にずらし、挿入する。エリは声を押さえるのに必死だ。ジャグジーの縁を握りしめる。

ジャグジーの水泡が2人の動きを多少は隠してくれる。


出勤時間が近くなり、店で待ってると言ってエリは部屋から出ていく。

10000ペソを渡すと、目を丸くしていた。


2日間が、あっという間にエリと過ぎた。

何も仕事の連絡は無かった。

やっと、日本に帰れる。














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