第26話 カジノ

フードコートでの食事後、一度部屋に戻り、イザベルを残して両替に出た。

フィリピンペソの残りが9000ペソしかない。


マビニ通り沿いの両替屋『エドゼン』。

両替レートうんぬんよりも、誤魔化される事がないのが安心だ。

いろいろな所に両替商があるが、未だに危ない所も多い。

10万円を両替した。47200ペソ。

よしよし、合計で56000ぺソ。

イザベルに電話で『マッサージに行くから、何か有ったら連絡してくれ』と告げる。


女を拾って遊ぼうかと考えていたが、時間が早いので無理はやめた。


マビニ通り沿いのニューワールドホテルにあるカジノに行く。

夕方の時間は暇をもて余している人が沢山だ。

ちょっと自分の力を試してみたくなったのだ。

ブラックジャックは何枚ものカードを加減して透視しなければならないので面倒だ。

ポーカーは相手が怒りそうだし。

ルーレットは玉を追っていると目が回りそうだ。

スロットマシンの並ぶエリアに移動した。

台によって大当たりの絵柄も違えば配当も違う。投入するコインの額(賭け金)も違う。

一番シンプルに思えた『7』が3つ揃えば大当たりの台の前に座る。10ペソの台。

一度に10ペソから50ペソまで賭けられる。

50ペソだと、真ん中に絵柄が揃わなくても上下のラインでも斜めでも当たりとなる。

500ペソ札を投入し、5回タップする。50ペソだ。

スタートボタンを押すと3つのリールの絵柄が回転する。

それぞれのリールの下のボタンを押してリールを止める。

すぐに投入した500ペソは無くなったが、下の受け皿に10数枚のコインが出てきている。

コインを5枚投入し、スタートボタンを押す。リールが回り始める。

左のリールのボタンを押す。

3列の表示窓の上側に『7』が止まった。

真ん中のリールボタンを押す。

下側に『7』が止まる。

動かしてしまえ・・・

『7』を真ん中のラインに動かす。

最後のリール。

ボタンを押すと『7』が上のラインに留まる・・『7』が下のラインに来るまでリールを動かす。念力。

左上から右下へ『7』が直線に揃った。

途端にサイレンの様な音が響き、台の上に付いてある回転灯がぐるぐる回る。

目の前の表示には

JACKPOT CALL ATTENDANT

と表示される。

後ろの列の台にいたフィリピン人のオバサンが俺の後ろに立って興奮している。

台の列の上には大きな電光表示があり、当選金を表示している。

約80万ペソの大当たりだ。

ジャックポットで80万ペソ・・・ショボイ。

日本円で170万ちょっと。まあいいか。

キツネ顔の係員が直ぐに来て、台のナンバーを書いた札を俺に渡す。台に何かの処置をして、俺に着いてこいと言う。簡単な事務所の様なスペースに机とテーブルがあり、そこに座る。

キツネがズルそうな目付きで

『アー ユー ア ジャパニーズ?」

「イエス・・・」

続いて説明をし、俺が理解しているかと反応を待つ。

日本人だから言葉が分からないと思っているのか。

結局、税金を払ったり、面倒な書類を書く代わりに、自分に手数料を渡せば俺達二人とも幸せだと言っている。

10%を渡せばいいと言う。

自分の連絡先や名前を書くのも嫌なので承諾した。

一度、部屋から出ていったキツネが1000ペソ札の束を8個と書類を一枚持ってきた。

一番下にサインしろと言う。

『おまえがサインしとけ』と言い、1000ペソ札の束の一つから20枚を抜き、残りをキツネの前に置いた。


札束用にホテルのビニール袋をくれた。

部屋に戻るとイザベルがソファーから俺に聞く。

「マッサージ、長かったね」 

「カジノに行ってた。連絡は?」

「まだありません。カジノ勝った?」

テーブルの上に、持って帰ったビニール袋を置く。イザベルが袋の中を見る。札束を取り出してテーブルに置く。

「凄いね・・・ズルい事したでしょ?」

「神様が助けてくれただけだよ」

1000ペソの札束が7つと20枚。

バラの1000ペソ札20枚を取り、残りの札束7つをイザベルの前に寄せる。70万ペソ。

「あげる」

イザベルは『えっ!』と言ったきりフリーズしている。


まあまあの高給取りのイザベルにしても大金だ。

彼女の給料が月に35000ペソだと聞いていた。

セブの田舎に住む家族に給料の半分を仕送りしている。家族の生活費の足しと、弟と妹の学費なんだと言っていた。CIA のエージェントとして働いているので家賃は掛からずに助かっているとも。

35000ペソと言えば8万円弱だ。ケチなCIA にも腹がたつ。ソープに一回行けば終わりだ。


フリーズしているイザベルをそのままにして、寝室に入り自分の所持金を確認する。

全部で76000ペソと80万円・・・安心。


和食レストラン『たなべ』

座敷にイザベルと並んで座っている。


アドリアティコ通りを南に行くと、左側に丸い広場があり、レメデイオスサークルと呼ばれている。周りを一周している道路に面して『たなべ』がある。

歩いても10分位だが、危険を避けると言うよりも、エリの店の前を歩くのが嫌だったので、自転車にサイドカーを付けた『ペディキャブ』と呼ばれる乗り物を使った。

運転手は渋滞のアドリアティコを曲芸のように車をかわしながら走った。

100ペソを渡すと『サンキュー サー』と言って真っ黒な顔が笑顔になる。2人で50ペソでも十分なのだ。


目の前のテーブルに、俺には刺身の盛り合わせ。イザベルには牛の鉄板焼が並んでいる。

俺の前にはビールのジョッキ。イザベルはマンゴーシェイク。

たまにイザベルの腰に手をまわしたり、スカートから覗いている太股に手を置いても悪い反応はない。

2人でイチャついているのを、座敷の斜め前の日本人4人組の男達が、チラチラと見る。

日本企業のマニラ駐在員だろう。

彼らが金で買う女とイザベルを比べると『雲泥の差』『月とスッポン』だ。


しかし、俺達はCIA エージェントと『傭兵』だ。鼻の下を伸ばしてばかりはいられない。でも、イザベルの太股から手が離せない。


『たなべ』の支払い、約4000ペソ也。


部屋に戻る。

順番に歯を磨きシャワーを浴びる。

今日はベッドで寝られるか・・・と、思いきや『おやすみ』と一言を残して寝室のドアはロックされた。














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