第24話 襲撃

キッチンからの音で目が覚める。

ソファーから首をもたげるとイザベルのうしろ姿。

黒の膝上丈のスパッツとタンクトップ。

足から尻にかけてのラインが理想的だ。

そっと立ち上がりイザベルの後ろから抱きつく・・・腹に強烈なヒジ打ち。

息が出来ない。ソファーに倒れこむ。

無言の朝食。

コーヒーが苦い。


キアポ教会に出かける。イザベルの言いなりだ。

チャイナタウンのすぐ隣なので嫌な予感。

Grab タクシー。駐車するのが難しい場所へは自分の車は使わないのだ。

昨日行ったリサール公園を横目に通りすぎ、橋を渡るとすぐ左側に教会だ。右側通行の為に車を降り、歩道橋を渡って教会へ行く。


教会の前には露天が並び、平日だと言うのに大変な人混みだ。

教会に入り、ずらりと並んでいる木製の長椅子に空きを見つけ、並んで座る。


俺が教会の中を見回していると、イザベルの隣に老婆が座り、彼女に何かを渡す。

他のエージェントとの定期連絡らしい。

イザベルがそれをジーパンのポケットに入れたのを確認し、老婆は立ち去った。

イザベルは胸の前で十字を切り、俺の手を引いて立ち上がった。

手を引かれたまま教会から出る。

露天でマンゴーとオレンジを買う。

教会に来た仲の良いカップル。


イザベルがスマホでGrabタクシーを呼ぶ。

道路側に出ようとした時だ。おれの左側にいたイザベルの、すぐ斜め左前方からナイフを持った男が突進してくる。イザベルを左手で引きながら俺は男の前に出た。右手は荷物で塞がっていたのだ。

男のナイフが俺の腹にあたる。

ただ、あたる。

ナイフは曲がっていた。

左の拳を男のアゴへ。男は3メートル程飛んで露天に落下し、破壊した。

露天主の女が怒り、男の顔をホウキで叩く。


さらに3人の暴漢が俺達を襲った。3人ともナイフだ。イザベルは左手を浅く切られたが、最後は男の股間を蹴り上げて悶絶させる。痛そうだ。

残りの2人は俺のパンチで倒れた。

東洋系の顔だ。中国人か。

面倒なことになりそうなので、その場を立ち去る。

「結構強いじゃない。ミスター ナカモト」


部屋に戻るとイザベルは寝室に入りドアを閉じ、電話をしている。

部屋から出てきたイザベルの両手には拳銃(グロック17)が握られていた。

弾装に9ミリ弾が17発装填出来る、CIA で主流の銃だ。

俺に一丁を差し出すが首をふって受け取らない。イザベルは特に押し付ける訳でもなく銃と予備の弾装をバックにしまった。


俺のTシャツに穴が開いているのを見つける。

『刺されたの?」

「刺さってない」

変な会話だ。

俺の腹に当たったナイフは、刺さらずに弾かれて横に流れたのだろう。シャツが10cm 位切れている。


シャツを着替えさせられ、エレベーターで駐車場に降りる。イザベルは銃の入ったバックを持っている。


イザベルのトヨタ・イノーバは南に向かって走った。片側3車線のロハス通りをジグザグに他の車をかわしながら飛ばす。

コスタルの交差点を過ぎ、有料道路にはいると更にスピードを上げる。カビテに向かっている。

すぐに右側に海が見えてくる。

イザベルがバックミラーを見て舌打ちする。

黒のフォード・エクスプローラが並ぶ。

窓から銃を出している。中国人だ。

イザベルがアクセルを床まで踏み込む。

前を走る車をギリギリでかわしながら逃げる。

このままではキリがない。

俺は助手席の窓を全開に開けてイザベルに叫ぶ。

「スピードを落とせ!」

エクスプローラが並んでくる。

銃弾がイノーバの車体に当たる。

窓から飛び出した。

イザベルが声を上げる。

エクスプローラのボンネットに飛び移り、フロントガラスを突き破って運転手の顔に蹴りを入れる。

車内からは二丁の拳銃で俺を撃ってくる。破壊されたフロントガラスから車内に顔を入れる。

男達は目を剥いた。

「ニイハオ」

挨拶してやった。

車の外にでて、屋根を掴み、エクスプローラを道路の右側に放り投げ、俺はイノーバの助手席に戻った。

エクスプローラは弧を描くように側壁を越え、海へと落ちていった。

イザベルが目を見開いて俺を見ている。

「ウォッチ アウト!」

イザベルが前方に視線を戻しブレーキを掛け、追突を免れる。


路肩にイノーバを停めて、改めて俺を見る。

おれのTシャツが穴だらけだ。

イザベルが、笑い出す。

「そういうこと?・・・信じられないけど」

俺の肩に手を置いて、更に笑い続ける。

「あなたは超人だって聞いてたけど・・・(笑う)本当にスゴイ・・・ 」

おれの穴の開いたTシャツをめくって笑う。

「そういうことだ・・」

突然、イザベルの唇が俺の口を塞いだ。

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