第9話 超人誕生?

「ガガガガ・・・!」

道路工事の音で目が覚めた。

腰が痛い。

安物のベッドから起き上がり、冷蔵庫から牛乳を取り出す。

テーブルに置いてあったパンを牛乳と一緒に胃に流し込む。

空腹が収まると腰の痛みも無くなる。


超人的な力を得ているが、空腹になると普通の59歳になってしまうのが分かっていた。

腹が減っていない時に出来ることは

☆ばか力

☆飛行

☆光の玉を撃てる

☆瞬間移動に近い様なスピードでの移動

☆透視

☆遠視(1km先の新聞を読める)

☆強靭な肉体(銃弾や刃物にも耐える)


フィリピンからの帰国便変更がうまく行き、日本に帰ってから2日が過ぎた。その2日である程度の自分の能力が分かった。


ここは東京都足立区の綾瀬駅から徒歩8分の安アパートだ。1DK で家賃は5万円。1人暮らしには十分だ。


テレビをつけニュースを見る。

フィリピン・パラワン島。エルニドの事件が流れている。

エルニドに逃げ帰ってからの人民軍の襲撃で、日本人ファミリーの母親、息子、アメリカ人女性が殺されていたのが分かった。

生き残ったのはアメリカ人のジョンと日本人ファミリーの娘だ。名前は戸田綾香。

15歳で家族を無くしてしまった悲しみは想像を絶するものだろう。


今日は自分の能力を、きちんと確かめなくては。

昨日は透視が出来ることが嬉しくて、人混みで女の裸ばかりを眺めていた。


4月になって外出も苦にならなくなっていた。寒さは苦手だ。

電車に乗り、上野に向かう。

バイク用品店で黒の革のスーツを買った。高速で飛ぶと普通の服では破けてしまうからだ。スーツに合ったブーツも買った。何れも普及品だ。

高級品には手が出せない。それでも合計8万円。


支出は痛かったが、これで全身真っ黒で、飛んでいても目立たないで済む。


スーツの入った紙袋を抱えて電車に乗る。若い女の子がいると、ついつい透視をしてしまう。

何度もやっているので、透視の使い方は上達している。下着状態を見るのか、全裸を見るのか・・・

その内、もっとマシな事に使えるだろう。


綾瀬駅に到着し、駅前の牛丼屋で大盛牛丼を胃に収めてアパートに帰った。


パソコンを開きネットバンキングで銀行口座の残高を調べた。

残金29万円。家賃と光熱費。携帯やネット等の通信費。さっきの買い物のカード引き落とし額。ざっと見積もって16万円が無くなると、残高は13万円。

ヤバイ・・・

財布の中には約2万円。

総額でも15万円だ。何とかしないと。


ま、面倒な事は後回し。

買ってきた革スーツを着てみる。試着室で着た時よりもいい感じだ。

ブーツも履いてみる。

なかなかだ。

こうなると、飛んでみたい。

窓口を開けて周りを見渡す。遠くにベビーカーを押していく女がいるだけだ。

コンパスと携帯を持ち、ベランダに出て一気に飛び立つ。革スーツのポケットには念のために1000円札を押し込んでいた。

街がジオラマの様に見えるまで上昇する。

コンパスで方向を確認し、東に向かう。

スピードを上げる。

革スーツはピッタリと身体に張り付き、今までのようなバタバタとした抵抗も無い。


5分も飛ぶと飛行機が何機も飛んでいるのが目に入る。

成田空港が近い。

足立から成田空港までは直線距離でも60kmはある筈だ。60kmを5分。

とすると・・・時速720km!

これでも最高速という感覚はない。


飛行機に、衝突しないように避けながらスピードの計算をしているうちに太平洋上に出た。

Uターンして海岸線にそって南下する。

眼下には九十九里浜が延びている。

ゆっくりと上空からの景色を楽しんでいると、腹の虫が、鳴き出した。


いかん、このままだと墜落する。

内陸に移動する。下を走る国道にコンビニを見つけた。


駐車場の端に目立たない様に着地してコンビニに入る。

バイクで来た客だと思うだろう。


カツ丼弁当とウーロン茶、おにぎりを2つ買った。店内のテーブルでカツ丼とウーロン茶で腹を満たす。おにぎりは非常食だ。飛ぶと異常に腹がへる。


腹が満たされたところで、レジを見た。30代前半の若奥様風な細身の女性。ブラジャーはピンクか。






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