第122話 泥棒はのじゃロリの始まり。
俺も昔のことを思い出して少し気分が悪くなっちまった。それに、基本的に統制協会にいる勇者は自分から世界の為に統制協会に所属するんだけど、あのクイーンみたいにやむを得ず統制協会に“保護される”やつも少なからず存在している。
兵器として使われたり、奴隷に落とされた勇者を統制協会は保護し、世界の為に戦うための“教育”を施している。そうすることで戦力の補充を行っていたんだ。
もともと、魔力の総量が多ければ老化が遅くなる。魔力が細胞に干渉し、各細胞ごとを活性化させたりと、向こうの世界になかったコチラだけの長所があったりする。
だからこそ、勇者や英雄は総じて寿命が長いが、それでも世代交代や、新規参入者を募らなければならない事もあるんだろうね。
「ブレア様はマキナに帰ろうとか思わねえんですか?」
待ちなさいよ。一応俺の奴隷だからね?何気軽に里帰り勧めてるの?バカなの?
「不明。本機はそう言った思考が行えるように調整されておりません」
「よくわからねえですが、まあ帰りたくなりゃいつでも言いやがってください」
だからなんで俺の意見を聞かずに話を進めるのかな。一応おじさん君の主人でもあるんだけどさ、そこのところどうなの?
「お前ら、もうそろそろ降りるからシートベルト付けろよ」
運転席からクイーンの声が聞こえ、俺とブレア、そしてカリラは座席に座り、シートベルトをつける。
それと同時に、席に着こうとしたババアの襟首をつかんで席に着くのを邪魔していると、ブワッと、金玉が縮み上がるような感覚と共に、のじゃロリの不細工な悲鳴と、天井に何か………具体的に言えば身長130センチくらいの頭のおかしいツインテールババアがぶつかったような音が聞こえた。
豆バスの窓から見えた景色は、俺の記憶の中にある異世界都市コイキの姿から、近代的な都市に様変わりした物だった。
高層ビルが立ち並び、舗装された道路や、マキナでもなかなかお目にかかることができなかった自動車が行き来している。その様子はまるで“元の世界”を彷彿とさせるものだったが、当然それだけではない。
明らかに俺達のいた世界とは異なる文化を持った世界から来た異世界人がいるのか、液晶画面などではなく、立体感のあるホログラムのような物が街中に映し出され、そこでアイドルのような格好の現実味の全く感じられない女が、機械的な声で歌を歌っていたりする。
ようやくバスを降りて、地に足をつけてみれば、空中に浮かぶ都市だというのに、存外しっかりとした足場に驚いてしまうだろう。まあ500年前に既に経験済みの俺はそんなことないんだけど。
隣でカリラがおっかなびっくり地面におりて、足元を何度も踏んで確かめていたりと、可愛いところもあるじゃないの。なんて思えばすぐさま鋭い左フックが襲い掛かってきたので、間一髪のところでそれを回避する。
俺達の降り立った場所は、高層ビルの立ち並ぶ場所の、その中でも最も大きく、そして強力な加護に守られた建物だった。
どうやらここが新しい統制協会の本部らしいな。
「ついてくるのじゃ」
先頭を頭にたんこぶのあるババアが歩き、その後ろをクイーンが歩く。それに連れ立って俺達の一団が歩いている形だが、どうにも外からくる人間は珍しいらしく、建物内に入ってからという物、周囲の連中の視線を全身に感じる。
建物の中は、まあ簡単に言えばオフィスビルのようになっており、OAフロアなのか、カーペットが敷かれ、そこで様々なブースに分けられ、スーツ姿の美男美女があくせく働いている。
「これから上長会議が開かれるのじゃ。そこで貴様らの話しをするからついてくるのじゃ」
ついさっきもついてこいって言った事をもう忘れてるのか。俺のボケ防止のネックレスも凌駕するほどのボケ具合とか恐ろしいな。
「ちょっと待て糞ババア………」
そうして俺はある部署で“それ”を見つけてしまった。
ガラス張りの展示ケースに収められた“それ”は、かなり風化しており、ひどく傷んでいるが、それでも強い力を放っていることが分かる。
と言うかそもそもアレは俺のモノだろうが。
「どうしたの………げっ!?」
アイデンティティーである“じゃ”さえ付けることを忘れ、とんでもなく速い動きでそれを隠したババア。だけどもう遅い。俺はそれがここにあることを知ってしまった。
「テメエ俺の装備盗みやがったな?あ?」
「ななななななんのことじゃ?」
「―――ブチ転がすぞ」
俺が目を止めた物があった部署とは………剣王祭と呼ばれる、正式な統制協会の構成員以外で行われる武闘大会の運営やらをしている“剣王祭運営課”である。そして、その景品の一つに………俺の“手袋”があったのだ。
特殊な陣を埋め込んで、魔法に対して物理的に干渉することができる効果を持ち、尚且つ空中に魔素を滞留させることで、媒体なしに媒体魔術を行使できる超レアもの。
剣、一張羅ほどではないが、俺の装備の中でもかなり重要な一つだ。
もう一度作ることは不可能だが、どうにか代用することができるため、優先順位を下げていたが、こんなところで出会えるとはな。
それに、キルキスの施した“付与”のお陰で、あれはもう一つだけ地味で目立たない効果がある。
「返せ」
「………出来ん………もう既に民に景品として発表してしもうたわ………」
「………まさかテメエが俺の装備を盗むまで落ちぶれてやがるとは思わなかったわ」
あぁ、予定がまた一つ増えちまったぜ畜生。剣王祭………また参加しないといけないのか。
「すまぬ」
「もういいからさっさと会議にいこうぜ」
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