第10話 生徒会の謎の権力

「まず、神崎刀矢対、京独きょうどく綾子の試合を始めるッ!両者中央へ!」


 京独綾子、それが俺達のクラスメイトではない女の名前にして、俺達のいた学校の生徒会長の名前でもある。

 京独綾子はその容姿の美しさ、そして家柄の良さも相まって学校では神崎を超える有名人であり、当時生徒会長最有力の、二年の時に生徒会副会長をしていた生徒に、圧倒的得票数の差をつけ生徒会長になった異例の二年生会長である。


「生徒会長…………?」

「俺達と一緒にこっちに来てたのか?」


 周囲の生徒からは様々な声が上がるが、会長は優雅にそれらに手を振りながら演習場の中心に立った。

 それに対する神崎は、会長の顔を見るや否や視線を逸らし、少し恥ずかし気な表情を浮かべている。

 どうやらこれはあれだな、青春のにおいがしやがる。


「では、初回なのでルールの説明から入る。今回の摸擬戦では魔法アリ、個性も扱えるようなら使ってもらって構わない。しかし、相手を死に至らしめる様な攻撃や、明確な殺意を持って攻撃を打ち込んだ場合は反則負けとする。また、決着後の攻撃も同様と見なす。相手を死に至らしめる様なものも禁止とさせてもらう。以上だ」


 そう言うと近衛は少しだけ二人から距離を置き、手を前に出した。


「では…………はじめッ!」


 …………いやまあそうなるだろ。

 会長は余裕の表情でその場から動かないし、神崎は剣をぎゅっと握りしめてその場で固まっている。

 普通に生活してただけのこいつらがいきなり金属の塊を押し付けられて、目の前のやつをぶっ飛ばせ、なんて言われたって、はいそうですかってなると思ってんのかね。

 バカなの?


「神崎君、どうした、掛かってこないのか?」


 会長は依然として余裕そうだなぁ。 

 殴られないと思っている様子ではないし、突っ立てる様に見えて、なかなかどうして切り込む隙が無い。

 あれはマジな天才か、それとも旧友の恵比寿のあっきーの様に何かとんでもない武術でも学んでいるのかもしれない。

 あっきーがこっちに来てたら間違いなく開始早々嬉しそうな顔でタコ殴りにしてるだろうし。


「おや?少し手が震えているじゃないか」


 緊張と、これから金属の塊を目の前の女に叩きつけることに対する罪悪感からか、がちがちに固まった神崎の背後に一足飛びに移動した会長が、神崎の方に手を置き、耳元で妖艶に語り掛ける。


「大丈夫だ。もっと肩の力を抜きたまえ…………そうそう、いい調子じゃないか、では次は呼吸だな、深く吸って、細く、鋭く吐き出せ、吐き出すときに全身をリラックスさせるように、力が抜けるのを体感しろ…………さすがは勇者だ、物覚えが良い、そうそう、そして剣はここに…………いい面構えになったじゃないか!そうだよそうだよ、その構えだ!よし、では早速打ち合おうか」


 暫く神崎は耳元で囁くように教えを説く会長のおっぱいを凝視してたおかげかだいぶ力が抜けてきたな。

 もしかすると俺もへたくそなふりをすればあれやってもらえるかな?もらえるよね?顔面偏差値関係ないよね?チュートリアルに顔面偏差値関係あるとかアバター作成の時点で積むゲームって事?何それ、運営呼んでこい。

 こっちは顔ガチャでNかHNくらいじゃボケ。何がSSRだ、何がURだ。

 金色の玉とか虹色の玉とかふざけんじゃねえよ。こっちは顔面ブロンズセイントじゃ!


「ふふっ」


 そんなわけわかんねー事ばっかり考えながら、世の不条理と、世界の不平等を嘆いてたら、会長が俺の方を見て小さく笑いやがった。

 あの野郎、目の前の勇者をまるで敵だと思っちゃいねえな。


「い、行きます!」


 イクの?え、もうイッちゃうの!?ちょっと早すぎやしませんか勇者さん。

 三分しか耐えられない勇者とかあれだよ?ウルトラなマンだよそれじゃあ。

 いやウルトラなマンをバカにしてるとかそう言う訳じゃなくてね?


「ああ、いつでもおいで」


 軽やかなバックステップで距離を開けた会長に、神崎は剣を振りかぶる。

 その動きを会長はしっかりと見て、そして…………。


「グぼぁっ!?」


 うっわー、マジでえげつねえなあの女。

 鳩尾、喉仏、額に三連突きとか…………って、あの動き普通の人間じゃねえだろ。


「ふふっ、どうやら私の勝ちの様だね」


 審判が何か言うよりも早く、というか、今のはある程度予備動作で動きを予測してないと見えないレベルの攻撃だったし、近衛も見えたのか怪しいな。

 まあ、口を開けて呆ける近衛に会長が視線を送ってようやく試合が終わった。

 あの女、マジで尋常じゃねえな。

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