第11話 今日は晴れのちメイドの居る洋館の中に入るでしょう。

そして、到着した列車から降りて

駅舎から出るとそこには、漆黒の高級車が待っていた。

それのドアが開けられ、後部座席に乗りそれに彼女も続く。

この車の中の匂いと雰囲気は、タクシーとは何かが違うみたいだ。

普段からの手入れがいいのか、雑然としたものなど微塵も感じられない。

そして乗り終えるとドアが閉じられる。ドアを閉めてくれた者も

運転席の方に回り込みドアを開けて運転席に座り

シートベルトを締め、ハンドルをしっかりと持つ。

「ではお願いね?」

「かしこまりました。」

彼女が命ずると、運転手は返答し車は走り出した。

走り出した車は街の中を抜ける。

この街は流石に、東京都に隣接している県の県庁所在地の事だけあり

ゆうじが住み慣れた街とは比較にならない程の広さと規模だ。

すれ違う街の雰囲気といい建物の見た目と大きさといい

それの中には、ゆうじの住んでた街には絶対にない

お店やら娯楽施設やらが沢山あるみたいだ。

その贅沢な程の豪華な雰囲気の街並みを抜けて

緩やかな坂を上り街を見下ろす小高い丘を、

開発して出来た広い敷地面積のある洋館に辿り着いた。

その門をくぐり、その建物の玄関前で停車した。

玄関から中に入ると、多くのメイドたちが

左右の両側に立っていて一斉に頭を下げる。

ここは余程、教育が徹底しているのか乱れた態度はおろか

ヒソヒソ話など私語する者も居ない。

これを見るだけでも、自分はまるで異世界に訪れた様な感じをする。

しかも自分は客分として迎え入れられたのではなく

ここの屋敷の主としての様だ。こういう若い女性の使用人に

身の回りの世話をされる生活が始まろうなど、

ゆうじとしては今までの自分の生い立ちでは想像すらつかない事だ。

そして館内を進み、そしてその一角の部屋に案内される。

そしてそこで違う服に着替えると

「ではここにお待ちください。」

そういうとブレザーを羽織り白シャツにネクタイ締めて

下はブレザーと同色のショートパンツに白いハイソックスの

女の子はドアを閉めて立ち去って行った。

さて、これから自分はどうなるのやら?

そうあれこれと考えているとこの部屋の片隅から声がする。

「よぉ?お前さん、ココに来たんかい?」

振り向いて見るとそこに、ゆうじと同い年と思われる少年が居た。

ただ、よく見てみると何やら如何にも粗野で下品で

自堕落で横着でいい加減なお調子者っていう感じだ。

「アンタは誰なんだ?もしかしてココの館の主かその息子なのか?」

ゆうじはそう訊くとその少年は、ぶっひゃっひゃっと下品に大笑いした。

「こりゃ最高なボケだな?このオレがココの当主かせがれだって?

こりゃいいナイスボケだぜ。だが、残念だな?

オレはココの当主でも何でもねえよ。どっちかと言えば

アンタと同じでココに連れて来られたって事さ。」

「連れて来られた?どういう事だ?」

ゆうじは不思議そうに問う。

「知りたいか?知りたいのなら教えてもいいぜ?」

「なら、教えてくれ。お前が何でココに来る事になったんだ?」

「そうだな。一言で言うと、生まれ故郷の新潟で街のみんなと

大喧嘩して叩き出されちまった。」

「は?何だそりゃ?もしかしてお前はワルか何かか?」

「まあ、向こうの立場としてはそうなるんだがな?」

「つまりお前の言い分は違うのだな?」

ゆうじは怪訝そうに問う。

「ああ、そりゃそうだろ?アンタ、テレビか映画か

漫画や小説の見過ぎだろうけど、正義の逆とは悪とは限らないんだぜ?」

確かにこの男の言い方を借りれば

上は国家間の対立から下は個人間のいさかいに到るまで

世の中の争いの多くは正義と悪との抗争とは一概に決め付けられない。

それに正義とはひとつでは無い。

自分に正義あるのと同じく対立している相手にも正義はある。

「それで本当の所、何をやってココに居る事になった?」

ゆうじはれる思いをこらえながら言う。

「オレ、世間じゃ県会議員の隠し子っていう説があってね?

当時のオヤジにとっちゃ表面上は認知出来ねえんだよ。

下手に認知しようものならマスコミやら何やらに

あれこれ探られ、他の議員から何されるかたまったもんじゃない。」

ゆうじは察した。つまりこの男はその大物らしき県会議員が

何やら何処ぞで自分の娘以下の年頃の若い女性相手に

老いらくのアバンチュールか何かをやって相手を懐妊させ

その相手にもう堕胎させる訳には行かないので、仕方なく

産むのを承認したものの、その県会議員じゃ大物とされる

本人としてはマスコミや他の県会議員による追い落としを

懸念している上に、他の腹違いの兄弟たちとの関係を考えると

自宅に入れさせる訳には行かなかったという。

それでもこの男としては敢えて無理に自宅に入れて欲しいとは

言わなかったし、その相手に母親としての育児を委任する代わりに

毎月かなりの大金を生活費に与え続けたという。

「だが、待てよ?お前は確か、その母親から生まれた隠し子で

表面上は認知出来ないって言ってたがそれはどういう事だ?」

「さすが頭の回転は速いらしいな?お前、そろそろ気づいているだろう。」

「ま、まさか・・・!?」

「そうさ。お前が人間の母胎から生まれた者では無いのと同じで

オレも又、人間の母胎から生まれた者じゃないんだよ。」

ゆうじはその昔、SFアニメか何かで聞いた事がある。

人類を脅かすモンスターか何かを倒すとか

相手国や軍事勢力との戦争において

一度の戦いにおいて一騎当千以上の戦闘力を出させるとか

一般パイロットじゃ手に負えない兵器を操作するとか

たしか普通の人間では対処出来ない事象に対応するために

そういう人間を人為的に造り上げるというアニメにおける

架空の技術によって誕生した人造人間とか、

元は普通の人間だったのを特殊訓練に加え

薬物の使用や洗脳など精神操作などで造り上げられた

強化人間と言ったその組織任務を遂行するためだけの存在というのを

聞いたが、まさか自分と目の前の少年がその類であった

事実を知る事になろうとは思わなかった。

ゆうじは過去の事を思い出した。よくよく思い出せば

自分は同世代の一般人だったら、泣き言を言い出してしまう様な

しんどい事をやっても疲れ知らずだったばかりか、

体育の授業でも他の者が舌を巻き閉口してしまう様な結果を出し

授業でもテストでも他の者を唖然とさせるくらいの結果も出し

自分に辛く当たる者たち以外からは股肱ここうと頼む程の

切れ者で通ったくらいの事をして来た。

「まさかアンタも?」

ゆうじは恐る恐る訊く。

「ああ、そうさ。オレもアンタと同じさ。それなのに

世間のヤツは、オレの事を気味悪がり何かにつけて

辛く当たりやがるんだよ。おまけにお袋もお袋で

オレが居て欲しいときに、近所のクソボケどもめが

度々、精神病院にぶち込みやがった。おかげで

オレは親の愛情の何たるかをあまり知らねえ。」

ゆうじも都合のいいときだけ受け容れられ

不都合となったら疎んじられたが、

この男はそれ以上に、あまりにも条件が悪い境遇で

育った様なものだ。

「それでアンタとしては、これからどうするんだ?」

「オレか?オレはな?ココの屋敷に住まわせて貰えた上に

お金まで勝手に使っていいって事になったこの状況にゃ

感謝してんだよ。オレはな?今の格差社会と不遇を囲ってる者を

自己責任で冷たく切り捨てる風潮が憎くて堪らんのさ。

そこへ来てフェミニストがこのオレも含めて世の中の

男という男を女にとっちゃ生きてちゃいけないというだけの理由で

淘汰とうたしようだなんて、ふざけた考えを実行しようってのが

胸糞悪くて反吐が出るんだよ。」

フェミニストと聞いてゆうじは養父の林原泳三を殺し

住んでた家と土地を取り上げるために反対住民とともに

自分を毒物を用いて大量虐殺を試みた自治会の裏切り者と

開発会社とその背後に居る連中を思い出しそれに対する怒りを新たにする。

「そうか、やはりアンタも家族を殺されたという意味では

俺と似た様なモノか。」

「何?アンタもか?」

「ああ。俺はたったひとりの養父とうさんだった

林原泳三を殺され俺自身も毒を盛られ今の世間じゃ、

死んだ事になっている。だから名前は

下の祐二しか名乗れない不完全な状態さ。そういうアンタは

名前はどうなんだ?まさか俺と同じで名無しにされているのか?」

ゆうじは名前を訊く。

「オレか?オレの名は尾場寛一おばかんいちさ。実は

本名は皆村良人みなむらよしとっていうのだが、あっちの名前なんざ

要らねえからゴミ箱にでも捨ててやるよ。」

「何故、本名を名乗らないんだ?尾場だと、さん付けで呼ばれると

"オバサン"になってしまうし、碌な事をしないとそれこそ

苗字をもじって"おバカ"になってしまうぞ?」

「ははは。オバサンはともかく、おバカっていうあだ名に関しちゃ

元から覚悟の上さ。それにオレは昔から奇行癖があってな?

もうそれが原因でそう呼ばれてるんだよ。」

「なら、何で本名を名乗らないんだ?」

「コレはな?お袋がオレに対して"皆村"っていう

愛着なんて何も感じない苗字を捨てられるのなら何でもいいって

願ってたんだよ。実際オレもこの苗字は

まるで華やかで便利な都会を捨てて、

一家皆で過疎もはなはだしい村に引きこもるって感じが嫌いでね?」

ゆうじは思った。自分は元の苗字を名乗ろうにも

心無い組織の犯罪が原因で死んだ事になっており

それが出来ないのに、目の前の者は元の苗字に対して

愛着が無いばかりか忌々しくて堪らないという。

世の中、本当に奇妙な事で溢れているものなんだなとゆうじは思った。



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