第8話 今日は孤独のちメイド出現

街の中心部に来た。

お金を払ってタクシーから降りて、その中に進む。

飲食店を適当に探す。この際、お腹を満たせられるなら構わない。

そう思って、思わず御食事処おしょくじどころの店を見つける。

時間帯としては食べてくつろぐなら充分だ。

早速、入店するなり所持金と相談した上でカレーライスを頼む。

そして出されたモノを食べる。

「そういやアンタ、林原さん所の息子さんに顔が似ているわね?」

この店の女将さんが訊ねる様に言う。

「そ、そうか?」

「ええ。ホントに瓜二うりふたつよ?林原さんに加え、

養子に取った息子さんまで失われるなんてねえ?」

ゆうじは思わず、自分がその息子だと言いたかったが

今の自分はこの女将さんの中では何らかの事件に

巻き込まれて死亡した事になっているみたいだ。

「んで、その林原さんってどんな人だったんですか?」

ゆうじは他人の振りして尋ねる。

「いやね、あの泳三さん自体はあまり関わりたく無いのだけど

養子の祐二さんは非常に真面目で優しくて、

ウチの茂とは大違いよ。祐二さんとウチの茂を

交換したかったくらいね。」

それを聞いたゆうじは、

(ああ、アイツか?アイツ昔から悪ふざけと

おイタが過ぎる所があったからなぁ?)

茂はゆうじに言わせれば根は悪いヤツでは無いのだけど

軽薄な性格の上に奇行が多く、しょっちゅう

先生から叱責や懲罰を受けても全然、懲りない男であった。

だがゆうじにとっては同時に親友でもあったのだ。

それが今も元気で居てくれてるというのなら、

もうゆうじとしては未練は何も無い。


食べ終えるとお勘定を払って、店を後にする。

さて、これからどうする?

帰る家も無い。それどころか今の自分は少なくともこの街においては

もう既に死んでおり、この世には実在していない事になってる。

その為か宿泊施設で一泊しようにも、

受付で手続きする際に名前を名乗れない。

この世の戸籍上では死んだ事になった以上

今生きている自分はその内、困窮して本当に死ぬ事になるかも。

そう思いながら、公園の入り口に差し掛かった。

ふと周りを見ると、以前から見かける

謎の女の子が立っている。無論、その視線は間違いなく

ゆうじの方を向いており様子を窺っている。

こうなったら、こちらも覚悟を決めようとゆうじも

彼女と対峙する様に向き合う。彼女は確かに、この前から

見かける少女に間違いない。ただ違うのは

着ている服装がメイド服では無く、

白シャツを着てネクタイを締め、 紺色のブレザーを羽織り

下はブレザーと同色のショートパンツに

白のハイソックスにスニーカーという

まるで何かの推理モノに出てくる私立探偵の

助手の少年を連想させる格好である。

こちらから声をかけようと思ったら、何と向こうから言葉を発した。


「やっと、こちらにお気づきになられましたのですね?」

「ああ。この前からは何となく見かけたとは思っていたが

いつからなのかな?」

ゆうじはさして驚かず、相手に問いただす。

「そうですね?林原泳三さんがお亡くなりになられてからすぐに

土地開発会社の経営代表の方々が直々に、この街の市長はじめ

実力者のご威光を盾に地元の皆様の土地を

半ば強制的に接収すると唱えられた辺りからですね?」

それに対しゆうじは、自分なりに彼女に鎌をかけて見る。

「その分だと、養父とうさんを殺したヤツの事も

アンタは知っていそうだと思うが?」

それに対し彼女はこう返答した。

「そうですね?泳三さまが他の街の精神科医院を退院して

この街にお戻りになられて早々、駅から離れた

辺りで何者かに絡まれて暴行され

川に落とされたのも、泳三さまが帰り道で

バイクに乗った若者に後ろから蹴られ、

それを違う位置から来られて介抱するふりをして、

自宅に監禁され、日数掛けて暴行を受け

その過程で亡くなられ、その遺体処理に困った

彼らによってドラム缶の中に押し込められ

その上からコンクリートを流し込まれたのも存じてます。」

「・・・では、他の街から養父さんに絡み、

最後には拉致して殺して遺体をドラム缶に入れて

コンクリートで固めたヤツをアンタは知っているのだな?」

ゆうじは激昂したいほどの感情を押し殺して訊ねる。

「はい。泳三さまを殺害し遺体を葬ったのは

フェミニスト団体です。」

ゆうじは思わぬ犯人の正体に驚く。何故なら女性の社会進出に伴い、

世の中の女性の社会的地位の向上と待遇の改善を唱え

最終的に男女同権と共同参画社会推進の

持論を展開するフェミニスト団体が

何で殺人と死体遺棄事件を犯す必要があるのだろう?

そう思うゆうじの疑問も無理は無い。

「では、養父とうさんを殺したのも

俺も含めて反対住民のみんなを、食べ物や飲み物に

盛った毒で皆殺ししたのも実はフェミニストなんだな?」

「はい。彼らの犯行の一部始終を確認しました。

彼らの仕業に間違いありません。そればかりか

この件に関してマスコミに対し箝口令かんこうれい

布いたのもフェミニストです。」

それを聞いて益々、怒りが心底から

噴き上げるのを何とか堪える。

今ここで目の前に居る女の子に感情をぶつけても

仕方ない。少なくとも自分の目の前に立っている

この女の子はフェミニスト側の者では無い。

仮にこの女の子がフェミニスト側の者なら

自分如きなど泳三もろとも葬り去るなど造作も無いし

その証拠すら残さないだろう。

それに今の自分は今夜からの寝場所にも事欠いてる身だ。

ここで目の前の彼女に対し声を荒げて騒いだ所で

詮無いことでしかない。

「そうか・・・」

結局ゆうじは感情を押し殺しつつ

この場は項垂うなだれるしかない。

「それより、今はどうするかだ。

過去の名前は名乗れぬ以上、この街に寝る場所は無い。

ホームレスの真似事まねごとなど論外ろんがいだろうし。」

どうしたものかと、あぐねていると

彼女から言い出す。

「では、私と一緒について来て下さりませ。」

「いいのか?」

ゆうじは思わずただした。

それはそうだろう。幾ら下手な大人より毅然とした

姿勢に徹しては居ても、所詮は思春期の10代の少年だ。

「はい。少なくとも、公園や路地裏で一晩

お過ごしになられるよりは宜しいかと?」

最早こうなっては恥ずかしがるなど無意味だ。

ゆうじは、早速このボーイッシュな格好をした

女の子に連れられ、公園の入り口を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます