第7話 今日は雨のち人造人間だった事実を知るでしょう?

目を開け四方を見渡すと何処も何もかもが真っ暗闇だ。

その見渡す限りの暗闇の中で仰向けになっている。

「ここは、何処なんだ?」

すると何処かから声がする。

「やっとお目覚めかね?林原祐二。

まあ、もっともその苗字は最早使う事は出来ないがね。」

「誰だ?」

「私かね?仔細あって名乗る訳には行けないがね。

まあ、ここでは私の事は"役行者えんのぎょうじゃ"とでも

呼んでくれても構わんよ?」

「そういや、俺は今の苗字を使う事は出来ないって言ったが

それはどういう事なんだ?」

ゆうじは早速、暗闇の向こうから来る声の主めがけて問う。

「キミは戸籍上では死んだという事になっておる。」

「そういや、あの幕の内弁当と飲み物に毒を盛られたんだな?

毒といえば、あの晩に俺と一緒に抗議集会に参加していた

あのご近所の住民たちはどうなったんだ!?」

ゆうじは自分の災難の巻き添えになった住民たちを気にかける。

「誠に残念だが、あの後彼らは死んだよ。

彼らの遺体はあの集会の主催者どもとその背後に隠れていた

者たちどもによって焼却され、骨は粉々になったそうだ。」

「そ、そんな・・・」

ゆうじは無念さを感じずに居られない。

「ではキミは、彼らとその背後に居る者たちは憎いか?」

「ああ、憎いさ!養父とうさんを殺してドラム缶に押し込み

コンクリート詰めしやがったあの野郎と、

そんな俺に、追い打ちをかけるように都市開発の名の下に

俺たち住民を無理やり追い出そうとしたあのボケ業者と

そいつの暴走を黙認しやがった役人どもと、

決起集会と称して市民会館に俺たちを集めて

弁当と飲み物に毒を盛りやがった自治会の裏切り者どもと

それらの背後に居るクソッたれどもに対し

強欲と傲慢さと身勝手さの果てに自分らのした事を

後悔と反省させるためなら、歴史上や創作上の悪人や犯罪者が

ただの尻の穴の小さい狭量に思える程の事をしてやるわッ!?」

ゆうじは殊更、大いなる憤りをぶつける。

「ふふふ。それでこそキミは理想的な男だ。

そう思ってキミに真実を教えよう。」

「真実?」

「キミの肉体は人間の女性の母胎から生まれたモノでは無い。」

「何?もしかすると、俺は普通の人間や厳しく激しい

鍛え方で育てられた人間では到底不可能な事を

達成出来たり、扱えない代物を扱えるために

まったく違う方法で生まれたというのか?」

「そうだ。一言で言えばな?」

つまり役行者と名乗る声の主が言いたいのは、

そもそもこのゆうじに使われている人造人間の技術とは

クローン技術とIPS細胞を用いた技術の実用化に加え

遺伝子操作と人工子宮装置によって、人為的に

人間社会の安全保障や利便性に貢献する人材を造ろうという

考えであり、ゆうじはその技術によって造られたというのだ。

要するに、幾ら人間社会の上位にとって都合のいい人材や

人間社会の経済や文化に貢献出来そうな者が

探しても見つからないのなら自分らで造ってしまおうという考えに到った。

その人間の心の闇と業が具現化したのがゆうじと言いたいのだ。

「キミの遺伝子は彼らによって盛られた毒物によって、

そのカギが外れた。もうこれからはキミは過去の自分では無くなった。」

「それで俺に何をさせようというのだ?」

「それはやがて、キミが見つける事だろう。

さあ、目覚めよ。思いの果てに何かを見つけられるその日まで。」


そして目覚めると身体が濡れていて冷たい。

どうやらゆうじは公園で段ボールを広げて大理石の床に敷き

新聞紙を毛布代わりにしてくるまっていた様だ。

時間はどうやら宵闇が迫ろうとしているためか

辺りは薄暗くなっている。おまけに雨も降っている。

道理で頭から濡れてて冷たいはずだ。

このままだと流石に堪ったものでは無い。

公園のトイレの入り口に何やらバッグが置いてある。

誰のだろう?中には着替えや現金がある。

早速、それを手にして公園のトイレ内を探した。

誰も居ない。本来なら届けないとイカンのだが

今の自分は何も持っていない。おまけに雨に降られ

ずぶ濡れの野良犬に等しい。このままでは名も無き

ホームレスに今夜からなるだろう。

そう思うと涙を呑んでここはバッグを自分のモノにする。

そして公園を出て、駅の近くにある最近出来た

スーパー銭湯らしき施設に赴く。

ここの銭湯は屋上のソーラーパネルによる

発電と建物内から出る廃熱を上手く使った

スターリングエンジンで発電機を回した

電気温水器でお湯を沸かしているためか

年間コストの多くを占める燃料代がかからないためか

利用客に対し他のスーパー銭湯より非常に格安の

料金で利用出来る様にしたため、

定収入の利用客や学生などお金があまり無い者が

一日当たりの利用客の大半以上を占めている。

早速、入場しようと試みる。

受付にお金を支払ってカギを受け取り

その番号のロッカーにバッグを入れ脱いだ

濡れた服はコインランドリーコーナーで

乾燥機としての機能も兼ねたドラム式洗濯機に入れる。

コインを入れて作動したのを確認すると浴室へ行く。

そこで浴槽に浸かり久々の快適な入浴時間を堪能する。

頭と体を洗い、再び浴槽に浸かりしばらくした後、

浴室から出て身体をタオルで拭き、

コインランドリーを確かめる。服は乾いてて暖かいみたいだ。

外は心なしか雨は止んでいる。ゆうじはスーパー銭湯の前に

停車しているタクシーに乗り、かつて住んでた旧住宅街の所へ行った。


だが、そこで見たのは多くの作業員と重機によって再開発が

進んでいる、かつての住み慣れた木造家屋が乱立していた

住宅地の姿であった。木造家屋は次々とパワーショベルによって解体され

パワーローダーは崩された木造家屋の残骸を拾い上げ

ブルドーザーは土が地面に剥き出しになってる

生活道路を地ならししている。

今まで慣れ親しんだ生活を思い出させる様なモノは最早、何も無い。

それを見届けたゆうじは、待たせていたタクシーに乗り

街の中心へ進んで行った。もうこれで今の自分には

帰る場所は無くなった。そればかりか今後の身の振り方も

考えねばならない。何処かに宿泊しようという考えにしても

宿泊する際にかつてあった苗字を名乗る事は出来ない。

何故なら今まで名乗っていた林原祐二は、今の世間では

他の住民と共に毒殺され、遺体を葬られた事になっている。

今のゆうじは住む家も中学生という肩書きも

そして名乗る姓名も無い、ただの少年でしかない。

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