第32話 僕から紗和へのプロポーズ!

紗和を刺したナイフは運よく急所を外していて、紗和を死に至らしめることはなかった。手術を受けて輸血する程度に収まった。僕は安堵した。後から来た警察官に説明をしたら、犯人の顎を粉砕した僕は特に何も罪には問われなかった。そんな事よりも、あの太った男はそのまま殺人未遂で逮捕されて行ったと聞かされた。今、僕の目の前に手術を終えたばかりの紗和が病室のベッドの上で眠っている。医者の話によれば命に別状はない、とのことだった。僕はその医者にひたすら頭を下げていた。

「・・・ぅ・・・う・・・ん・・・・」紗和が麻酔からようやく目覚めた。紗和は不思議そうな顔を僕に向けてきた。

「あれ・・・私・・・どうしてこんなところに・・・・ぁ、ぃたっ!」

「紗和、大丈夫か?僕のことがわかる?」

「うん・・・一馬クン・・・私・・・どうして・・・」傷口が痛むのだろう、そう言うと紗和は刺された腹部に手を置いた。

「あ、そうだ・・・私、ファンの子に刺されたんだっけ・・・?」

「もう大丈夫だよ、あの男は警察官に捕まって逮捕されていったから・・・僕が紗和と一緒に車から降りて来ていればよかったんだ・・・紗和がこんなひどい目にあったのは僕のせいだ・・・ごめんね、紗和・・・怖い思いをさせてしまって、本当にごめんね・・・」僕は紗和の傷ついた身体を優しく包み込むように抱きしめた。

「違うよ!一馬クンのせいじゃないよ!・・・でも・・・凄く怖かったよ~!」そう言うと紗和は幼い少女のように大粒の涙を流しながら僕の身体に抱きついてきた。僕はそんな紗和を抱きしめながら、

「紗和、僕は紗和のことを愛してるよ・・・僕は紗和を失いたくない・・・だからこれからはずっと僕が紗和のことを守っていくから・・・僕は本当に、紗和のことを、愛しているんだ」

 僕は今さら何を言っているんだろうと不思議に思いながら、紗和のことを愛していると何度も紗和に言った。紗和も、

「うん!・・・うん!・・・私も、一馬クンのこと愛しているよ、この先も、ずっと・・・」

「あぁ、この先もずっと一緒にいようね?」

「うん!ありがとう、嬉しい!」


泣きながらそう言った紗和の涙にぬれた瞳を僕はそっと指先で拭った。



一馬クンの口から、はっきりとした言葉じゃないけれど、プロポーズされた!

生まれて初めて心から愛している人からプロポーズされた!

本当にこんな私でいいの?一馬クン・・・後悔しない?


うん。後悔なんて何もないよ?紗和が生きていてくれているだけで僕は嬉しいんだ!


 じゃ、横浜のあの場所で、お花屋さん開いてもいいの?


 僕は反対なんかしたことないだろ?一緒に頑張っていこう?


 うん、私、頑張るから!絶対にお店を成功させるから!


 その前にゆっくり身体治さないとね。ちょっと遠回りしちゃうけど。ゆっくりいこう?


 うん!そう言ってくれて嬉しい!一馬クン、ありがとう!


 

 僕と紗和は抱きしめ合いながらこんな事を囁き合っていた。紗和の身体に火が灯る様に熱が帯びてきた。今、紗和の脈は元気に波打っている。紗和の心臓の音がはっきりと聞こえる。紗和が生きている。僕の胸の中に元気になった紗和がいる。これほど嬉しいことがあるだろうか?そんなことを考えていたら、小さく眠る紗和の寝息が聞こえてきた。

「今夜は疲れたね、ゆっくりとおやすみ・・・」僕は紗和を起こさないようにそっとベッドに紗和を寝かせると、布団を肩まで掛けて眠らせた。紗和は眠っているはずなのに、僕の手を掴んだまま放さなかった。僕は病室の椅子に座ったまま、朝になって紗和が目覚めるまでずっと繋いだ手を放さなかった。


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