第25話 「孤独」には慣れていたのに・・・

紗和はその長い黒髪を真っ白なバスタオルで拭いながら僕に近づいてきた。僕は初めて紗和の下着だけの姿をみた。紗和が小顔なのはわかっていたけど、それにしてもなんて美しい流線形をしたボディーラインだ。少し細めだけど、大海原を自由に泳ぐイルカのような張りのあるスタイルに僕は見惚れてしまった。身長はそれほどでもないけど、すらっと伸びた長い手足も印象的だった。あとAV女優というと、巨乳であることが大切な「ウリ」なのに、紗和のバストはその細い身体とみごとに均整がとれていて、僕の手のひらに収まりそうなほどの小ぶりなバストだった。それは僕に紗和が「バージン」であるという幻想を強烈に叩きつけた。小さな下着からはみ出ているヒップは腰から太ももまで丘を流れる水のように丸みを帯びていた。 

僕はこんなに美しい流線形のラインをした裸体を見たことがなった。こんなに綺麗で美しいスタイルをしているのなら、モデルになってもきっと紗和は一流の人気モデルになっていただろう・・・

画家たちがよく女性のモデルを使ってヌードの絵画を描いているが、彼らはこんな女性のヌードの芸術的なラインの美しさに猛烈な衝撃を受けて、その研ぎ澄まされたナイフのような感性で男性にはない、女性特有の芸術的なカーブを持った裸婦たちの姿を描いていったに違いない。有名無名を問わず様々な画家たちがおのれの魂を削りながら、それらを忠実に描き切ったからこそ、数多くの美しい裸婦の芸術作品がうまれたのだろう。僕はそんな画家たちに共感を覚えずにはいられなかった。そんな下着姿の紗和に僕はAV女優特有の「フェロモン」のようなものはいっさい感じなかった。ただ「美しい」そのひと言しか頭に浮かばなかった。


「一馬クン、どうしたの」

「あ、いや、なんでもないよ」

「あ、そう。着替えてくるね」


そう言って紗和は自分の部屋へと歩いていった。よく考えてみれば、紗和にしたら紗和の「仕事」は、不特定多数の男たちに自分の全裸、セックスを見せ慣れているのだから下着姿なんてなんでもないんだろうな・・・

水泳部の女友達がよく言っていたことを思い出した。彼女らは水着姿に慣れているから水着姿を誰に見られても恥ずかしさなんて微塵も感じない、と。きっと紗和もそんな感覚だったんだろう。何年もつき合っている恋人同士なら何も感じないかもしれないけれど。ぜいたくを言えば、僕は紗和に「恥じらい」を感じて欲しかった。頬を桃色に染めて、身体を隠すしぐさをして欲しかった。そうしたら、僕はきっと紗和を「性」の対象として意識して、おとなしかった僕の下半身は勝手に勃起していたと思う。そこがちょっと残念だった・・・僕はこの先ずっとそんな恥じらいに満ちた紗和の姿を見ることはできないのか?女性の「恥じらい」も美しいものだと僕は思っているから。

そうだ!さっき紗和が女の子らしい「恥じらい」を見せたのを思い出した。僕とキスしたことで、アソコがびしょびしょに濡れてしまった、と言って、僕の身体を突き飛ばすように離れた時だった!そのしぐさこそ、僕が紗和に求めていた「恥じらい」の姿だった。それはまさしく普通の女の子なら誰もが持っている「恥じらい」の姿だった。状況的には僕も恥ずかしくなっていたけれど、僕は紗和のそんな姿が見たかったんだ!さっきはもう紗和のかわいい「恥じらい」が見られないかもしれないと思ったけど、紗和はあいかわらず僕にいろんな表情を見せてくれる。きっとこの先も、紗和のいろんな「恥じらい」が見られるのかと思うと、僕は嬉しさと期待で微笑んでいた。気がついたら勃起していた(笑)朝から発情してどうすんだっての・・・僕は煙草に火をつけた。

すると紗和が自室から出てきた。時計をみるともう出勤?する時間になっていた。もうすっかり冬になったせいか、初めて会った時のような薄いコートじゃなくて、冬用のコートで身体を包み込んでいた。僕は見送りのためにソファーから立ち上がり、紗和を玄関まで見送ると、


「今、お小遣いってもってる?」

「多少は持ってるよ」

「じゃ、すぐ下にコンビニあったでしょ?これでなんか買ってね」


紗和は財布から3万円をとりだして僕に手渡そうとしたけれど、さすがにその金額の多さにびっくりした僕は、


「とりあえず1万でいいよ、買うのは煙草と昼飯くらいだし」

「いいの!なにかあった時にお金ないと困るでしょ?」

紗和はその3万円を僕に押し付けるように手渡すと、「遠慮なんてしなくていいんだからね!」そう言いながら僕の頭をなでまわした。何かを思い出したかのように紗和は、

「そうそう!私のDVDはテレビ台の中にあるから好きな時に観てね!」

きっと紗和の「プライド」が散りばめられた自信作ばかりのDVDなのだろう。そして僕の頬にそっとキスをすると、

「そろそろいかなくちゃ!遅くなったら連絡するね?」

「うん、わかった」

「じゃ、いってきます!」


紗和はいつもの笑顔で出て行ってしまった。玄関のオートロックが閉まる音がすると、なぜか僕は急に独り孤独にとり残されてしまったような気分になった。紗和がいってしまった・・・紗和がいない・・・ただ「仕事」に出かけただけなのに・・・「仕事」が終わればちゃんとここに帰ってくるのに・・・ここは紗和のマンションなんだから・・・僕は得体のしれない不安感と孤独感に胸を締めつけられるような息苦しさを感じた。まるで母子家庭の子供が、仕事に出かける母親の姿を見送ったあとのような、そんな寂しさと孤独感が僕の胸の中に急速に広がっていった。それはさっきまでの紗和と一緒にいることが当たり前だと思っていた光に溢れていた時間をも一瞬にして「孤独」と言う重く暗い色彩で染めていった。紗和は24時間僕の隣にいるわけじゃないことくらい頭ではわかっているんだけど、心が、気持ちが、紗和への愛が、僕を孤独にさせることに気がついた。僕は誰もいない薄暗い玄関にポツリとたたずんでいた。

僕は何かを確かめるように部屋中を歩き回った。寝室、紗和の部屋、バスルーム、広いベランダ・・・なにからなにまで「独り」でいるには広すぎた。落ち着かない。紗和は僕と会うまでは独りでいたんだろうけど、よくこんな「独り」でいることが無駄に感じる部屋で生活をしているもんだ・・・紗和も独りでとても寂しかっただろうに・・・だから僕に出て行かないでと哀願するように「ずっと私のそばにいて!」と何度も繰り返したのだろう。

「独り」でいることに耐えられなくなったから、寂しくなったから、僕を居候させた?それなら納得がいくんだけど・・・それは紗和に聞いてみないとわからない・・・

僕はすっかり定位置になったソファーに腰をかけて、しばらくぼーっとしていた。アタマの中が真っ白になっていたから・・・

煙草の灰が床に落ちていくのも気づかないほどだった。


「孤独」には慣れていたのに・・・この広い部屋が僕を余計に悲しくさせる・・・


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