第24話 紗和を抱けない理由・・・

今どき珍しい女の子だ・・・こんな子が「女優」なんてね・・・まさかこの表情が「演技」だってことはないよな・・・

僕は人の心理を読み取るときは、必ず相手の「目」を見る。笑顔だけど「目」が笑ってないヤツ、ウソをつく時に「目」を逸らすヤツ・・・いろいろみてきたから。リングの上でもそうだった。「目」をみれば対戦相手の気迫が伝わってきたし、ダメージを隠そうとポーカーフェイスをしても、「目」に光がないヤツ、「目」が完全に泳いでいるヤツ・・・ホント、いろいろ学んだよ・・・「目は口ほどにものを言う」、それが嘘じゃないってね。

今の紗和の「目」は、僕を下から恐る恐る覗き込んでいる紗和のその「目」は、ある種の戸惑いの「目」だった。なかなか話を切り出さないので、


「まだ何かあるの?怒らないから言ってよ?」

「・・・うん・・・あのね・・・夕べ、私と一緒に寝たでしょ?」

「うん、それがどうしたの?」

「えっとね・・・なんで・・・一馬クンは・・・私に手を出さなかったの?」

「え?どういう意味?」

「だって、普通の男なら、女とベッドに入ったら、セックスしたがるでしょ?」

「・・・あぁ、そうだね・・・」

「なのに、なんで一馬クンは、私とセックスしようとしなかったの?」


紗和はついに隠していたもう一つの感情をはぎ取って僕にみせた。紗和は僕が手を出さなかったことが不思議でしょうがないようだった。そりゃそうだ。あんな状態なら普通の男ならセックスしたがるよなぁ。紗和に女としての魅力がないわけじゃない。僕は答えに迷った。何て言って紗和を納得させればいいのか、言葉の迷宮の中を歩きながら紗和が納得してくれる答えの出口を探し求めたけど、僕は不覚にも迷宮の行き止まりに辿り着いてしまった。後戻りしている時間なんてなくて、タイムオーバーの鐘が鈍い音をたてて頭の中で鳴り響いた。沈黙する僕に、紗和は怒りを感じたのか、


「・・・私のこと、好きじゃないの?」


紗和が俯きながら僕のカラダを揺さぶる。紗和が珍しくふてくされている。僕は紗和の女をしてのプライドを壊してしまったようだ。だから僕はウソ偽りない言葉で紗和に僕の想いを打ち明けた。僕にとって紗和は「聖母マリア」だと。紗和を汚したくないんだと。

すべてを打ち明けた。紗和の胸の中で眠ることが、どんなに穏やかな気持ちになれるかということも・・・感じたことすべて、一滴も残さず僕は思いのたけを紗和に伝えた。


嵐が、やんだ・・・


「・・・ホントに?」

「ほんとだよ」

「そんな風に私のこと言ってくれた人・・・初めて・・・」

「どうして?」

「だって・・・みんな、みんな男は、私のカラダ目当てだったから・・・いつもむちゃくちゃにされてきたから・・・」


紗和は過去のオトコたちにされてきた酷いことを思い出したのだろうか?紗和の瞳から、悲しみ色の涙が零れ落ちた。僕は紗和に同情してかける言葉が見つからないかわりに紗和を強く抱きしめた。そして紗和のほのかな桃色の唇にそっとキスをした。それに応えるかのように紗和の両腕が僕の首に巻きついて離れなかった・・・

紗和の呼吸と鼓動が僕のカラダに響きわたる・・・


・・・紗和・・・もうそんなつらい思いで泣かなくてもいいからね・・・


紗和が突然、「ヤダッ!」そう叫ぶと紗和は僕のカラダから逃げるように離れた。どうしたんだ?僕はなにかまずいことでもしたのだろうか?紗和の顔をみると、恥ずかしさで真っ赤になっている。一体どうしたんだ?紗和が股間を両手でがっちりと抑え込んでいる。そうしたら僕が訳を聞く前に、

「・・・濡れちゃった・・・もう・・・グショグショ・・・」

僕は何のことだかさっぱりわからなかった。

「またシャワー浴びて、着替えなきゃ!」

きょとんとしている僕にむかって、照れ笑いを浮かべながら紗和が言った。

「オンナってね、大好きなオトコの人とキスしただけでも濡れちゃうんだよ?」

その紗和の言葉を聞いて、僕も急に恥ずかしくなった。そんな僕を置き去りにするかのように紗和は急いで浴室へと走っていった。ますます紗和がAV女優だなんて信じることができなくなっていった。僕はそんな紗和をみて、素直にかわいいと思った。紗和が嘘をついているとは思わなかったけれど、この時ばかりは紗和がAV女優だなんて嘘であって欲しいと心底思った。噓をつかれるのは誰でも嫌なものだけど、そんな噓なら僕は大歓迎だ。でも、今日、紗和のDVDをみて真実をこの目で確かめるんだ・・・


初めて真実を知ることが、これほどまでに「怖い」ことだと初めて思った。観るもよし、観ないもよし、すべては僕次第だ。真実を知ることが怖いなら、知らなければいい、観なければいいだけだ。

僕の手のひらには2枚のカードがある。そのどちらかの1枚は髑髏のジョーカーなのは必至だ。最悪もしかしたらもう1枚のカードも血に飢えた死神のジョーカーかもしれない・・・

僕にこの2枚のカードをめくる勇気があるのか?どちらに転んでも誰のせいでもない、僕にすべてがかかっている・・・逃げるなら今だ。観るか、観ないか・・・重いプレッシャーが僕を容赦なく圧し潰す。そんな錆びついて軋む音を鳴らすシーソーのような自問自答を繰り返していたら、紗和が照れながら下着姿で浴室からでてきた。


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