第23話 スマホのロック番号・・・

男は適当なオンナには簡単に手を出すことができるけど、本当に好きな人、愛している女性にはなかなか手がだせないもんだと思う。僕だけかな?紗和とは遊びでつき合ってるわけじゃないからいい加減な気持ちで簡単には手が出せない。それよりも大事にしたいと言う気持ちの方がはるかに強いから。

いよいよ明日、紗和のイメージが轟音をたてて崩れ落ちていく日になるのかもかもしれない。引き返すことのできない茨の道が待っている。 

僕は覚悟を決めて紗和のDVDを観る決心をした。正直、「怖いもの見たさ」と言う好奇心は膨張することをやめずに僕の胸の中で「欲望」へとカタチを変えて、僕の本能を衝動的に動かしてゆく。もしかしたら紗和のDVDは僕にとって「パンドラの箱」なのかもしれない。正直言って僕は紗和にAV界から足を洗って欲しかった。愛する紗和が他のオトコたちに弄ばれている姿を観るなんて耐えられる訳がない。僕が紗和のDVDを見た時、つまり僕がその「パンドラの箱」を開けてしまった時、僕は嫉妬や苦悩、葛藤が僕の胸を絞めつけにくるだろう。僕の中で紗和を見る目が変わり、紗和と交わした約束を破ってしまうかもしれない。どんな災難が降り注ぐかわからない恐怖心もある。世の中、知らない方がいいこともたくさんある。果たして「パンドラの箱」と化した紗和、いや、「山咲みどり」のDVDはまだ何も知らないこの僕にどんな災難となって降りかかってくるのだろうか?僕は嫉妬や苦悩の業火にこの身が灰になるまで焼き尽くされてしまうのだろうか?世の中知らない方がいいことが多すぎるほどある。僕はそれでも紗和のDVDを観ると決めている。

でも、それは「勇気」などではなく「好奇心」が僕をそうするように仕向けるからだ。

「好奇心」とは字面はいいが重力のような強大な引力でその対象の「ココロ」を引き寄せ、そしてその一線を越えたが最後、人を絶望の淵に追いやる厄介なシロモノじゃないかって、僕はそう思うんだ・・・だって、こんなシーンを映画やドラマで見たことがあるだろ?


A「本当に知っても後悔しないんだな?」

B「あぁ、大丈夫だ!どうしても教えて欲しいんだ!」

A「そこまで言うなら・・・わかったよ・・・教えてやろう」


そして真実を知ってしまったその人間達のお決まりのセリフが、


B「こんなことなら知らなかった方がよかったっ!」


頭を地面に擦りつけて嗚咽を漏らす愚か者「B」。きっと僕も「この世界」に引き込まれてゆくだろう。そうなることをわかりつつも、僕の気持ちは踵を返すことができなくなっていた。僕もこんな「B」のような愚か者のひとりになるのだろうか?明日、その答えがでるんだ・・・



「もうっ!うるっさいなぁ!」何かが鳴ってる音で私は目を覚ました。時計を見るとまだ朝の6時じゃない!私は眠い目をこすりながらその「音」の正体を探した。すると・・・一馬クンのスマホの音だった。


まさか、一馬クンの「元カノ」さんから?


 私は鳴りやまない彼のスマホを手に取り、恐る恐る画面を見てみると・・・

なぁんだぁ、ただの目覚ましのアラームかぁ・・・緊張してソンしたわ・・・でも、なんでこんな朝の6時になんてセットしてるんだろ?一馬クン、仕事もしてないし・・・それにしても、よく寝てるなぁ・・・やだ、不精ヒゲがけっこう伸びてる!髭剃り買ってきてあげないと!そう思った時、私はもう一度彼のスマホに目を向けた。それは誰もが持っている「秘密の箱」。


いったい、どんなデータがはいってるんだろう?男の子だから、やっぱりエッチな画像は当然あるわよねぇ・・・

どれだけの女性のメアドや電話番号がはいっているんだろう?

 不思議なもので、人を好きになるとその人の全てが知りたくなるよね?趣味とか、服装とか、女性のタイプとか・・・

そんなお宝情報がスマホにはたくさん入ってる。かく言う私も誰にも見られたくない「秘密」がいっぱいはいってるし。とても一馬クンにはみせられないよ。浮気相手とかそういうやましいものじぁないけど、女性はみんな彼氏には知られたくない、観られたくない「秘密」を持ってる。そうだよね?でも、私は一馬クンのスマホの中身が気になって気になってしかたなかった!一馬クンはまだまだ起きなさそうだし・・・

ちょっと見てみちゃおうかな?あ~やっぱりロックかかってるかぁ、当然だよねぇ・・・しかも6ケタも!わかるわけないじゃない!なんでこんなものつけたのよ!ガラケーにはついてなかったじゃない!がっかりだわ!好きな人のことなら、どんな些細なことでもいいから知りたいと思うでしょ?この「秘密の扉」がそれを邪魔してる!

まぁ、一馬クンにはやましい「秘密」はないと思うけどさ、隠し事をしているつもりはないのはわかってはいるんだけど、なんかフクザツな気分だわ・・・

私はスマホを諦めて、シャワーを済ますといつものようにコーヒーを淹れた。昨日買ったパンを2つ食べて朝食を済ませたけど、一馬クンはまだ起きてこない。もう9時をとっくに過ぎてるのに。ベッドで一馬クンが寝ていて、私のそばにいつもいてくれるのは嬉しいけど・・・やっぱり私と一緒に起きて、


「おはよう!」


なんて言いあえたら最高なんだけどなぁ・・・それにしても、寝坊助さんすぎない?ベッドで死んだように眠っている一馬クンのほっぺたをつついてみた。かわいい寝顔なんだけど、なんの反応もない。つまんないの・・・あ、でも、やっぱりちょっとオヤジ臭いかも!いくら若く見えても46だもんね、私のお父さんとさほど年齢も変わらないし。

お~い!もう朝ですよ~!

そう言えば昨晩、一馬クンは私を抱いてくれなかった。そんなオトコは初めて・・・

酷いときは部屋に入れた瞬間に襲われたこともあったのに・・・

どうしてだろう?オトコゴコロってわかんないものね・・・

私は一馬クンの横に寝そべって、ほっぺたを指でツンツンと何度もつついて彼が起きるのを待っていた。ツンツン・・・ツンツン・・・



目覚めのいい僕の目に映ったのは、退屈そうに頬を膨らませている紗和の顔だった。

僕が、「もう起きてたの?早いね、おはよう」そう言うと紗和は、「もう9時半になっちゃうよ?」と、時計を指さしている。


「あぁ、ごめんごめん、今起きるから」

「コーヒー飲むでしょ?」

「うん、アイスでね。それにしても、今朝はなんか冷えない?」

「そうだね、もう12月になったからね」


僕がなかなか起きないせいで退屈して機嫌を悪くしていた紗和がいつもの笑顔で言った。紗和の笑顔をみると落ち着くなぁ・・・


「もうすっかり冬だなぁ」

「うん、季節の変わり目だから風邪ひかないようにね!」

「紗和もね」


僕はソファーに座りながら、紗和が持ってきてくれた淹れたてのコーヒーを味わって飲んだ。グラスをテーブルに置くと、荷物の中から薬を取り出して飲んだ。もう10年以上これが朝の日課になっている。慣れたというより、もうウンザリだ。でも、薬を飲まないとまともな生活を送れない自分がイヤになる。あ、そう言えば、いつもはスマホのタイマーを6時にセットしていて起きたらすぐに薬を飲むんだけど、今日は鳴らなかったのかな?僕はスマホを手に取ると、アラームが止められていたことに気がついた。すると紗和が、


「それさぁ、朝6時に鳴ったんだよ?」

「え?」

「もううるさくてさ、目が覚めちゃったよ!」

「あぁ、ごめんごめん」

「一馬クンって、いつもそんなに早くに起きてるの?」

「うん、夜は薬の効きが悪くてさ・・・薬が効いているうちに寝るから」

「じゃ、いつもは早寝早起きなの?」

「そうだね。でも、昨日はだいぶ疲れてたみたいでさ、今朝は起きられなかったよ」

「変わりに私が起きちゃったんだけど?」

「だから、ごめんってば」

「いいけどさ。それより、お薬はもう飲んだの?」

「さっき飲んだよ」

「ならよかった」


紗和は機嫌よく僕の隣にちょこんと座った。朝起きてからシャワーを浴びたんだろう、シャンプーのいい香りがした。紗和らしい少し甘めの優しい香りだった。毎朝こんな感じだったら今度から朝のコーヒーには砂糖をいれてもらって甘くしてもらおう。その方が紗和の香りでコーヒーの味が引き立つような気がしたから。そう思いながらコーヒーを飲み干すと、紗和がなにか言いたげな顔をして僕の顔をじっとみている。今度はいったい何だろう?


「どうかしたの?」

「えっとね、あのね・・・」

「もじもじするなんて紗和らしくないな?はっきり言いなよ?」

「あのね・・・今朝ね・・・その・・・一馬クンのスマホ・・・見ようとしたの・・・」

「あっそう・・・それで?」

「でね、ロック掛かってたから・・・見られなかったの・・・」

「ふ~ん。僕のスマホ、のぞき見しようとしたの?」

「うん・・・」

「なんで?」

「だって・・・見たかったんだもん・・・」

「なんだ、そんなことか・・・」

「怒ってる?」

「怒ってなんかないよ。見たいならそう言えばいいのに」

「だって・・・普通の人は中身なんて見せたがらないでしょ?」

「ロック解除は470715だよ」

「えっ?」

「だから、僕のスマホの暗証番号だよ、見てもいいよ?」

「え?え?ホントにいいの?」

「うん、別に大したものは入ってないから」


私は彼からスマホを受け取ると、教えられた番号を半信半疑のまま指でひとつひとつつついてみた。そうしたら一馬クンが言うとおりロックが解除されて画面が映った!こんなに簡単に人にスマホ見せる人なんていないよね?でも一馬クンはウソつかなかった。その6ケタの番号は一馬クンの和暦の誕生日だよと教えてくれた。


「ね、ね!写真とかもみてもいい?」

「いいけど、オトコばっかだよ?」

「わっ!ほんとだ!たっくさんいるね~!お友達多いね!」

「みんなボクサー仲間だよ。ほとんどがOB会の写真ばかり」

「これは?このワンちゃんは?」

「それは実家で飼ってるワンコだよ、かわいいでしょ?」

「うん、かわいい~!」

「でも、すごい人見知りするんだよね」

「そうなの?だっこしてみたいなぁ」

「機会があったらね」

「ほんと?約束だよ!」

「うん、いいよ」


 すると再び紗和の顔が、タロットカードをめくったように笑顔から不安な表情に変わった。まだ何かあるのかな?今気がついたけど、紗和は感情が顔に出やすくてわかりやすいタイプだな・・・


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