第15話 セックスへの覚醒・・・

あの時、薄暗い横浜の裏路地で見かけた一馬クンが寂しそうに見えたのは、そう言うことだったのね・・・

あの時の一馬クンは今にも寂しさや苦しみに圧し潰されてしまいそうなほど儚くて、今にも人間として壊れていってしまいそうだったから私は放っておけなかった。私があと1分でもあの裏路地を通るのが遅かったら、きっと一馬クンはあのヤクの密売人からクスリを受け取っていたかもしれない・・・間に合ってほんとによかった・・・

一馬クンは寂しくて、そして純粋な優しい人。私が守ってあげなきゃいけない人。そう私に思わせる人。そこには理由なんてない。あえて言うなら私の母性本能がそうさせる人。だから一馬クンがウチから出て行こうとした時、私の元から離れて行ってしまいそうになった時、とても大事な人が私の目の前から失われていく喪失感が怖かったの。だから私は出て行こうとする一馬クンに抱きついてまで出ていくのを拒んだの。

人波溢れる横浜の片隅での必然的な出会い・・・今の一馬クンは迷える子羊・・・さっき一馬クンは自分のことを「ずるくて汚くて最低なオトコ」って言ったけど、人はみんなそんなもんだよ?一馬クンだけじゃないよ?私だって、誰だってそう・・・

自分でそのことを自覚しているだけでも、きちんと自分の心と直面して生きている証拠だよ?みんな、そんな弱い自分から目を背けて、自分を隠しながら生きているんだから。 

もちろん強い人だっているよ?でもね、それはみんなよりちょっとだけ強いだけ。

人の強さ弱さなんて、どんぐりの背比べみたいなもんだよ・・・だから、自分のことをそんな風に卑下したりしないで・・・私も・・・悲しくなるから・・・

私だって汚い人間だよ?今の私に言い寄ってくる男なんて、私のカラダかお金目当てで近寄ってきて、調子のいい言葉を並べるだけなんだから・・・

私が・・・汚らわしい女だと思われるかもしれないけど、こんな汚い女になったのは、大学入学のために田舎の山形から引っ越してきて3か月したころだったの。私の人生が180度変わってしまった話・・・長くなるけど、聞いてくれるかな?


私は山形の高校にいた時に、仲のいい男友達から突然告白されたの。

「お前の笑顔が大好きだっ!俺とつきあってくれっ!」

ってね。ずっと「友達」だと思っていた人から、思いもよらない告白にびっくりして戸惑ったけど、彼の純粋さと優しさが好きだったから、ちょっと考えてからOKしてつきあうことになったの・・・その彼に、私の大事なものを捧げて、私は「オンナ」になった・・・


でもね、卒業してから私たちは運命の交差点を渡ることになったの。彼は地元で就職、私は進学で東京へ・・・そう、私たちはそのまま「遠距離恋愛」になったの。初めは彼が「必ず迎えに行くからまっていてくれ!」って言ってくれたから、私はなんの疑いも不安も迷いもなく彼のことを信じてたんだよ。でもね、時間が流れていくにしたがって毎日のようにくれていた電話やメールが日を追うごとに少なくなっていってさ、2か月もしない頃だったかなぁ?もう彼からの連絡がなくなってしまったの。心配になった私がそんな彼に電話したらね、彼、何て言ったと思う?『彼女』ができたから別れてくれって・・・

ずっと私は彼のこと信じていたのに・・・すべてを捧げて、ずっと一緒にいられると思ったのに・・・私は夢見がちな子どもだったのね。2人の小指をつないでいた「赤い糸」は、私の胸の中でプツリと音を立てて、いとも簡単にちぎれてしまったの・・・

私の、初めての失恋だった・・・ここまではよくある話なんだけどね。

そして私は泣き続けた・・・毎日、毎日・・・それからかな?私の人生が変わっていってマネキンのようにただ偽りの笑顔をまとった「今の私」ができたのは・・・

うん、そうだわ、きっと、それからだった・・・

孤独で寂しい気持ちをお守りのように肌身離さず過ごす毎日になったの。都会の中ではそんな傷を負った私に声をかけてくる男どもがハイエナのようにたくさん近寄ってきた。すぐ私のカラダ目当てだってわかったけど、冷たい雪のように積もり積もった寂しさと孤独感を拭い去ることができるなら・・・と、私はそんな男たちについて行った・・・

「独り」でいる寂しさから逃げるために・・・

飲みにいったら、いきなりキスされてり・・・無理やりホテルに連れて行かれたけど、

私は逃げようとしなかった・・・その時の私はもうすでに自暴自棄になっていたから・・・

だから・・・壊れるくらいめちゃくちゃにされたかったの。そして私はそんな男たちにいいように弄ばれ、オモチャにされた。もちろんナンパもされたよ。その頃から、私のカラダを求めるオトコたちからはホテル代とは別に2万円貰っていたの。インスタントの売春って感じかな?セックスをしている時だけは私を押しつぶす寂しさと孤独感から解放されるのを知ってしまったから。しかもお金まで貰う、そんな汚いオンナになったの。

「一石二鳥」でしょ?まぁ、お金はしょせんあぶく銭だからどうでもよかったんだけどね。こうしてセックスに依存する女になったの・・・ね、私も汚くて弱い人間でしょ?


セックスは私の寂しさと孤独を埋めてくれる「麻薬」・・・・

こんな私のこと、幻滅してキライになったかな・・・?


そんな私にもセックスに対して精神的な余裕ができたころだった。いろんな男たちに動物園の動物が芸を仕込まれるように、いろんなセックスの体位とか、男性はどこをどうすれば気持ちよくなるのだとかいろいろとたくさん調教されていった。お陰で「オトコ」を気持ちよくさせる方法をたくさん覚えたし、気がついたら関係を持ったオトコの人達からもらった僅かなお金がたくさん貯まっていったし、寂しさや孤独感を感じることがなくなったの。

でもその反動で、「独り」でウチにいると静かな夜が寂しすぎて急に人肌が恋しくなった時は、街角の片隅に立っていればすぐにセックスに飢えたオトコたちが寄ってくる。そして私はオトコたちからあぶく銭を貰うとホテルに連れて行ってもらって、セックスにすがるように溺れていったんだ・・・

その頃の私は何よりも「独り」でいること、つまり「孤独」が一番怖いものになっていたの。だから、そんな「孤独」の谷底に突き落とされるくらいなら、初対面の人でもまったく抵抗なくセックスを楽しんで、「孤独」から逃げていたんだ・・・あの全身が痺れるような快感の虜になってしまったの・・・

ほんと、セックスって「麻薬」だよね・・・私のスマホの電話帳はみるみるうちにいろんなオトコたちの名前でいっぱいになっていった。だって、どんなオトコも寂しくなってセックスしたくなったら、すぐにお金を持って私のもとへ飛んできてくれるんだもん・・・


人間って・・・オトコもオンナも、結局は同じ汚れた動物ね・・・


素直にそう感じたわ・・・もちろん私自身も狂おしいほどの「動物」だってこと、ちゃんと自覚してたんだよ・・・


もう開かれた「快楽」への道は私の目の前に広がっていたの・・・

どこまでも果てしなく・・・ただひたすら真っ直ぐに・・・

ゴールのないその道を私は全速力で走り続けていった・・・

立ち止まることなく、「孤独」から逃げるために、必死に、ただ真っ直ぐに!


私のセックスへの欲望は私の理性では制御不能で、少しでも寂しさや孤独感と言った黒いヴェールに全身を包まれそうになると、すぐに可愛いお洋服に着替えて、メイクを極めてオトコを誘う様な仕草をして、声をかけてきたオトコとセックスに溺れていった・・・まさにセックスへの「覚醒」ね・・・一度覚えたその甘い蜜の味を知ってしまったら、私の欲望はさらに激しい刺激を求め始めて、いっそう加速していったんだ・・・

誰かに「壊される」ことを望んでいたのかもね、私自身の存在そのものを。自分でも「ヤバイ!」と思ったけど、やめることはできなかったんだ・・・


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